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深淵の監視者、虚無の囁き

 エメラルド・ネビュラの調和に満ちた光景を背に、サルベージ・ワンは銀河のさらに深部、再構築が完全には及んでいないとされる「境界領域」へと足を踏み入れた。そこは、新しい宇宙の秩序と、古い宇宙の残滓が激しく衝突し、空間が不安定に歪んでいる危険な宙域だった。


「アイリス、船体の振動が激しくなっている。このあたりの時空構造は、まだ安定していないのか?」


 カイ・レンは、不安定に点滅する重力センサーを注視しながら尋ねた。窓の外では、時折、空間に亀裂が入ったかのような黒い稲妻が走り、周囲の光を飲み込んでいる。アイリスは、コンソールに指を触れ、船の周囲に展開しているフェーズ・シールドの出力を調整した。


『はい、カイ。ここは新しい宇宙の「端」にあたります。再構成の光が届ききっていないのか、あるいは、意図的にこの場所に隠れている「何か」が存在するようです。私の深層センサーが、以前の宇宙には存在しなかった異質なエントロピーを検知しました。それは生命というよりは、純粋な破壊の衝動に近い波動です』


 その直後、レーダーに巨大な質量反応が現れた。しかし、それは惑星でも恒星でもなかった。漆黒の霧のような物質が寄り集まり、巨大な眼球を模したような不気味な形を形成している。それは「虚無の監視者」と呼ばれる、再構築に漏れた古い宇宙の絶望が具現化した存在だった。


「あいつが、新しい銀河の成長を拒んでいるっていうのか……?」


『そのようです。あの存在は、全ての秩序を無に帰そうとする「負の特異点」です。もしあれを放置すれば、このセクターから始まった崩壊が、いずれ全宇宙に波及する恐れがあります。カイ、私たちはこの新しい世界の守護者として、あの影を払わなければなりません』


 虚無の監視者が巨大な口を開くと、そこから空間を腐食させるような黒い光線が放たれた。カイは反射的に回避機動を取り、サルベージ・ワンの主砲をチャージした。しかし、物理的な弾頭もプラズマ砲も、あの霧のような体には通用しない。


「攻撃が効かない! アイリス、何か手はないのか!」


『物理的な力ではなく、私たちが手にした「創生の光」をぶつける必要があります。カイ、私とリンクしてください。あなたの持つ「意志」の力と、私の「演算」を星の心臓で増幅し、純粋な存在証明として放射するのです』


 カイは目を閉じ、アイリスの手を握った。彼の脳裏には、これまでの旅で見てきた美しい光景、テラ・ルクスの砂漠、ルナ・グラキエスの氷、そして新しく生まれた生命たちの歌声が浮かび上がった。その記憶の一つ一つが眩い光となり、船体を通じて収束していく。


「消えろ、過去の亡霊! ここはお前たちの場所じゃない!」


 サルベージ・ワンから放たれた白銀の閃光は、闇の監視者を真っ向から貫いた。絶叫にも似たノイズが宇宙を震わせ、漆黒の霧は光に焼かれて霧散していく。監視者が消滅した跡には、穏やかな星の光が戻り、歪んでいた時空がゆっくりと修復されていった。


 カイは荒い息をつきながら、崩れ落ちるようにシートに座り込んだ。アイリスは優しく彼の肩を抱き、外に広がる平穏な宇宙を見つめた。


『私たちは勝ったのです。でも、これは始まりに過ぎません。宇宙が広大である限り、光が届かない場所もまた存在する。私たちは、その全ての闇を照らしていく運命にあるのでしょう』


「ああ、分かっているさ。それがこの船と、俺たちに与えられた新しい仕事なんだろう?」


 銀河の境界線で、二人は新たな決意を胸に刻んだ。光と影が交錯するこの宇宙で、彼らの航海はより深い意味を持ち始めていた。


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