影の魔導具師、追放されたけど子供たちを最強の兵器に育てたら国に土下座された件
「貴様の作った魔導具は、すべて欠陥品だ!」
王立魔導具開発局の審査室で、局長の怒声が響き渡った。
カイ・ヴェルトは無表情のまま、机の上に並べられた自作の魔導具を見つめていた。影を纏う剣、影を射る弓、影を踏んで移動する靴――どれも完璧な出来だった。
「局長、これらは完成品です。ただし、使用条件が――」
「言い訳は聞きたくない! 光魔法の時代に、影にしか反応しない魔導具など何の役に立つ! 貴様は三年もの研究期間と王国の予算を無駄にした!」
審査員たちも口々に非難した。
「光の魔導具ならば誰でも使えるのに」
「影など、日陰者の使う力だ」
「これでは兵士に配備できない」
カイは静かに反論した。
「影は光があるところに必ず存在します。むしろ光魔導具よりも汎用性が高く――」
「黙れ! カイ・ヴェルト、貴様を王立魔導具師の地位から剥奪し、王都より追放する!」
判決は一方的だった。
カイは何も持たず、ただ自作の影魔導具だけを背負って、王都の門を後にした。振り返れば、白亜の城壁が夕日に輝いている。
「……光の中で生きる者には、影の価値は分からない、か」
苦笑して、カイは西へ向かって歩き出した。
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三日間歩き続けたカイが辿り着いたのは、国境近くの廃村だった。
戦争で焼かれた家屋、荒れ果てた畑。
この村は帝国との小競り合いで見捨てられた土地だという。
「……誰もいない、か」
そう思った瞬間、背後で気配がした。
振り向くと、ボロ布を纏った子供たちが七人、カイを警戒した目で見つめていた。
一番年長らしき少年が、錆びた剣を構えて言った。
「ここは俺たちの場所だ。出て行け」
「待って、ジン」
少女が少年を制した。
亜麻色の髪をした、痩せた少女だ。
「この人、悪い人じゃない。この人の影が、そう言ってる」
「影が?」
カイは興味を持った。
少女は臆することなくカイに近づき、彼の足元の影を指さした。
「あなたの影、とても優しい色をしてる。私、影の色が見えるの」
「……そうか」
カイは膝をついて、少女と目線を合わせた。
「君の名前は?」
「リリカ。こっちはジン。私たちは戦争で親を失って、ここで暮らしてるの」
七人の子供たち。
最年長がジンの十一歳、最年少が六歳。みな戦争孤児だった。
カイは決めた。
「俺はカイ・ヴェルト。追放された魔導具師だ。お前たちに、生きる力を与えよう」
こうして、影の魔導具師と孤児たちの三年間が始まった。
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「リリカ、影の感覚に集中しろ。矢は影の中から生まれる」
「はい、父様!」
リリカは十二歳になっていた。
カイから与えられた影弓『シャドウファング』を構え、百メートル先の的を狙う。
弓に矢はない。だが彼女が影を見つめると、影の中から漆黒の矢が生成される。
放たれた矢は空間を裂き、的の中心を貫いた。
「やった!」
「上出来だ」
カイは満足げに頷き、次はジンに目を向けた。
「ジン、影移動の応用訓練だ。五秒以内に俺の背後を取れ」
「楽勝っスよ!」
十四歳になったジンは、カイから与えられた影剣『ダスクブレード』を抜いた。
次の瞬間、ジンの姿が消える。
影から影へ。彼は地面の影を伝って、一瞬でカイの背後に回り込んだ。
「どうだ!」
「三秒。合格だ」
カイは背後を振り向きもせずに告げた。
他の五人も、それぞれが影魔導具を使いこなし始めていた。
影盾使い、影槍使い、影糸使い――。
かつて王都で「欠陥品」と蔑まれた魔導具は、この子供たちの手で真の力を解放していた。
なぜなら、彼らは生まれた時から影の中で生きてきたから。
光に恵まれなかった者だけが、影の真価を知る。
「お前たちは、もう一人前の戦士だ」
カイは七人を前に宣言した。
「今日から、お前たちは『黒翼団』を名乗れ。いつか、お前たちの力を必要とする時が来る」
リリカが真っ先に応えた。
「はい、父様! 私たちはあなたの翼です!」
ジンも、他の子供たちも、拳を天に突き上げた。
そして、その時は――思ったよりも早く訪れてしまった。
それは、カイが追放されてから三年後のことだった。
廃村に、一人の騎士が馬を走らせてきた。
傷だらけで、鎧は血と泥に塗れている。
「カイ・ヴェルト殿……おられるか……!」
騎士は馬から転げ落ちるようにして、カイの前に膝をついた。
「俺は追放された身だ。今さら何の用だ」
カイの声は冷たかった。
だが騎士は必死に頭を下げた。
「帝国軍が……五万の兵で侵攻してきました……!
