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開花

「し、死ぬ…。」

「おい!なに座ってんだぁ?まだ終わってねぇぞぉ!」


葛目の俺育成トレーニングが始まってからニ週間。体力は前の比にならない程についたものの、三週目から始まる実戦訓練に苦しんでいた。


「葛目ぇ、妖術とは一ミリも関わったことない俺にこのメニューは無理だよ…。」

「黙れ!認めたくはないがお前には膨大な量の妖力がある!はずなのに、何で基礎中の基礎の川内せんだい流も扱えねぇんだ!」


葛目は鬼の形相で俺を怒鳴った。


「知らねぇよぉ。何かコツないのかよぉ…」


自分でも情けないと分かるほどダランとした声が出た。


「コツか。コツねぇ。」


葛目は考えるように腕を組んだ。


「基本的に陰陽師が使う妖術はさっき言った川内せんだい流とかの『第一妖術』、それぞれの陰陽師によって炎を出したり、水を操ったりとか人によって異なる『第二妖術』だな。」

「はいせんせー!それ以外にはないんですかー!」


俺は勢い良く挙手した。


「良い質問だ!さっき言った二つの妖術はほとんどの陰陽師が使っているものたが、もう一つ!もうひと~つだけ、妖術が存在する。それは俺のような優秀な陰陽師が扱える強力な妖術。その名も、『第三妖術』!これが使える陰陽師はかなりの手練れだ。もし、お前が一級隊員になりたいのならこれは不可欠だな。」

「なるほど!よくわかりました!せんせー!」

「うんうん。」

(良し!このまま時間を稼げば…)

「そうだ!良い訓練方法を思いついた!」

「へ?まさか、もっと俺を苦しめるつもりなのぉ?」


またまた情けない声が出るのが分かった。


「いやいや!俺も今の話で頭が冷えたよ。何事も初歩が大事!まずは妖力を込めて放ってみよう!」


誰かに見られているのではと思うほど優しくなった。


「手を出して!体の芯から来る力を放つつもりで!」

「ちょ、ちょっと待って!例えば、例えばで良いから俺なら何が出てきそう?」


不安のあまり尋ねてしまった。


「はぁ?心配性か?まぁ、一番多いのは炎を操る『操炎術』かなぁ。ま!とりあえずな!やってみろ!」


そう言われ手を前に突きだし、目を瞑った。聞こえてくる心臓の鼓動に耳を澄ませながら体の中の力の流れを感じ取る。


「!!!」


何かが体の中でピカッと光り、流る様な感覚が芽生えた。


「掴んだか。」


葛目の落ち着いた声が聞こえ、風がフワッと吹き抜ける。手に何か得体の知れないものが集まる感覚があった。それらが掌に集中した瞬間、押し出すようにして力を込めた。


バゴーーーン!!


耳が割れる様な爆音と共に訓練場の壁が外の景色に塗り変わった。


「あ…」


助けを求めるかのように葛目を見つめる。


「お前…」


心は怒鳴られの臨戦態勢だった。


「お前は、自慢の弟子だよ…」


おや?何か様子が変だ。


「グスッ、グスッ、」


あの葛目が、すすり泣いている?俺は遊ばれているのか?そんな思考が頭を駆け巡っていた。


「コラーーー!!」


甲高い女の子の声が聞こえてきた。声色からして怒っているようだ。


「葛目さん!!何回言えば分かるんですか!

訓練場での大出力の妖術は禁止だって!!」


女の子は眼鏡をかけ、髪を三つ編みにしておりかなり小柄だった。


「ウォォォォン…」


まだ葛目は泣いている。意外と涙脆いやつなのかもしれない。そんな可愛らしい感情が湧いてきた。


「嘘泣きすんじゃねぇよ。」


今度は鋭い女性の声が聞こえてきた。


「下手くそなんだよ。下手なものは聞いてて不快だ。黙っとけ。」


かなりの毒舌な上、その目つきは刃の様に鋭かった。


「バレたかよ。でもお前も人の訓練を覗いてんじゃねぇか。」


(覗いてる?)


そんな言葉が引っ掛かったが葛目の感情の方向転換も負けていないようだ。


(この"クズ"目が!!)


