初任務
「ハァハァ…」
現地についたのは集合時間から十分遅れての時だった。そこには『情熱』と書かれた鉢巻きを巻いている男一人、青髪の青年?一人、身長150くらいの女一人が待っていた。というか、待たせていた。
「す、すいませ…」
「遅いぞ!!何をしていたんだ!!」
謝ろうとしたら鉢巻きの人からとんでもない怒号が飛んできた。
「君は!一体!何人の!時間をぉ!無駄にしてぇ!いるとぉ!思う…」
バタッ。そんな音を立てて鉢巻きの人は倒れてしまった。
「あーあー。ごめんねぇ。こいつ、すぐに熱くなって酸欠になるんだ。」
「あ、そうなんですね。それよりも、遅れてすいません…」
スズメのような小さな声で謝った。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「うんうん!しっかりと人に謝意を伝えるのは大切だ!」
(うわっ。びっくりした。)
鉢巻きの人が急にシュバッと音を立てて起き上がった。
「それじゃあ!みんな集まったし、自己紹介でもしとく?」
女はパンッと手を叩いて言った。まるで空気がその一拍手によって浄化されたように明るくなった。
「そうだな!まずは俺から!畠山光義だ!みんなとは仲良くやりたいと思ってる!よろしく!」
熱い。とにかく熱い。この人の近くだけ周辺より気温が高いと思うのは気のせいだろうか…。
「私は春江彩。『サイ』って呼んでね~」
可愛い。とにかく可愛い。若干のお姉さん感の中に潜んでる妹らしさを俺は見逃さない。
「……」
(あれ?順番的にこの青髪の人何だけどな…)
「じゃあ先に!名前は和田…」
「眞崎俊だ。」
名前を言おうとした途端に遮られた。
「よ、よろしく!俺は和田信太!」
青髪の青年は興味なさげに目を逸らしている。
(俺、嫌われてる…?)
「よし!フルメンバーということで!早速、現場に向かおう!」
「そうね。でも、その前に気合い入れとく?」
「…?、気合い?」
「えいえいおー!にしとく?」
なるほど。てっきり拳でぶん殴られるのかと勘違いしてしまった。まぁ、サイさんにやってもらえるなら良いけど!
「そうだな!それでは早速…」
「「「えいえいおー!」」」
最初はどうなることかと緊張していたけど、みんな(俺の自己紹介を遮りやがった青髪以外)いい人そうで初任務のそんなのもすぐにほぐれた。
――――――――――――
「本部からではここら辺で出没情報が多発しているとのことだ。」
俺たちがいたのは人気のない住宅街だった。
「あれ?ここって東京じゃないですよね?にしては人少なすぎません?」
『死都』となって全域に避難命令が出されたのは東京の筈。なのに、ここには人どころか人が住んでる気配さえも無かった。
「良く気付いたな!東京が大惨事になってから、皆恐がって周辺地域の人々も逃げてしまったんだ!」
「でも、私たちは人目を気にせず妖術を扱える。おかげで仕事しやすけどね~」
サイさんは目に語りかけるように下から目線で喋る。いや、喋ってくださる。
「サイ!気が抜けているぞ!いつ敵が襲ってくるかは…」
畠山さんは途端に話をやめた。畠山さんの目は何かを探っているような目だった。キョロキョロと目を四方に張り巡らしている。
「どうしたんですか?」
あまりの警戒具合なので心配になってしまった。
「……下だ!!」
不意に畠山さんが叫んだ。
ガァン!!
大きな音と共に地面から大きなモグラのような生物が出てきた。
(妖怪だ!!)
瞬時に分かった。が、体が思うように動かない。
「ガァァァァァ!!」
妖怪は舌を伸ばしてきた。俺を喰うつもりなのだろう。『死ぬ』、その二文字が頭に浮かんでばかりで体が硬直してしまった。舌は蛇のように曲がりくねり、襲いかかってくる。
「何をしてる!!」
後ろから畠山さんの声が聞こえた。それと同時に体が動いた。いや、動かされた。畠山さんが押してくれたのだ。しかし、畠山さんは妖怪の舌に捕まってしまった。
「は、畠山さん!!」
「俺のことはいい!こいつは俺とサイでやる!」
「な…でも!」
動揺で思うように声が出ない。
「バカが!早く行くぞ!」
腕を思いきり引っ張られた。
―――「ハァハァ…」
俺たちは先程の場所とは大きく違って団地郡に着いた。
「あ、さっきはごめん。あと、ありがと…」
「この役立たずが!」
怒鳴るように暴言が飛んできた。
「あの場で固まるのは何なんだ!訓練不足か?臆病だからか?」
言葉に詰まった。それと同時に怒りがこみ上げてきた。矛先はこいつに対する怒りじゃない。あの時、あの瞬間、何も出来なかった自分だった。
「やる気がないなら帰れ!」
「………。」
言い返せない。正論だから。
「そもそもなぁ、俺はお前が気に入らないんだよ。俺は努力をして、試験に合格して、苦労の上に征桜隊に入ったのに、お前みたいな特別入隊の奴がいるんだ。」
俊の熱が上がるほど俺は悔しくなった。
「それに、常軌を逸した妖力量の持ち主と聞いたが、そこまででも無さそうだな。お前を訓練した奴は相当なアホだったんだろ?」
『アホ』。葛目が『アホ』。いつもなら笑うだろう。でも、今日は…今日だけは違った。違うんだ…。
「それはちげぇだろ!!」
ハッと我に返った。先程の言葉が自分の口から出たものとは信じられなかった。いつの間にか怒りに身を任せていたようだ。
「違うだと?何がだ?説明してみろ!」
胸ぐらを掴まれた。俊は眉間にシワを寄せて歯を食いしばっていた。怒りに満ちた瞳がこちらを睨んでいた。
「…分かった。お前が本当に特別入隊に値するのかやってやるよ。」
不意に俊は俺を突き放した。そして相変わらずの人差し指と中指を立てる仕草をした。
「遊刃操術」
それと同時に三日月のように細く、反っている刃が俊の周りに無数に浮かんでいた。
「言いたいことは分かるよな?」
まさに刃のように鋭い瞳だった。それを見れば、もう逃げたい気持ちも無くなった。
「……あぁ。お前みたいな奴には分からせないとな。」
中指と人差し指。そして唱える。
「操炎術・火吹」
「遊刃操術・裂方」




