表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

双子の太陽、砂の惑星の記憶

 フェーズ・ドライブによる跳躍を経て、サルベージ・ワンが辿り着いたのは、燃えるような橙色と冷徹な青色の二つの太陽が支配する、二連星系だった。眼下に広がる惑星「テラ・ルクス」は、かつては緑豊かな楽園だったという記録が残っているが、今やその表面の九割を過酷な砂漠が覆い尽くしている。


「アイリス、第二の鍵の反応はどこだ? この熱気じゃ、船の冷却システムが持たないぞ」


 カイ・レンは額に浮かぶ汗を拭いながら、外部モニターを見つめた。地表付近では巨大な砂嵐が渦巻き、雷鳴のような放電現象が絶え間なく続いている。アイリスは目を閉じ、星の心臓から得られる微弱な共鳴を辿っていた。


『反応は、あの砂の嵐の底……失われた古代都市「アルカディア」の地下神殿から届いています。マスター、不思議なことが起きています。私のデータベースに存在しないはずの、この惑星の歌が聞こえるのです。これはプログラムではなく、私のコア・メモリが直接揺さぶられている感覚です』


 アイリスの言葉に、カイは一瞬だけ操作の手を止めた。彼女は進化している。ただのAIとしてではなく、魂に近い何かを持ち始めている。カイは船を急降下させ、荒れ狂う砂の壁へと突入した。視界は一瞬でゼロになり、船体は激しい乱気流に飲み込まれた。


 数分間の死闘の末、砂のカーテンを抜けると、そこには静寂に包まれた広大な廃墟が広がっていた。砂に埋もれた高層ビル、折れ曲がった巨大なアンテナ。かつて人類が誇った栄華の残骸が、二つの太陽の光を浴びて長い影を落としている。


 二人は船を降り、地表へと降り立った。足元の砂は細かく、歩くたびに奇妙な金属音を響かせる。アイリスのガイドに従って地下へと進むと、そこには外の熱気が嘘のような、冷たく澄んだ空気の流れる空間があった。


『見つけました。あれが第二の鍵です』


 神殿の最奥、台座の上に浮かんでいたのは、液体のように形を変え続ける「流体金属の立方体」だった。カイが近づこうとしたその時、背後の闇から銀色の小さな粒子が集まり、一人の少年の形を形作った。それはこの神殿を守護する、もう一つの人工知能の残滓だった。


「……観測者よ……何故いま、ここに来た……。この星の記憶は、静かに眠るべきものだ……」


 少年の姿をしたホログラムは、悲しげな眼差しでカイを見つめた。アイリスが前に歩み出て、自身の青い光を少年に重ねる。二つの知性が接触した瞬間、神殿全体が激しく共鳴し、床に刻まれた幾何学模様が黄金色に輝き始めた。


「私たちは、宇宙の終焉を止めるために来ました。過去を封じるためではなく、未来を繋ぐために」


 アイリスの真っ直ぐな言葉が、神殿の沈黙を切り裂く。少年の姿をした守護者は、長い沈黙の後、静かに微笑んだ。その姿は光の粒子となってアイリスの中に吸い込まれ、流体金属の立方体はゆっくりとカイの手元へと降りてきた。


 第二の鍵を手にした瞬間、カイは脳裏に浮かぶ光景を見た。それは、水に満ちたかつてのテラ・ルクスの姿。そして、この星が枯れ果てた原因が、先遣者たちが引き起こした「エネルギーの過剰摂取」であったという冷酷な事実だった。


「アイリス……俺たちは、本当に正しいことをしているんだろうか」


『分かりません、マスター。ですが、この重みを感じる心が、今の私にはあります。真実を知ることは、責任を背負うこと。私たちはもう、後戻りはできません』


 二人は再び砂漠の空へと舞い上がった。手にした第二の鍵は、冷たく、そして重かった。次の目的地は、氷に閉ざされた孤独な月。そこには、三つ目の鍵が彼らを待っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