心の中で吐き捨てた。


「うん?」


葛目はそれを拾うかのようにこちらを向いてきた。


「だかまぁ、見ただろ!こいつの妖術の威力!」


葛目は自慢するかのように言う。


「確かに強力だったな。」

「そこでだ!!」


葛目は畳み掛けるように言う。


「お前の結界を張ってこいつと戦わせてくれ!」

「はぁ?まだ半人前のこいつにお前が戦う?死なせたいのか?」


半人前、そんな言葉が胸を突き刺した。葛目といい、この人といい征桜隊は口の悪い人が多いのだろうか。


「死なせたくはない。でもな、人間ってのは死ぬか死なないかの狭間に立たされてる時が一番実力を発揮できるんだ。それをこいつに教えてやるのさ!」

「そうだな…。」


女性は少し考え込んでいるようだった。


「良いだろう。だが、死なせんなよ?」

「もちのろん!」


そう言って女性は手をかざす。


海守うながみ


どうやら葛目と戦うことになったらしい。それも死ぬかもしれないようだ。


「なんだ?手が震えてんぞ?もしかしてぇ?」

「武者震いだわ!」


葛目のからかいに噛みついた。そうしていると、地面から光が這い出てきて空を覆うように球状の結界が出来上がった。


「ここの中なら好き放題していいぞー」


さっきの女性二人組はいつの間にか結界の外にいた。


「新人隊員、和田信太さん!じっくり観察させてもらいます!」


眼鏡の子は随分とやる気だった。


「やるぞ。」


葛目の声だ。だが、いつもと違って研ぎ澄まされている。その目もいつものふざけた感じは一切無く、獲物を捉えた獣のように恐かった。


「それじゃあ、両者とも始めください!」


バッ!!


号令と共に葛目が飛び出してきた。


(速い!!受けの態勢を…)



「お……ろ!おき……!起きろ!」


ハッと目を覚ました。


「あれ?俺なにしたんだっけ?」


ここ数時間の記憶が無い。白色の絵の具で記憶が塗り潰されているようだった。


「起きるのも遅いのかよ。お前、俺に殴られて気絶してたんだ。」


(殴られて、気絶?)


「思い出した!俺、実戦訓練やろうってなって!」

「そうだ。最初だから実力試しで思い切り殴ったんだが、思いの外制御できてなかったわ。ごめんご。」


葛目はペラペラと喋る。反省してねぇな。


「にしても強すぎだろ。陰陽師はこんなのに耐えれんのか?」

「またまたいい質問だな。お前はさっき、妖力を放って炎を出してたな。」

「はいはい。」

「ただな、それだけでは妖力を使いこなせてるとは言えねぇ。基本的に陰陽師は妖力をぶつけ合って戦うから人間の体は簡単にぶっ壊れるんだ。」

「ほほーーん。」

「そこで!陰陽師は妖力を体中に張り巡らせて体、身体能力を大幅に強化してるんだ。」

「なるほどぉ。」

「でも!お前は全く出来てな~いw」

「は?」

「あぁ?なんか言ったか?」

「イイエ。」

「うんうん。」


あの見学二人組(眼鏡の小さい子と怖い女の人)にバレないように小声で言ってくる葛目は相変わらずムカつくが、話はかなりタメになった。


「さっきあんだけ炎出せたんだ。その妖力を体に張り付かせるようなイメージでやれば大丈夫だ。」

「おっす!」


そう言われ、再び目を瞑る。


(来た!この感覚。)


先程と同じく、体に何かが流れる感覚を感じた。


(これを纏わせる。そーーっと。)


ブワァ!!


髪が大きくなびく。それと同時に体から何かが湧き上がる感覚があった。


「そうそう!それだよ。それ。」

「これで出来てんのか?」

「あぁ。試しに殴ってみっか。」


そう言って葛目は肩を回す。


「え、待って?本気で殴んの?さっき俺気絶したよね?」

「大丈夫!妖力纏ってるから!」


葛目は俺の静止を耳に留めようとしない。


「いくぞ。」

「ちょ、ちょ、待って!」


ヒュッ!


