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魔女のラプンツェル  作者: 奏白いずも
裏側のラプンツェル
60/63

雇い主は元魔女Sideルエナ

一応、それなりに時間軸順に乗せていこうと思いまして。

ルエナ第二弾でございます。よろしければ、読んでやってくださいませ。

 らしくない。けど、俺らしさとは何だ?

 哲学的なことを論じるつもりはないので、順をおって整理してみようと思う。

 

 ふざけた依頼を達成したら、これまた厄介な依頼を抱えた。

 雇い主は自称元魔女。囚われのお姫様を助けたはずが、なんと自称元魔女で、そのまま依頼人に納まられた。

 白髪だし、てっきりそれなりの年齢かと思えば外見通りだと怒られた。そんな子どもっぽい仕草からも、事実だとすんなりと信じることが出来たのかもしれない。

 けど、俺の手を取り『ミラの名にかけて、メルデリッタは命ある限り約束を違わぬと誓う』と宣言する彼女は別人のように堂々としていた。俺はこの顔を知っている。全てをかける覚悟を決めた強い瞳、そしてこの誓いは――

 メルが魔女に戻るための手助けを、そして魔女に戻った彼女が俺の望みを叶える。そういう契約を結んだ。結んでも良いと思えるに値する相手だったからね。


 すると、不意打ちのように嬉しそうだと指摘される。そういえば、柄にもなく声が弾んでいるのか?

 一つ仕事を終えて暇だったし、難易度の高い仕事は嫌いじゃない。楽しませてくれる可能性があると告げておいたが……

 でも本当にそれだけなのか?

 自問すると、明らかにそれだけではない感情がある。その頃にはもう、彼女の表情から目を逸らせなくなっていたのだから。

 汚れのない白髪に添えられる純粋な甘いピンクの瞳。悪役の定番である魔女とは思えないような子。

 俺の知っている魔女とも全く違っていたので驚いた。あの人は自分本位で我儘で不遜で、いつだって俺を振りまわして……。考えるのはよそう、疲労が増す。

 とにかく雇い主の元魔女は魔女らしくない。でも興味を引きつける存在だった。


 ――て、だからそんなの俺らしくないんだよ!


 何故、目が逸らせない? 彼女に非はないとしても、ペースを乱されているようで気に入らない。いっそ離れてしまえば戸惑うこともないだろう。

 ……半ば自棄になっていたんだ。引き止めてくれた彼女に感謝したい。結果的に、傍にいられる立場を得られてよかったと思う。光合成のように光を浴びる彼女のを眺めながら、そんなことを考えていた。


 そんなわけで、俺はメルに追いかけられている。慎重に足を運んでいるせいか、俺との距離は常に開いていた。時折様子を見ては、少し歩幅を落として歩いてやる。するとまた彼女との距離は一定になって、どこまでもその繰り返し。

 塔入りのお嬢様は意外にも根性があり、どんなに遅れても必ず追いついてくる。弱音も吐かず、不満も口にしない。どころか差し出した手すら握ろうとしなかった。何に遠慮しているのかまったくわからないのに、それでいてわかりやすい表情をコロコロ浮かべるんだ。


 どう頑張ったところで、一日で辿り着けるよう経路ではない。一人なら強攻することも可能だが、手近なところで休むべきだと判断した。明らかに疲労困憊の色が強いメルを置いて、食事になりそうなものを探す。

 戻ってみると彼女は兎と戯れていた。新たな食材確保に意欲を見せると怒られてしまった。そんなに慌てて庇わなくても、いきなり手を出したりしないのに。

 兎の表情は何一つ変わっていない。そもそも兎に表情なんてあるはずもない。それなのに『ざまあみろ』とでも言われているような、この感覚はなんだ? 翡翠の瞳をした兎は何故だか見ていてイライラする。

 とはいえ彼女の希望を優先しよう。兎相手に逆恨みしたところで仕方がないと、残念ながら短刀をしまうことにした。

 俺は兎との疎通を放棄したが、メルは動物相手に話しかけている。そういえば魔女は動物と話が出来たか。もしメルが魔女であったなら、兎の真意が掴めただろう。

 本当に俺を馬鹿にしていたら夕食に並べてやったところだ。哀れな兎の姿を想像していると、その矛先が自分に向いていると誤解したメルは不満を顕わにする。誤解だと説明してもいいが、からかってもいいだろう。

「まあ、その話を信じることにして依頼を受けたのは俺だしね」

 まだ魔女であることを疑っているという意味を含ませれば、さらにメルの不満を煽ったようで、そのままそっぽを向かれてしまう。予想通りの反応がなんともおかしかった。

 そんな問答をしているうちに兎は姿を消していた。


 俺とメルの間では焚き火が揺れている。

 彼女は俺の望みに興味を持っているらしい。でもね、そんなのは本人だって知りたいよ。

 俺は何を望んでいる? 満たされない心は何を願えば満たされる?

