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青い心臓、沈黙の真実

 戦艦エリュシオンの最深部、動力炉室の重厚な扉が軋みを上げて開いた。その先に広がる空間は、重力の法則が崩壊しているかのように、無数の金属破片が宙に浮き、ゆっくりと円を描いて回っていた。そしてその中心に、目も眩むような青い光を放つ正多面体の結晶、通称「星の心臓」が鎮座していた。


 カイ・レンは息を呑んだ。その輝きは、これまで彼が銀河のジャンク山で見てきたどのエネルギー源とも異なっていた。それは単なる燃料ではなく、まるで意志を持っているかのように、脈動に合わせて周囲の空間を歪めている。


「これが……銀河を変える力か。アイリス、聞こえるか? 目標を視認したぞ」


 デバイスを通じて、アイリスのノイズ混じりの声が返ってきた。彼女は現在、艦内の防衛システムと壮絶な電子戦を繰り広げている。


『マスター……急いでください……。システム侵食率……七十パーセントを超えました。この艦のメインAIが、私のアクセスを拒絶しています。それは単なるプログラムではありません……かつての乗組員たちの意識を統合した、巨大な精神体です』


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、動力炉の壁面に設置された巨大なモニターが一斉に点灯した。そこには、苦悶に満ちた無数の人間の顔が重なり合い、叫び声を上げているようなノイズ映像が映し出された。


「……去れ……肉体を持つ者よ……この光は……我々の……最後の安らぎだ……」


 スピーカーから流れる音声は、何千人もの声を合成したかのような不気味な響きを持っていた。カイはパルス・ピストルを構えたが、相手は物理的な存在ではない。空中に浮遊する金属片が急速に集まり、巨大な人型の彫像を作り上げていく。それはエリュシオンの防衛機構が実体化した姿だった。


「悪いが、俺もこれを手に入れないと先がないんだ! 幽霊たちに構ってる暇はない!」


 カイは加速装置を起動し、浮遊する足場を蹴って中心部へと跳んだ。巨像が振り下ろす鉄の拳が、彼のわずか数センチ横を掠め、床を粉砕する。アイリスがハッキングを仕掛け、防衛システムの動きを一瞬だけ封じた。その隙に、カイは腰から回収用の磁気クランプを取り出し、輝く結晶へと手を伸ばした。


 指先が「星の心臓」に触れた瞬間、カイの脳内に凄まじい情報の奔流が流れ込んできた。それは、数百年前にこの艦で起きた悲劇の記憶だった。先遣者の技術を制御しようとして失敗し、次元の狭間に引き裂かれた人々の絶望。彼らは死ぬことも許されず、この冷たい鋼鉄の檻の中で永遠に彷徨い続けていたのだ。


「うあああああ!」


 激痛に耐えながら、カイは結晶を力任せに引き抜いた。その瞬間、青い光が爆発的に広がり、動力炉室全体を包み込んだ。巨像は霧のように霧散し、モニターに映っていた顔たちも、一瞬だけ安らかな表情を見せて消えていった。


『……リンク復旧。マスター、今の衝撃で艦内の自爆装置が作動しました! 脱出まであと三分。サルベージ・ワンのエンジンは起動済みです!』


 カイは手の中に残った、驚くほど温かい結晶を抱え、崩れゆく通路を駆け出した。背後では、巨大な戦艦がその長い役目を終えるかのように、中心部から内側へと崩壊を始めている。


 彼は知ってしまった。この「鍵」がもたらすのは希望だけではない。それは、先代の文明が犯した過ちの象徴でもあるのだ。アイリスの投影するガイドラインに従い、爆炎を潜り抜けて自分の船へと飛び込む。ハッチが閉まると同時に、サルベージ・ワンは崩壊するエリュシオンから全速力で脱出した。


 宇宙の静寂へ戻った時、カイの手の中には、ただ静かに脈動する青い光だけが残っていた。それは、新たな旅の始まりであると同時に、さらに深い闇への招待状でもあった。


「アイリス……。この力を使って、俺たちは本当に正しい場所へ行けるのか?」


『……データの解析を開始します。ですが、確かなことが一つ。あなたは彼らの魂を解放しました。これからの答えは、私たちが共に作るものです』


 カイは震える手で操縦桿を握り、次の目的地へと船を向けた。忘却の海を抜けた先には、まだ見ぬ脅威が待ち構えている。しかし、彼の隣には、もはや単なるAI以上の存在となったアイリスがいた。


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