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魔女のラプンツェル  作者: 奏白いずも
それぞれのエピローグ
56/63

偶然の目撃

どうか、彼の存在を忘れずに……

グレイスの話。

 開け放たれた扉の前で、グレイスは絶句する。

「なっ――!」

 彼は王である。この城の主、国の頂点に君臨している。本日の舞踏会は彼の催しであり、主催の身で多忙に極めながらも、それなりに満喫していた。

 振り返ってみれば、こんな風に羽を伸ばすのはいつ以来だろう。

 腐った政治に真っ向から挑んだせいか、甘い汁を吸う輩からは明確な敵意をもらう羽目になった。それでも民の平穏を第一に考え続けた結果、民衆からの支持は絶大だ。たとえ謀反を企てる者がいようと、ようやく得た人気は揺るがないだろう。

 そんな心優しき王と噂に名高いグレイスも運は悪いようだ。


 一同が眠らされる不可解な事件を得て、魔女の提案は成功を治めた。

 事態の収拾に追われ、ようやく時間を確保出来たのは再びダンスが始まってからのこと。

 残してきた友人たちの安否を確認すべく駆けつけ……。

 今(冒頭は)ここに至っている。


 扉は不自然に開かれたままで、何か異変が起きたかもしれないと即座に部屋へ駆け込んだ。正確には駆け込もうとした、が正しいだろう。

「二人とも、大丈夫か!」

 そうやって駆けつける予定が台無しだ。

 開いた口が塞がず、衝撃によろめく。

 見間違えるはずのない、白髪にピンクのドレス。神聖視していた、清純に着飾った憧れの女性が、男と唇を合わせている。それも己の親友とだ。

 改めて頭で認識すれば、傷はさらに大きくなった。心なしか、目眩が……。

 もしそれが女性の意に反する行為ならば、直ぐにでも引き離し救出しただろう。けれど性質が悪いことに、その手は固く繋がっていた。彼女の自由な腕は、しかと相手の背に回っているように見える。


 それならば仕方ない……。

 微笑ましい気持ちでグレイスは立ち去ろうとした、が。あろうことか親友はグレイスの存在に気付いていた。

 そこまではいい、そういうのが得意な奴だ。しかし、あろうことか奴は目が合った瞬間、彼女の頭を抱え込んでいた手を離すと、追い払う仕草をくれた。「邪魔するな」と幻聴まで聞こえたように思う。

 温和だと自負しているグレイスも、こめかみに青筋が浮かんだ。今すぐにでも邪魔してやりたい衝動に駆られたが、「お幸せに」と音も無く呟いて扉を閉めてやった。唇の動きだけで親友は察していることだろう。


 大人な対応をしてやったのは親友のためではない。かつて自分を助けてくれた彼女のためだ。彼女が幸せそうな空気に包まれていたから、そっとしておいてやりたかった。せめてもの恩返しのつもりだ。

(それにしたって、ルエナの僕への扱いはないだろう……)

 今度会ったら親友ではなく、恋のライバルとでも宣言してやろうか。どんなふうに動揺するか楽しみだと画策して、すぐに自分の身に危険が迫ると肝を冷やした。容赦のなかった指圧に頭を押さえる。

(さて、いつまでも、ここにいるわけにはいかないな)

 踵を返し、先ほど見た光景を振り切るように進む。

 逃げない勇気をくれた、心やさしき魔女が導いてくれた場所へ戻ろう。

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