 質問するだけしておいて、メルは早々に眠ってしまった。答えられなかったのは俺で、別に責めるつもりもないが。

 炎の向こう側で眠る少女は、時折身じろいでは深い眠りに落ちている。けど、俺は今も答えを探していた。メルは、よほど力には自信があるらしい。たった一度きりのチャンス、彼女に何を求めようか。そればかり考えていた。

 だが、凄腕魔女だったとはいえ現在は元魔女という謎の肩書。つまりはただの人間だ。非力な少女が、初対面の人間を警戒しなくていいのだろうか。

メルは完全に安心しきっているようで、疲れもあるだろうが目を覚ます気配はない。

 俺はメルに雇われた身だし、彼女の望まないこと、不埒な行いをするつもりはない。だけど、出会って間もない男と二人きりで熟睡されるのは複雑にも感じる。だからといって寝不足で疲れを持ちこされても困るが……。やり場のない感情が絡まっていた。


 炎に照らされた彼女の顔、メルは静かに泣いていた。夢の中で、無実の罪でも責められているのだろうか。自分自身を護るように腕を握りしめている。寒さとは違う震えが襲っていた。

 なんとなく気になって……。わざわざ腰を上げて……。涙の滲む目元に触れていた。塔では触れることも躊躇われたが、少しだけ距離が近くなったように思う。それは、小さな優越感だった。

 メルは身じろぎ、その拍子に裾がめくれてしまう。たったそれだけのことで動揺するほど幼くもないが、男の前では緊張感をもてと呆れた。

 結局、俺はメルに外套をかけて元の位置に戻ることにした。


 やってしまった……。

 翌朝、寝ぼけた――と言えなくもない俺は、ちょっとした手違いでメルを押し倒してしまった。傷付けるつもりはない。彼女は護るべき対象なのに、染みついた習慣は簡単に抜けない。

 メルは混乱しているのか、やっとのことで謝罪を口にしていた。けど謝るべきは俺の方だ。彼女は害を成す存在ではない。そんなことが出来るような人間でもないだろう。それなのに何をしている!

 怖がられるかな……。今後、距離を取られてしまうかもしれない。そんな寂しさを覚えた。

 けど、彼女はどうやらこんな俺を信じているらしい。しかも寂しそう、だって? 

 気にくわないのは彼女の気遣いではない。でもこれ以上見透かされるのは悔しくて、何となく話題を逸らすことに成功した。

 ここは俺の勝ちだよメル。そんな思いを込めて見つめれば『負けて悔しい』という敗者独特の表情を浮かべていた。虚勢を張って外套を突き返すメルは微笑ましく、初日の野宿を終える頃には、向かいではなく隣に居たいと思うようになっていた。


 穏やかな旅も、やがて終りが訪れる。けど、ここからが本当の始まりと言うべきか。

 西の国に着いて、ひとまずどこへ連れていこうか悩む。仕事上の相手ならば三番目……いや、マイスがとやかくうるさいので却下。

 すぐに依頼が達成されるとも限らない、仕切り直すにしても休む場所が必要か。となれば――

 迷った末に出した結論が二番目だ。あそこは気の良い親子に任せている。母親のイザベラは家事に熱心で、その娘もまだ拙いながら真摯に取り組んでいた。仕事ぶりは文句のつけようがなく、彼女たちなら世話を焼いてくれるだろう。


 イザベラが出てきてくれたのは好都合だった。戸惑うメルをどうにか任せて、久しぶりに二番目の我が家の階段を上る。俺が相手をするよりもイザベラの方が上手くやるだろうし、女性同士の方が打ち解け易いだろう。

 ただ、余計な詮索を受けていなければいいが……

 彼女は『俺の大切な人』ということになっている。何も間違ってはいないし、そう告げておけばないがしろにされることもないという判断だ。しかし、仕事について口止めするのを忘れていた。ここで戻って、イザベラに聞かれるのもまずい。

 口止めは明日の朝一番にすることにして、俺も長旅の疲れを癒すことにした。


 また、俺は眠る彼女を眺めている。もう、何度目か――

 寝心地は悪くないようで穏やかな表情をしていた。今日は泣いてはいないようで安堵する。自らの庇護下に居るのだ、この感情は当然のこと。自分の家で眠られて、泣かれていてはたまらない。仕事に対する意識の問題そのはずだ。彼女が魔女に戻るその日まで手助けするのが役目なのだから。

 目覚めた彼女は盛大に驚いていた。起き抜けに人の顔があれば当然だろう。とはいえ叫ばれても周囲に迷惑なので口を塞ぐ。物わかりの良い彼女に感謝していると――色々誤解されてしまった。

 慌て蓋めくメルを眺めているのも面白いものだ。そんな彼女を見ていると、誤解を解くのも面倒だし、いっそ勝手にさせておこうと達観していた。その手の誤解は度々訪ねてくるあの人で慣れている。


 ……俺はもしかすると、誤解も悪くないと思っているのか? むしろ、状況を楽しんでいる?


 メルは一緒に来たいといったが、部下――とりわけマイスには見られたくなかった。イザベラとアンは仕方がない、その必要性がある。でもマイスは違う。

 あいつ、いちいちうるさいからな。彼女を見せてやるのも癪だった。


 ……まて、これは独り占めしておきたいという欲なのか?


 どれも深く考えるのはやめておこう。それは今すべきことではない。まずは文句のない仕事をしてこよう、それからだ。

 置いていかれた子犬のようなメルには申し訳ないが家に居てもらう。この判断が誤算に繋がるなんて思わなかった……。


 おかしい。順を追って整理したつもりが考えはまとまらない。それどころか、よけいに乱されている気がした。

 整理、もといこの感情に明確な決着がつくのはもう少し先――

 でも、こんなことならもっと早く自覚しておけばよかった。そうすれば、もっと長く傍に居られて、たくさんの表情を楽しめたかもしれないのにね。ものすごく損をした気分だよ。

なんか、悩めるルエナになった!?

書けば書くほどルエナが悩んでいくよ! でも大丈夫。その悩みとはもうすぐお別れ!

お次は、いよいよ別の人視点でいこうと思います。この流れだと、もうお分かりですよね。お次は突然『俺の大切な人』を紹介されたイザベラ&アンの家族会議模様をお送り致します(多分!)

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