幸福な結末
ここまで読んで下さった皆様に、深く感謝致します。
本当にありがとうございます!
「――こうして元魔女は幸せに暮らしています」
読み上げられた最後の一節はハッピーエンド。ようやく完成した達成感に、メルデリッタの口元は自然と綻む。
少しでも早く仕上げてしまいたいと、メルデリッタは机にかじりつき黙々と作業に徹していた。だから部屋に人が入ったことなど、まったく気付いていなかったのだ。
「随分と楽しそうだけど、何を笑ってるの?」
斜め後ろから囁かれる。それもいきなり背後から指摘するなんてタチが悪い。愛しい人の帰宅だとしても、不満に口を尖らせずにはいられなかった。
「お、お帰りなさい。でも、気配を消して入るのは止めてください。何度も言いましたよ!」
あれからメルデリッタも成長した。ルエナがこんな風に驚かせてくることは日常的で、少しだけ強くなっていた。
「それじゃあ、ラベンシアでも使わせてもらおうかな」
ついさっき帰ったのかと思えば、随分前からそこにいたらしい。懐かしい花の名が引き合いにだされたことが、盗み聞きされていた何よりの証拠。
「盗み聞きも禁止です!」
「ごめんね。せっかく帰ってきたのに、部屋に閉じこもって構ってくれないからさ」
あの日、舞踏会を終えて――
メルデリッタが仮に与えられていた部屋は、そのまま彼女のものとなった。
これからもルエナと共にいる、それどころか恋人になった。今更ながらの報告をすれば、親子は自分のことのように嬉しそうにはしゃいでいた。イザベラはもう一人娘ができたようだとメルデリッタの頭を撫で、アンからは妹ができたようだと歓迎された。
相変わらずルエナは住まいを転々としている。
共に着いて行くこともあるが、その理由は物珍しい場所だからということが大半で小旅行のようだった。
あの約束通り、果ない旅に出ることもあった。けれど、どこへ旅立とうと、帰る場所はここだと思っている。そんなメルデリッタの心境を理解しているのか、心細くないよう慣れ親しんだ家へ残されることも多い。
そんな空いた時間の中で思い立ったのが、これである。
「物語を書いていました。魔女が幸せになる話です。魔女も幸せになれると伝えたくて!」
ハッピーエンドに魔女はいない。
なら書けばいい、書いてみせる!
魔女が幸せになる結末、この身に起きた変化を綴ろうとメルデリッタはペンを取った。
「その魔女は、幸せなんだね」
「はい、とても」
即答したというのにルエナは不思議そうである。「ところで」と切り出された。
「彼女は王子の手も、悪魔の手も取らなかったのに、どうしてその男は連れ出せたんだろうね?」
本人は心底謎だと唸っており、自覚がないようなのでメルデリッタはきっぱり言ってやった。
「一番意地悪で、強引だっただけですよ」
この平然としている男は、意地が悪くて強引で。即答でお断りしたにもかかわらず、聞く耳なんて持ってくれなかった。
ほんの一瞬、予想外の返答だったのかルエナは目を丸くする。メルデリッタとしては至極当然の回答であるが。
「ははっ、なるほど!」
「……自覚してほしいものですね」
「でも、そんな俺が好きなんだよね?」
返答する間もなく引き寄せられる。
意地悪で強引と形容したが、本当に嫌なことはしない。それは触れ合いながら知ったこと。だからこそメルデリッタは素直に「はい」と答えていた。
かつての大罪の魔女と恐れられた魔女、元魔女は幸福に身を任せ、与えられる口づけにペンを置いた。
机に散らばる原稿、その一枚目に書かれた文字は『魔女のラプンツェル』
後に斬新だと話題を呼ぶ、魔女であった少女の物語。
さらにはここまで読んで下さるのですか!?
そんなっ……感謝しても、しきれません!
メルデリッタとルエナが末永く幸せであればいい、そんな想いを込めて書きました。
自己満足ではありますが、メルデリッタの物語を人の目にさらせる機会を得られたこと、とても嬉しく思います。
少しでもお時間潰しの役に立てたとしたら幸いです!




