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魔女のラプンツェル  作者: 奏白いずも
魅惑の舞踏会

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ある陰謀

「メルデリッタ!? お前、何をする!」

 グレイスは怒鳴りつけるが男は気にもしていなかった。

 ルエナは二度目の舌打ちをする。これは己の過失に対する憤りだ。グレイスへの嫉妬に気を取られ、メルデリッタの安全を確保していなかったなど言い訳のしようもない。

 男はテーブルに視線を移すと、注がれたままの液体に残念がった。

「お飲みに、ならなかったようですね」

「盗み聞きしていたくせに、よく言うよ。邪魔しちゃ悪いと思ったから、わざわざ回り道してやったのに」

 こんなことなら成り行きを傍観せず、蹴散らしてでもドアから入ってくるべきだったとルエナは後悔していた。

「ああもう、この女のせいで台無しだ。せっかく金でセーレンを懐柔したというのに、代役がいるなんて聞いていない!」

 口ぶりから察するに奏者が現れなかったのは彼が買収したからで、メルデリッタという代役が現れるなど想定外だったというわけか。

 力任せに腕を引かれ、メルデリッタはよろける。

「離して!」

 さすがに悠長な言葉を選んでいられない。力加減なんてものはなく握られた腕が悲鳴を上げる。男の腕が首にも回り身動きが取れない。

「黙ってろ。お前に罪をきせるつもりが、こんなに鼻が効くなんて……」

「この王が気に食わないのはわかったけど、その子は関係ないだろ。離してくれる?」

 ルエナの提案に、男の穏やかさが消えた。

「無理な相談だ。俺が逃げきるまで人質にさせてもらう。失敗しからには、どうせ捨て駒にされるだろうからな。くそっ! 成功すれば出世できる約束だったのに!」

 ひやりとした感触がメルデリッタの首筋に触れる。刃物が当てられているのだろう。たとえルエナが素早くても、添えられた刃物が喉を霞める方が早く、迂闊には動けない。

 グレイスの激しい怒りが空気を震わせた。

「その子は関係ないだろ!」

「仕方ないでしょう。王の人質なんて願い下げ、そっちの男も油断ならない。となれば女が適任だ」

 耳元で嫌な笑いが聞こえる。首元のナイフも、まだそこにある。そんな緊迫した状況にもかかわらず、メルデリッタはあっけらかんとしていた。

「二人とも、私のことはお気になさらず。どうぞ、グレイス様は会にお戻りください。ルエナも、私は大丈夫です」

「は?」

 それは誰の声だったのだろう。さらりと告げられた人質からの発言に、男三人は目を丸くする。さらにメルデリッタは犯人に向けて言い放った。

「あなた勘違いしてない? 私に人質としての価値はありません」

 え、ここでそういうこと言うの? そういう空気だった。何ともいえない沈黙が流れる。

「……えっと、僕ってそんな薄情に見えてるの?」

 グレイスは小声で親友に問うている。

「深く気にすることはないよ。あの子、そういうこと言っちゃう子だから」

 どういう意味かとグレイスは疑問を抱くが、追及している場合ではないだろう。動揺を抑え込み明確に意思を示した。

「と、とにかく! ここで君を残して行けるわけないだろう」

 メルデリッタは刃を当てられた瞬間よりも取り乱していた。

「……どうして、だって私に価値なんて!」

 異様に混乱する人質に、犯人とグレイスは疑問符を浮かべ思わぬ連帯感まで生まれる。だがルエナだけはメルデリッタのいわんとすることに気付いていた。

「昔の君はそうだったかもしれないけど、今は違うよね。少なくても、君を大切に想う男が、ここに二人はいるよ」

 メルデリッタはしばし刃物の存在を忘れ去っていた。そんな風に言われてしまったら嬉しくなってしまう。

 二人は大切な人間。グレイスは友人で、ルエナは……あれ、なんだろう。友と言い表すのは何かが違う。では命の恩人? それも違う気がしてならない。とにかく大切な人だと簡潔させたメルデリッタは、それが同じ気持ちを返してもらえるなんて信じられなかった。

(なら、私がすべきことは、二人の為にも逃げないと!)

「と、とにかく、この女は人質だ! そうだよな? 大丈夫だよな? それで異論はないな、お前も!」

 人質本人にまで確認し、話がまとまったところで、男はメルデリッタを引きずるように移動する。距離を保ちながら、出口の扉を塞ぐように立ちはだかった。

 メルデリッタは歩きづらい体制と、慣れないヒールのおかげで何度も足を取られていた。本当に引きずられている格好だ。

 躓いた拍子にヒールが音を立て、おかげで閃いたのかもしれない。


 あれは凶器も同じ――

 

 かつての使い魔の教えが蘇り、後は隙を待つだけだ。

 メルデリッタは目線で男の様子を窺った。犯人の注意はルエナとグレイスに注がれている。非力な女、刃物で脅せば成す術はないと油断しているのだろう。

 メルデリッタにしても、自分に何が出来るか分からない。それでも行動しなければと突き動かされるのは、二人が大切だから。

(迷惑はかけたくない、足も引っ張りたくない。どこまで出来るか分からないけど、やってみよう)

 これからすべきことを順番に描く。慎重に何度も想像するが、上手く出来る確証はない。機会が在るとすれば、次に男がしゃべった時が狙い目だろう。

「お前の要求は呑もう。追手を差し向けるなと言うなら、その通りにする。ただしメルデリッタに危害は加えないと誓え」

「話が早くて助かる。この女の命が惜しければ――」

 同時に首元の刃物が離れる。右手に握られていたのはナイフで、恐らく牽制するための行動だろうが迂闊だ。

(今しかない!)

 メルデリッタは踵を浮き上がらせ、全体重を掛けて下ろした。

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