表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女のラプンツェル  作者: 奏白いずも
旅立ちと呼ぶには不本意
14/63

あなたを雇った日

「ミラの名にかけて、メルデリッタは命ある限り約束を違わぬと誓う」

 薄桃色の瞳に不安の影はない。

「へえ、そんな顔も出来るんだ。でも、何のつもり?」

 ルエナが不思議そうに問えば、つられてメルデリッタも不思議そうな顔をする。

「何って、誓いの儀式ですよ? 大切な我が名にかけて誓います。この鼓動が止まない限り、命ある限り、約束を守るという誓いを立てました」

 そして、とメルデリッタは続けた。

「これは魔女にとって最上級の誓い。信用できないのなら、ここで殺せということです。どうせあなたが手を貸してくれなければ、私はじき死ぬ身でしょう。人がどうあれ、魔女は誠実な種族。そう教えられ、今日まで生きてきました。たとえ魔力を失おうと、心は立派な魔女であり続ける。だからお願いします。どうか私を助けてください」

 緊張から、鼓動はますます速まっていた。この状態では相手にも筒抜けだろう。全て伝えた。けれど、まだ返答を聞いていないので手を離すことはできない。もしかしたら、ここで殺められる可能性もゼロではない。

(ああもう、早く終わって! もちろん生きていたいけれど……殺るなら一瞬にして!)

 湧きあがる不安は尽きず、ルエナが薄く笑っているなど、気にしている余裕がなかった。

「俺は、あんたの望みが叶う手助けを。願いを叶えたあんたが、俺の望みを叶える。いいよ。暇だし、面白そうだから引き受けてあげる。依頼主の自称元魔女さん」

 メルデリッタは押さえつけたままの手を取り喜んだ。

「よかった! ありがとうございます」

 そしてすぐ我に返り、おずおずと手を離す。人間相手に、なんと大胆なことをしているのか。これから共に歩むにつれて、不快にさせていなければ良い。

 深く追求されぬうちに話を逸らしてしまおうと、メルデリッタは咳払いする。

「で、そろそろ自称元魔女って止めませんか? なんだか、ものすごく馬鹿にされているような気がしてならないです」

「だって、いきなり私は元魔女ですとか言われても、素直に信じる人間の方が希少だよ」

「でも、引き受けてれたということは、信じてくださったのですよね?」

「さあ、どうだろう。とりあえず、信じておくことにするって感じかな。自称元魔女さん」

 メルデリッタは悟り、脱力した。

(この人、絶対にわざと連呼してる!)

 だがこの先も自称元魔女呼びは遠慮したいので食い下がる。

「お願いですから、名前で呼んでください! 私は魔女……不本意ながら元魔女、メルデリッタ・ミラ・ローズです!」

 わざわざ元魔女と言い直すあたりメルデリッタは律義だ。それに対してルエナの反応は素直に酷かった。

「うわー、長くて面倒くさい名前。魔女って、皆そうなの?」

 いきなり名前が長いとか文句をつけられても困る。

「あのですね。魔女にとって名は特別なんです。祖の一部を受け継いだ由緒正しき栄誉なんですよ! 私にとってミラという名は誇りも同じ。それを」

「面倒だし、メルでいいか」

 たった二文字の愛称。

 これまでメルデリッタが呼ばれた名称といえば、良くて主様。それ以外では大罪人やら大罪の魔女だとか、アレとか、穢れた魂など、受け入れがたいものばかり。

 それに比べれば面倒だからなんて理由は可愛いもの、かもしれない。これまで感じたような虚しさや、嫌な気持ちが湧きおこらない。その二文字に気恥ずかしささえ湧きあがる。ただルエナに対して、ちょっと失礼な人と思うくらい。

「初めてです。そんな風に呼ぶ人」

 ちょっと嬉しいです――

 そこまでは悔しいので言ってやらないが、先ほどからの散々な言われようには目をつぶろう。

 するとルエナは、改めてというように依頼人であるメルデリッタに向き直った。

「俺はルエナ、ってもう言ったか。よろしくね、ご主人さま。ちなみに歳は二十一だよ。ただ本当、何者かという問いは、一言にまとめるのが難しいんだ。色々やってる何でも屋、かな」

「い、いろいろって、なんでしょう?」

 雇い主となるからには聞き捨てならない。恐怖心より好奇心が勝ってしまったが、数秒後には聞かなければよかったと後悔させられた。

「基本的に面白そうな仕事ならなんでも? 門番とか護衛とか、泥棒とか。誰かさんの指摘で人攫いも増えたよね。あ、あと暗殺もやってるかな」

「不審者どころか犯罪者!」

 知らない方が幸せだったのかもしれない。もしかしなくても、とても恐ろしい人間に依頼してしまったのではないだろうか。早くも不安が押し寄せる。

「大丈夫。君は依頼人、安心しているといいよ」

 しかし恐ろしい反面、これはポジティブに考えれば頼もしい……はずだ。さすがにいきなり依頼人へ危害を加えたりはしないだろう、多分。そうルエナ本人も言っていることだし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