そんな音が聞こえた瞬間、腹に大きな衝撃が走った。


「ぼへぇ!!」


あまりの痛さにうずくまった。これは何本か折れてるな。


「うおぉ!!耐えた!」


葛目は子供のようにはしゃいでいる。


「面白いからもう一回気絶させようと思ったんだけどな…。」


幻聴だろうか。そんな言葉が耳をかすめた。


「流石、俺の弟子だ。良くやった。」

「うるせぇ。」

「ん?何だ!もっと本気でやってほしいのか!そうか、そうか!」

「え、いや、ちが…」

「安心しろ!次は俺も妖術使ってやるから!お前も思い切りかかってこい!」


そう言って何処からか出した木刀を渡された。


「え?葛目は何も無いの?」

「まぁな。俺はあんまり刀が得意じゃないんだ。それに、俺の本領は妖術の特異さにあるからな。」


特異さ。それ、自分で言うんだと思いながらも木刀を構えてみる。


「あと、そもそもの話。お前のへなちょこな木刀なんて当たるわけないけどな。」


相変わらず挑発は絶えない。


「準備いいですかー?」


遠くからさっきの女の子の声が聞こえた。


「よーい、どん!」


またもや号令と同時に飛び出してくる。たが、さっきまでの俺じゃない。葛目に今まで言われたことを思い出す。


―数日前―


「くそがぁぁぁぁ!何で妖力はあるのに川内流は扱えねぇんだ!」

「そんなこと言われてもぉ…」


葛目は激おこだ。それも無理はない。俺はいつまでたってもあの日の寺間さんのような大きな斬撃が出せなかった。


「もういい!川内流は抜刀の仕方と姿勢、重心とかを身につければ容易に習得できるって師範が言ってたから、お前にはそれだけ叩き込む!妖力は後だ!」

「はーい…」


――――――――――――


(あの時!あの時の感覚を思い出せ!)


重心、刀の持ち方、姿勢。それら全てを記憶から昨日のように鮮明に蘇らせる。


「川内流・陽炎」


チャキンと音をたてて刀を思い切り振り上げる。顔に当たる風圧と共にあの日見た斬撃が葛目に飛んでいく。


「!!!」


葛目は驚いたような表情を見せながらも、止まらずに突進しながらあの時の寺間さんのように、人差し指と中指を立てた。


降妖術こうようじゅつ五霊虎ごれいこ


(降妖術?なんだそれ?)


そんなことを考えるのも束の間、葛目に斬撃が直撃し、爆発を起こした。死んだのではないかというほど大きな衝撃がした。段々と煙が失せていく。向こうに見えたのは葛目と…


「ガァァァァァ!!」


今にも張り裂けそうな雄叫びを上げる巨大な虎?だった。


「いやいや、正直ビビったよ。あんなに強力な斬撃が飛んでくるなんてね。ここ数週間であの威力を放てるのは誇っていいぞ。」


葛目は勝利を確信したかのように話し始める。


「だがな、それじゃあ俺たちのような一級隊員には及ばないってことを見せてやるよ。」


―観戦組―


「おいおい。ありゃあ降妖術じゃねぇか。葛目は本当に殺すつもりなのか?」

「降妖術!『憑役の儀』で妖怪と決闘をし、勝てば自身の下僕として扱える妖術ですね!」

「降妖術を使えるのは滅多にいねぇ。これは見物だな。」


――――――――――――


「五霊虎・炎虎えんこ


葛目が唱えると同時に虎はボォっと燃え盛った。どうやら炎を操る虎のようだ。


炎叫えんきょう


(妖術!どこから!何がくる?)


虎が口を大きく開ける。その口には地獄の大釜のように炎が燃え盛っていた。それらが渦となり自分に襲いかかってくる。


(やばい…!)


もう一度、川内流を出さなければ。そんな思いが自分を急かした。


「川内流・天津風あまつかぜ


バゴン!


再びの衝撃と共に熱波がこちらを襲う。


「うぇーい。やるじゃーん。」


煙が晴れると見慣れたうざったるい顔。葛目だ。隣では相変わらず虎がこちらを睨んでいる。


「俺の教え、意外と聞いてたんだな。」

「まぁな。俺はこう見えても高校の古文の授業でも寝なかったんだ。」

「分かりづれぇよ。」

「古文が?」

「うるせぇ。次いくぞー」


葛目のからかい?に俺は淡々と答えるが、本音を言えばかなりきつい。『天津風』は自分の周りに斬撃を展開することで防御の態勢を取れるが、さっきのは威力が強かったのかうまく受けれなかった。


「五霊虎・水虎すいこ


(炎から水!?ていうか、水って…)


「お前の炎にとって相性最悪だ。これを耐えれたら、認めてやるよ。」


水叫すいきょう


次は水の渦が捻れながら飲み込もうと襲ってくる。


――――――――――――


「妖力は一点に集中させればさせるほど、強度も上がる。これを応用すりゃあ、お前みたいな雑魚でも大抵の攻撃は防げる。」


――――――――――――


(ありがとよ…葛目。)


「川内流・天津風!」

「おいおい!さっきとは話がちげぇんだぞ!今のお前と俺じゃあ相性は最悪だ!!」


(妖力を一点に集中させる!相手の攻撃の軌道を良く読んで!)


