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パパラッチはぶっちゃけない  作者: 設楽 素敵
第二話 極楽! 飲んで楽しい湯気物語
10/22

5

 カランッ、という箸が落ちる音が続いた。

 毛布を取り除いて夏仕様になった炬燵テーブルの周りに座る花沢、スクープ、ポンはあんぐりと開口して、そのまま固まった状態で緊急速報と銘打たれた朝の報道番組に見入る。

『――というわけで、今回セインツロックの岩石地帯内で発見された謎の新地帯ですが、一部ではセインツロックの知的生命体によるものだという説が噴出しています。現在、大勢のパパラッチがセインツロックに押し寄せていますが、現段階で決定的な証拠を掴むには至っていないとのことです』

 現地に映像が切り替わる。中年の眼鏡男は落ち着いた話し口でこの度発見された各施設を回っていく。

『あちらご覧ください。突然の大地の隆起によって、これまで観測されていなかった大きな活火山が出現しました。標高は日本の富士に並ぶとも言われており、山頂付近の銀嶺も含めまさしく絶景です。とてもここ数日で出来上がったとは思えませんねぇ。では次に、麓に沸いている温泉へと移動してみましょうか』

 セインツロック富士を一望できる離れた岩場の高台からバンで移動。徐々に距離が詰まり、遠くからだとポツンという印象しかなかった麓の窪みが、実寸だとかなりでかいことが明らかになる。

『この窪み、目測ですが、面積はテニスコートがまるごと収まるくらいあるのではないでしょうか。静かな波を打つ温泉の水温は入浴にはもってこいの適温と言えるでしょう。んー、しかしもったいないですよね。山に近過ぎるせいで、見上げると首が痛いのなんの。この温泉に入浴したまま山の景色を楽しむのは難しいでしょう』

「あいつ……」

 花沢は薄々どころか、くっきりと明瞭に犯人の目星がついていた。同様にスクープもポン子も、脳裏に一人の浴衣美人を思い浮かべていた。

『さらにこちら、湯船をすぐ出たところにある立方体の部屋。調査隊によるとただ暑いだけの部屋ということですが、恐らくこれはサウナなのではないか、と言われております』

 意外と政府のお偉方もリスキーな真似をするらしい。

『見てください、少し離れてはいますが見えますでしょうか、長い長い滑り台のような施設が。有名遊園地の名物ジェットコースターの最初の下降線路に匹敵する角度で、とてもアレで子供を遊ばせようという気にはなりません。それから他にも致死量の電流が走る電気風呂など、指を点けたら骨折が完治した超絶効能風呂が発見されています』

 キャスターは苦笑いしつつ次の天に浮く岩の温泉や、温泉近くの洞窟で発見された金々に輝く部屋、その中に生えていたうねうねと動く触手持ちの植物などを紹介した。

『ああ、あとこの洞窟内のある場所に紅茶のお風呂があるのですが、そこは現在立ち入り禁止となっているそうです。なんでも温泉で頭に載せるようなタオルが発見されたとかどうとかで……。もしかしたら、セインツロックの先住民の忘れ物かもしれませんね。近々この忘れを取りに戻ってやってくるかもしれません――そのとき、私たち人類は彼らと友好的な関係を築けるのでしょうか。高まる未来への期待、早く訪れてほしいものです』

 綺麗にまとめたキャスターは最後に手を振って、画面がスタジオに戻った。

 有名大学の教授を謳う初老の爺さんたちが不毛な議論を展開し始めたので、花沢はテレビを消した。冷たくなった納豆ごはんを一口運んで、ゆっくり咀嚼して飲み込んでから口を開いた。

「お前らやり過ぎ」

「すまんポン」

 後日、この温泉地帯はポン子から怒られたポン美によって、一晩のうちに消滅した。


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