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勘違い娘の話


 魔神さまによる、両種族の有効かつ友好の架け橋の為の、魔神による政略結婚。

 この魔神さまの以下略結婚がスタートしたきっかけは、『魔神さまのおうち引きこもり事件』でした。

 その事件は後世では、『冥府出入口封鎖事件』と訂正されました。

 さすがに、今となっては伝統もある魔神さまの以下略結婚のきっかけが……ねぇ、『魔神さま以下略こもり事件』て名前だなんて、メンツがつぶれますよ。みんながっかりです。魔神さま信仰がマイナス、もうどん底になること間違いなしです!

 その以前に、そんな名前嫌ですものね! 後世のためにも、事件の改名(解明ではないですよ!)は英断でしたね!

 ――そしてそして、ですね。

 この魔神さま以下略こもり事件、別の事象にばっちりみっちりきっちりと影響を与えました。

 ――何に影響を与えたか、といいますと。


「ルーラメリーお義母ざまああ、ただいま戻りまじたあ!」


 ケルニー家の領地のとある永久凍土の大地に、真ん丸に穿たれた穴がありました。直径は、身の丈天の雲を貫くほどのある巨人の親指の爪サイズだそうです(住人談)。一言でいえば二メートル弱くらいですかね〜。

 ここの穴で、ある種族のあるいち家族が生活を営んでおりました。

 ――『生』活というより、『死』活でしょうか。


「エリーメリーざん、声量は淑女らしく抑えなざい」


 穴の中は、壁も天井も床も装飾さえすべて氷でできた世界でした。磨き抜かれ、きらきらと姿見の表面のように輝く氷に包まれた空間は、まさしく氷のミラーハウスでした。

 その氷のミラーハウスにて、氷の大きな立派な椅子に優雅に座る喪服の女性と、先ほどまでケルニー家の三男坊に迫っていた勘違いレベルカンスト令嬢が向かい合っていました。


「でも、昔のよーに舌が上手ぐまわりまぜんの。喉もうまぐ動かないのでずわ」


 勘違いレベルカンスト令嬢が肩を竦めようとし――べきんと、首の付け根から、雪の白さとはまた別の白さを持つものが飛び出ました。


「あらいやだ。わだしとしだ事が」

「エリーメリーざん、お骨は常に隠じなさい、あれほど言っだでじょう。お骨と内臓をいかに出ざないように優雅に振る舞うかが、あたぐしたちの一族の礼儀でずわよ」


 彼女たちこそ、魔神さまの以下略結婚の影響により生まれた種族――アンデッドでした。

 アンデッドは、魔神さまの引きこもりによって誕生した新しい魔族のいち種族です。魔神さまが冥府の岩の戸を閉めちゃって、逝き場をなくした魂が、生命活動を停止した肉体に逆戻りをせざるを得なくなったことで、誕生しちゃったわけですね。

 魔神さまの引きこもりで最初に誕生したアンデッドは、始源のアンデッドと呼ばれます。

 喪服を着た、勘違いレベルカンスト令嬢に『ルーラメリーお義母ざま』と呼ばれた女性こそ、その始源のアンデッドのひとりなわけです。

 そして、彼女に『エリーメリーざん』と呼ばれた勘違いレベルカンスト令嬢は、彼女の義娘にあたるわけです。

 アンデッドは、始源のアンデッドが生者を襲ったり、死体を仲間に入れたりして増えていきます。このとき、襲ったアンデッド側は親、襲われて仲間入りしたアンデッドは子となり、彼らの間にはアンデッド的親子関係が発生するんですね。

 つまり勘違いレベルカンスト令嬢ことエリーメリーは、ルーラメリーの義娘のアンデッド、となりますね。


「お義母ざま。またてゅリオスさまとおはなじが出来まぜんでしだわ」


 はみ出てしまった骨をなおしつつ、エリーメリーはルーラメリーに報告します。


「ぁら、また?」

「でも、いつかわぎちんとおはじが出来るとぎがきますわ。だって、てゅリオスさまわ、わだしの運命の殿方でずもの!」


 濁った目をギラギラと輝かせて、エリーメリーはうっとりと夢心地な表情を浮かべました。そのまま白目をむき、エリーメリーはぐふふっと笑いました。


「あなた、一年前までは別の殿方が運命の殿方と言っでたではありまぜんの?」


 ルーラメリーは、にたにた笑う義娘にかはぁと溜め息をつきながら突っ込みました。

 はぁ、ではなく、かはぁ、です。ここ重要です、さん、はい、かはぁ! です。

 ――まあ、溜め息の擬音はともかく。

 ルーラメリーは最初のアンデッドですので、つまりとってえーーーも、長生きならぬ長死になわけです。そろそろ体がガタが色々と来ちゃっているわけです。ほら、生きていて年をとると色々とガタが来るでしょう、アレですアレ。


「あの方わ、わだしの運命でわなかっだのでずわ。だって、わだしの接吻で逝ったまま黄泉帰らなかっだんでずもの!」


 前向きで楽天家すぎるエリーメリーは、さらっと義母の突っ込みを流しました。まるで某魔神さまを彷彿とさせる「右から左へ聞き流す」ですね!