「!、こいつ…」


バシャァン!


(来た!)


水の渦は『天津風』の斬撃にお構い無しに突っ込んでくる。あまりの威力に手が痺れ、震える。


(耐えろ!耐えろ!耐えてくれ!)


バシャァン!何かが弾ける音と共に『天津風』の斬撃が晴れた。


「良くやったな。おめでとう。」


(や、やった…)


安堵の気持ちを浮かべた瞬間、ガクンと崩れ落ちた。


「妖力を一点に集中させるのはそれなりの集中力が必要だからな。それの疲労だろうな。」

「信太さん、すごいです!葛目さんの攻撃を妖術を習ってから数週間で防ぐなんて!」


観戦していた女の子の声だ。葛目の毒舌ばかり聞いていたからか、褒め言葉はグッと心に刺さる。


「こりゃあ才能あるかもな。」


(あの怖そうな女性も褒めてくれてる!!)


「俺のおかげだな。」


葛目はいきがる。どうやら初めて会った日から余計な一言で雰囲気をぶち壊すのは変わってないみたいだ。


「は?お前のおかげ?勘違いすんな。こいつが才能あっただけだ。常人ならあんな下手くそな説明聞いてられねぇわ。」

「あぁ?じゃあ、お前が教えてみろよ?出来んのか?えぇ?」

「少なくともお前よりかは出来るね。」

「だーかーらぁ、お前みたいな雑魚は練習相手にもならないんだよ!」

「お前、降妖術使えてちょっとカッコつけてんだろ。」

「はぁ?ちげぇし!ふざけんな!」


二人の怒号が耳に刺さる。疲労困憊の俺を前に喧嘩はやめてくれ…。


「あれはまずいですね。避難しましょう。」


そう言われて眼鏡の子にズルズルと引きずられた。訓練場から出た途端、とんでもない爆発音が聞こえた。


「あの二人、昔から仲悪いんですよね…。巻き込まれる隊員たちの身にもなってほしいです…」


どうやら葛目は昔から葛目をやっているようだ。


――――――――――――


部屋の窓から覗き込む太陽の光で起きた。


「あれ?寝てた?」


そこはあの隊舎の自室だった。とりあえず食事を取ろうと部屋の外に出た。


(えっと、食堂は一階だっけな…)


ドン!


「いて!」


何かにぶつかった。どうやら人のようだ。


「ごめんなさい!前見てなくて…?」

「おはよう。信太くん。」


そこにはニコニコの葛目。終わりを悟った。


「訓練…終わりましたよね?」

「うんうん。訓練は終わったよ。」

「じゃあなんで?ここに?」

「に・ん・む!お前に初任務が来たんだよ!」

「お、俺に!?」


そう言って葛目は小さな封筒を渡してきた。そこには『任務状 和田信太』と書かれていた。


「これ開けて読め。じゃあな。」

「え、これ?ちょっと!」


葛目は目にも止まらぬ速さで去っていった。


「まぁいいか!あの人がいなくなって清々するわ!ハハハ!」


ウッキウキで封筒を開けると中には折り畳まれた紙が入っている。


(どれどれ…)


 ―任務状 和田信太―


・任務内容


イ、東京周辺ノ市町村に於イテ大型及ビ中型  妖怪ノ目撃情報過多。コレヲ調査セヨ。


ロ、現地集合トシ、集合時間ハ以下ノ通リ。

 十月三日 一○○○(午前十時)


発送日 九月二十八日



(中々古っぽい文章だな。ん?)


ある一つの部分が引っ掛かった。


「待って?今って何日?」


急いで部屋に戻ってカレンダーを確認する。


「十月三日…今何時だ!?」


時計は八時半を指している。


「やべぇ!!遅刻する!!」


俺は急いで走り出した。


―数日前―


「任務状?あぁ!信太のやつか!」


葛目は本部から送られた任務状を手にしていた。


「まぁでも、届けんのめんどいから!後でいっか!」


任務状は机の引き出しに入れられた。









































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