表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/63

過去を学び、過去と向き合う

 視界にとらえた目的地。昨日は遠目からだったが、近づけば近づくほど想像より大きい。

 目的の本がある確証はない。『魔女に戻る方法』なんて書いてあるわけもない。たとえ存在したとしても探し出せるのか途方に暮れてしまう。

(でも、頑張らないと。自分のことなんだから、私だって頑張らなくちゃいけない)

 当然ながら、図書館に足を踏み入れるのは初めてで緊張も伴う。

(ちゃんと前を見て、あまり騒がないようにするのよね)

 可笑しいところはないだろうか、アンに習った図書館の作法を確認する。

(騒がない。読んだ本は元の場所へ戻す。分からないことは司書に聞く!)

 この三原則が大切なのだとか。


 まず一階から探索を始めた。目を凝らし、ひとまず魔女と言う単語を意識して探す。

 知ったタイトルの本も多数取り揃えられていた。本は友達の生活を送っていたのだ。多種多様のジャンルを読み漁り、知識は吸収してきた……と言えば格好がつくかもしれないが。毎日毎日、塔の中。本でも読まなければやっていられなかった。

 二階、三階と同じ作業が続く。

(効率、悪いわよね……)

 行き詰ったメルデリッタは、いよいよ困った時は! の教えを実行に移そうとする。だが率直に「魔女について書かれた本はありませんか?」と聞いて大丈夫なのだろうか、あまり大丈夫ではない気がする。

 コミュニケーション能力の低さが仇となっていた。

 上手く効きだす方法はないだろうか。素直に「元魔女なんですが――」と申告するのは気が進まないし、というか信じてもらえないだろう。

(どうしよう。物語を探すならタイトルを伝えるだけで済むけれど、そもそもタイトルがあるわけでも……そうだ!)

 何かが頭の中で光った。打開策を閃いたメルデリッタは司書の元へ向かう。

 司書は一階の入り口横、年老いた女性だった。メルデリッタに目を留めると司書は眼鏡を押し上げる。

「こんにちは、何かお探し?」

「こんにちは。あの、私、物語を書こうと思っています。それで魔女について調べていて、どんな内容でも構いません。魔女について書かれた本はありますか?」

「まあ、素敵! 物書きさんなのね。 ちょっと、お待ちくださいね」

 しばらく待つと、司書は一枚のメモを手渡した。

「歴史に、魔法関係の本でしょ、魔術や魔女が登場する物語もあるわ。眉唾も多いけれど、何が参考になるか分からないものねえ。とにかく、たくさん書いておいたわ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。頑張ってね」

 温かい眼差しで送りだされ、メモ通りの棚を探していると、魔女と名のつく本が発見できた。『魔女裁判の歴史』『黒魔女の恐怖』どれも良い内容ではないと容易に想像できる。

 メルデリッタは『魔女裁判の歴史』を手に取った。そこには人が魔女を恐れ、魔女狩りの歴史が綴られていた。


 その魔女は強大な力を持っていた。

 世界すら滅ぼせる力を。


 書かれた文字をなぞる。

 家は焼け落ち、崩れ。田畑は荒れ、人は飢えた。多くの人間を殺め、止めようとする同胞までも手にかけた。やがて元凶となった女は、その罪から大罪の魔女と呼ばれる。

 人間の記憶に残ったのは、恐るべき魔女の姿。人は魔女を恐れ、狩り始めた。それが魔女狩りとなって広まった。

 人の手で記されているので、全てが正しいことではないかもしれない。記述には少し曖昧なところもある。けれど、世界を滅ぼすということは、記述のような行為を指すのだろう。


 世界を滅ぼした魔女の生まれ変わり、同じ魂――

 

 そう告げられて育った。けれど、深く罪と向き合うのは……初めてだ。

(前の自分が何をしたかなんて、考えもしなかった。ただ違うと繰り返すだけだった。自分は何もしていないからって、どこかで関係ないと思っていたんだ。私は、大罪の魔女が何をしたのか理解しようとしなかった)

 本を抱く腕に力が入る。十六年も、何をしていたのだろう。これまでの人生が酷く脆いように感じてしまう。

 世界を滅ぼした――言葉だけで、どこか遠い話だと思っていた。

 メルデリッタは踵を返し、積み上げた本を夢中で読み耽る。たとえ今さら遅くても、それでも無知のままではいたくない。

(大罪の魔女は、たくさん壊して、たくさん殺めた)

 何百年も昔の話だ。それこそ魔女の存在が御伽話に変わる程に。

 読み進める度、心が痛む凄惨な事象。それでも目をそむけたくはない。初めて魔女であることを恐ろしく感じていた。

 魔女であることは誇らしく、幸いなこと――そのはずだったのに。

(でも、本当にそう?)

 浮かんだ疑問。メルデリッタは己に問い掛けていた。

 誇らしい? 幸い? 

 それならどうして、魔女メルデリッタ・ミラ・ローズは――

(魔女なんて、悲しいだけだった)

 遠くで鐘が鳴っている。誘われるように面を上げ、窓から外を窺うと親子に友人同士、仲睦まじく通りを歩く姿が多く見られた。帰路に着いたり、出掛けたり。手を繋ぎ歩く姿が微笑ましいと思った。

 この景色全てを灰にしたのが、大罪の魔女……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