「ぁら、接吻に耐えられないくらい弱かっだの?」


 ルーラメリーたちアンデッドは、対象へ接吻なり噛みつきなりを施し、自身の血や涙などの体液を対象の体内へ流し込むことで、対象をアンデッドに変化させるのです。

 接吻はアンデッド化させられる非常に手っ取り早い手段なわけですね。文字通り死の接吻なわけですね!

 その死の接吻、受けた対象が必ずアンデッドになるとは限りません。死にたてホヤホヤの遺体なら可能性は高いそうですが、生きているならば、そのまま黄泉帰らずに逝っちゃったままはいサイナラ〜だそうです。

 エリーメリーのいうところの運命ではなかった相手は、エリーメリーの死の接吻を受けたものの、そのまま黄泉帰らずに逝っちゃったままサイナラしたみたいですね。立派な殺魔族事件です!


「きっど、彼女のわだしへの愛が足らなかっだのでずわ! てゅリオスざまならば、きっど、きっど、きっど大丈夫でずわ」


 いえ、きっと愛ではなく恐怖しかなかったと思われます。アンデッドに襲われる、それはホラーに違いありません!


「……………………………、殿方ではなかったの」


 ルーラメリーは思わず突っ込みました。長生きならぬ長死になので、突っ込むまで間があいたのはご愛敬、そんなルーラメリーの突っ込みは、驚きと呆れのあまり滑舌が生前の頃のようによくなりました。

 エリーメリーはやはりさらっと義母の突っ込みを流し、ぐっと拳を握りました。

 ……エリーメリーはどうやら性別問わずに運命を感じる(おそらく一方通行)ようです……そして相手が逝っちゃったままサイナラ、なんて無差別なんでしょう!

 生きていたならば、鼻息荒く、熱く煮えたぎる闘志で顔を赤くしている場面なのでしょう。

 しかしそこは、アンデッド。既に生命活動を終えていますので、赤くなることも荒い鼻息が出ることもありません。

 だからこそ、恋情を向ける生きた殿方に、自身の恋情を気づいてもらえずにいるとは……きっど、いえきっと、エリーメリーは気づいてはいやしないのでしょう。

 ――そして、既に生命活動を終えているからこそ、そのことにエリーメリーは、これからも気づかないのでしょう。

 もちろんルーラメリーも気づいてはいやしないのでしょう。

 それが、アンデッドのサガでありました。

 ――ルーラメリーはかつて、黄泉から帰ったときに、愛するあなたの浮気現場を目撃してしまいました。

 浮気現場を(この場合浮気になるんでしょうか、わかりません。)発見したルーラメリーは、生死を越えた新旧の夫婦大喧嘩を勃発させたのです。

 アンデッドたちが誕生した頃は、生きる者、死んだ者たちの織り成す悲喜劇が大量発生いたしました。

 ルーラメリーの生前の旦那さまは、妻を亡くした後、悲しみを支えてくれた女性と再婚したのです。

 しかし、ルーラメリーは気づきませんでした。気づかないまま、彼らを冥府へ旅出させてしまったのです。彼らはアンデッドにはならず、ルーラメリーは彼らが逝っちゃったまま、はいサイナラをしたのです。

 ――理由を、背景を知らないまま、はいサイナラをしてしまったのです。

 アンデッドとなったルーラメリーにちょびっと、生前の理性もしくは冷静さが残されていたら、きっと悲劇は防げました。

 アンデッドたちは、黄泉帰るときに冷静さを、そして踏み止まる理性、生前の生者としての大切な何かを冥府に残してきてしまうようなのです。一度冥府へ下り生者ではなくなった彼らは、冥府の住民には不要なだと捨ててしまったのでしょうか。

 だからこそ。


「ぜーったい、てゅリオスざまは手に入れまずわ!」

「エリーメリーざん、次こそ頑張りなざいね」


 ――彼らは、現実を把握せずに、現状を無視して猪突猛進していくのでした。



 魔神さまによる政略結婚が成婚率百パーセントとは知らずに。


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