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自宅への帰途の途中、花沢は歩きながら考えていた。
スクープに告白した。けれどあれは本心ではなく、あくまでゲームクリアのためにした偽りの告白だ。かと言って偽りではない本心からの告白はできない。何故なら自分にはスクープを好いているという自覚症状がないからだ。
あくまでも部下として、同僚として、パートナーとして愛情を持って接しているだけで、やはり恋仲に発展するのは現段階では難しいと思うし、その気もごく薄い。この辺は壮絶なギャルゲーを経験しても変わらなかった。
が、クリアした直後だからか、こんな思いがある――もとい、スクープの泣きっ面を見た直後だから、こんな思いが芽生えた。
名前を呼んだだけであんなに喜ぶということが分かったし、一回くらい、自分も勇気を振り絞ってリアルのスクープを名前で呼んでやってもいいかもしれない、と。
「そういえば写真……」
告白直後に無理やり撮ったあの写真は残っているだろうか? 花沢はリアライターを操作して有無を確かめる。
あった。
学生姿の花沢とスクープが賑やかに映っている写真が残っていた。冷静になった今になって見たら、学生コスにしか見えない。花沢はクスッと笑った後、この写真の処遇を考えたが、残しておくのも気持ち悪かったので消去してしまった。
何、行こうと思えばいつだって行けるのだ。セインツロックのあの木へ行って、手を当てたらきっとまた行ける。そのときに写真を撮ればいいし、あるいは今度本当に二人で学生コスをしてみるのもいいかもしれない。
事務所兼自宅のアパートに着く。階段を上がって二階にある自室の前へ行き、インターホンを押した。すると中からどたどたという慌ただしい音がした。そして、そう待たない内にドアが開いた。
「どこ行ってたんですか、もう朝ですよ!?」
テンションとまだ覇気の残っている顔からして、まだ起きていたらしい。花沢もまさかこんなところから本物を実感するとは思いもしなかった。自然と笑みがこぼれる。
「ちょっ、何笑ってるんですか。近所迷惑もいいところですし、さっさと中へ」
「一回しか言わないから耳かっぽじってよく聞いとけ」
本番さならの予行練習は済ませた。不安や躊躇いはなく、今なら何度だってその名を呼べる気がした。
早朝帰宅の挨拶も添えて、花沢は言う。
「ただいま、愛衣」
途端にスクープは意表を突かれたみたいにきょとんとしたが、すぐに柔らかな笑顔を浮かべ、家出していた息子を温かく迎えるような調子でこう返した。
「……おかえり、NHK」




