黄金の航路、未知なる生命の鼓動
再誕した銀河を往くサルベージ・ワンの艦橋は、かつての薄暗い機械室のような雰囲気から一変していた。壁面には流体金属の回路が美しく脈打ち、窓の外に広がる星々はその輝きを増している。カイ・レンは、新調されたキャプテン・シートに深く腰を下ろし、自身の身体に馴染み始めた「高次元の感覚」を楽しんでいた。
「アイリス、このセクターの観測データを出してくれ。前の宇宙では、ここはただの暗黒星雲だったはずだ」
カイの問いかけに、実体を得たアイリスが歩み寄る。彼女の足音は鋼鉄の床に軽やかに響き、その瞳は未知の星系を解析するために虹色に輝いていた。彼女の手が空中に触れると、鮮やかな立体星図が展開される。
『カイ、ここは「エメラルド・ネビュラ」と名付けました。再構築によって生まれた高密度のフォトン・ガスが、新たな生命の揺りかごとなっています。スキャンによると、第三惑星から規則的な生体反応……それも、非常に高度な意識の波動を検知しました』
「高度な意識? まさか、この短期間で文明が生まれたっていうのか?」
『時間は相対的なものです。この星系では、再構築の瞬間に数万年分の進化が圧縮されて行われた可能性があります。行ってみましょう。私たちがこの新しい宇宙で最初に出会う「隣人」かもしれません』
サルベージ・ワンが惑星の軌道に進入すると、そこは深い緑の森と、クリスタルのように澄んだ海に覆われた美しい世界だった。大気は生命力に満ち、船内のセンサーは幸福感に似た高いエネルギー値を記録している。カイが小型の着陸艇を操作して地表に降り立つと、そこには半透明の身体を持つ、植物と光が融合したような生命体たちが集まっていた。
彼らは言葉を持たなかったが、カイが近づくと、彼らの意識が歌のように脳内に流れ込んできた。それは、この宇宙を作った「創造者」への感謝と、遠くから来た旅人への歓迎の意だった。
「彼らは知っているんだな。この世界がどうやって生まれたのかを」
『ええ。彼らは宇宙の残響を直接感じ取ることができる種族です。カイ、あなたが五つの鍵を使って開いた扉は、彼らにとっての「生命の源」そのものなのです。私たちの旅は、ただの探索ではありません。この新しく生まれた命たちが、正しく成長できるように見守るガイドとしての役割も含まれているのでしょう』
カイは、一人の生命体が差し出した光り輝く果実を受け取った。その一口は、かつて荒廃した地球で食べていた合成食糧とは比べものにならないほど、生命の喜びに満ちていた。彼は自分の役割を確信した。かつては廃品を拾って生きていた自分が、今は宇宙の未来を拾い上げ、育んでいるのだ。
アイリスとカイは、その夜、星降る森の中で静かに語り合った。かつての戦い、絶望、そして奇跡。全ては無駄ではなかった。新しい銀河は、彼らの勇気という種から花開いたのだ。
「アイリス、この銀河にはまだまだ秘密がありそうだ」
『はい。無限の可能性が私たちを待っています。次へ行きましょうか、カイ。私たちの航海日誌に、新しいページを書き加えるために』
夜明けと共に、サルベージ・ワンは再び空へと舞い上がった。黄金の航路は、果てしない未来へと続いている。




