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燻る火種/酸化感情

作者: 浬月

『燻』


右耳の痕を見るのが嫌いだった。

だから長く伸ばした髪は、いつでもそれを覆い視線から保護した。だがふとした時に髪が耳たぶに触れると、チリチリ、と傷痕が疼く気がした。

私の肌はまだあの人の手の感触を覚えている。

真冬の暖房が切れた教室でさえ、あの人の肌は温かかった。血が通っていることを感じさせる体温だった。寄り添いたくなった。


冬、冷えた髪が風に靡き頬を掃う。

スルリと撫でられたその感触に、冷えた耳たぶが痺れる感覚に、私はあの時のことを思い出すのだった。


暗闇で揺れるライターの灯は憧憬。針を炙るあの手を思い出す。乾いていた。

痺れる耳たぶに通った針は熱かった。触れた指が熱かった。スルリと垂れた血は冷たかった。


傷はもう閉じた、耳たぶを貫通した穴はもう閉じた、でも未だ心にはぽっかり穴があいたままだ。


初めて無防備になるということをした。

そして初めて傷つけられたのだった。

痛みには甘さがあると知った。

あの痛みを与えてくれる人を未ださがしている。


チリチリ、右耳の陥没、燻る火種。







『皮一枚の内側』


どこへ行ってもがんじがらめになるのは、自分で自分を縛っているからなのだ。夢の中で私の首を絞め、腹を裂くナイフを握るその手が彼のものであっても、それは私自身の願望が映像化されたものでしか無い。彼を見る度声を聞く度窒息しそうになるのは、私自身が内側から自分の首を絞めたいと日々隙を狙っているから。そして、あらゆる枷を外しその凶暴な自虐性を解き放つのが彼。彼を見る度、触れる度、その自由さと時折見える埋もれた清烈な輝きに私は自分を殺したくなる。表面ばかり美しい私の薄汚い内部を、彼に曝し出したくなる。そして、骨の髄から腹わたまで、私のあられもない姿を見つめて蔑んで欲しい。この皮一枚を隔て日々腐り落ちていく私の内側を隅々まで。あなたに見つめられその吐

息に触れられたなら、この汚濁した私の内臓も浄化される気がするのです。おかしい、とあなたは笑うけれど、私はそうされたいのだ。そうされてやっと私は自分を認められた気がして安心出来るのだ。あなたが愛しいと言う私は、表面上の擬態にすぎない。日々触れられる度あなたに首を絞められ肉を裂かれ殺されることを夢見る私は、どうしようもない異常者。それを知らず甘い言葉をかけるあなたはさながら騙され補食される被害者。あなたは本当に私を愛してくれていますか。いつか私の中の薄汚い醜い獣が私を乗っ取って、あなたの知らない私が現れても、あなたはそれでも変わらず愛を囁いてくれますか。



『ヒトがただの動物ではないというのは、君、

ヒトは自己を認識し、自己を考え、誇り、恥じるのだよ』



( その柔らかい 皮の 内側で )





『排気循環』


退化しながら存えて、

記憶には感情ばかり蓄積、

呼吸にて酸化したそれをぽつりぽつり排出、

呼気空気に溶け誰に影響を与えるか、

酸化感情いつか誰かの記憶になり結晶するか。

細胞は日々非行の連続、

蓄積した傷はついには自身を殺す。矛盾だらけ虚像だらけ、時に殺されながら、傷つけながら傷つけられながら考えながら、今の行動だって説明できない。

全てに意味などないと知ったら楽になれますか。


ただ必要だから、必要だから。

誰にとってか何にとってか意味もなく、必要とされているから。

どこに向かうとも知らない、ただ前を向いていたってわかるわけがない。進み続けていつかわかる。

私はただ廻っている一部だと。





『S.E.A.』


君を見た途端、瞳が震えるのがわかった。異常に視界が霞んだ。世界が停止した。君みたいなものに出会って、私は恐怖した。天変地異からは、逃げ出したい。


でも、君を見ていたかった。

君に惹かれた。

君は引力だ。

私の波を揺らす、君は月だ。

私の中には海がある。

君が揺らす、深淵が。

穏やかな水面は、君の言葉に荒狂う。細かな声帯の震えは、増幅されさざ波立てる。こころの水面は嵐だ。君がいたから、私は醒めた。


荒れ狂う、こころの水面から、ひとつ生まれる、小さなもの、恐れ不安から身を護るように縮こまるひとつの肯定、


只、好きです。




(See Emotion A)

お粗末さまでした。

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