王国軍は壊滅寸前……このままでは王都が陥落します……!」
「それで?」
「どうか……どうかお力を……! あなたの魔導具があれば……!」
「断る」
カイは即答した。
「俺の魔導具は『欠陥品』だったはずだ。役に立たないだろう?」
「それは……誤解でした……! 局長も、審査員も、みな後悔しています……!」
「遅い」
カイは踵を返した。
だが、その時。
リリカがカイの袖を掴んだ。
「父様」
「リリカ……」
少女の瞳は真っ直ぐだった。
「父様は、この国に酷いことをされた。でも、この国には、私たちみたいな子供がたくさんいる。戦争で親を失う子を、これ以上増やしたくない」
ジンも進み出た。
「俺たちは強くなった。父様のおかげで。今度は、俺たちがその力を使う番じゃないスか?」
他の五人も頷いた。
カイは長い沈黙の後、深く息を吐いた。
「……お前たちは、優しすぎる。誰に似たんだか」
そして、騎士に告げた。
「王国に伝えろ。『黒翼団』が出陣する、と」
王都近郊の平原。
帝国軍五万が、王都を包囲していた。
城壁の上では、残存兵力わずか三千の王国軍が、絶望的な防衛戦を続けている。
「もう終わりだ……」
「王国は、ここで滅びる……」
兵士たちが諦めかけたその時。
西の空が、黒く染まった。
「な、何だあれは……!」
無数の黒い翼。
いや、よく見ると違う。影だ。影が、空を飛んでいる。
そして、帝国軍の背後に降り立つ影の集団。
わずか八人。
先頭に立つのは、黒いローブを纏った男――カイ・ヴェルト。
その背後に、七人の若き戦士たち。
「我々は『黒翼団』。影に生きる者たちだ」
カイが右手を掲げると、影が渦巻き、巨大な魔導具が出現した。
『影の王装』――カイの最高傑作にして、すべての影を支配する究極装備。
「行け、お前たち!」
「はい、父様!」
リリカが影弓を引く。一本の矢が、百本に分裂し、帝国兵を貫いた。
ジンが影を駆ける。瞬間移動を繰り返し、敵将を次々と討ち取った。
他の五人も、それぞれの影魔導具で圧倒的な戦果を上げていく。
帝国軍は混乱した。
「敵は八人だぞ! 囲め! 囲めぇぇ!」
だが、影は囲めない。
光があるところ、影は無限に広がる。
七人の子供たちは、まるで影そのものになったかのように、戦場を舞った。
そして、カイは。
「俺の影よ、世界を覆え――『深淵の帳』!」
カイの影が爆発的に拡大し、戦場全体を覆い尽くした。
帝国兵五万が、全員、自分の影に足を掴まれた。
「な、何だこれは! 動けない!」
「影が、影が俺を縛る!」
カイは静かに告げた。
「降伏しろ。さもなくば、お前たちを影の中に引きずり込む」
帝国軍総司令官は、震えながら剣を地に落とした。
「こう、降伏する……!」
戦いは、わずか十分で終わった。
王都の玉座の間。
カイの前に、王、局長、そして審査員たちが深々と頭を下げていた。
完璧な土下座だった。
「カイ・ヴェルト殿……我々は愚かでした……」
「あなたを追放したこと、心よりお詫び申し上げます……」
「どうか、王立魔導具師に復帰してください……! いや、もっと上の地位を……!」
カイは無表情だった。
「断る」
「な……!」
「俺には、もう戻る場所がある。光の中じゃない。影の中に」
そう言って、カイはリリカたちを見た。
子供たちは、誇らしげに微笑んでいた。
「父様は、俺たちのものです」
ジンが堂々と言った。
「私たちは、父様と一緒に生きます。影の中で」
リリカも続けた。
カイは、初めて王の前で笑った。
「聞いたな。俺には、最高の家族がいる。お前たちの名誉も地位も、いらない」
そして、踵を返した。
「ただし、二度と俺たちを『欠陥』と呼ぶな。影には影の、光には光の価値がある。それを理解できない国は、いずれまた滅ぶぞ」
カイと七人の子供たちは、玉座の間を後にした。
城門を出ると、夕日が彼らを照らしていた。
そして、彼らの影が長く、長く伸びていく。
「父様、次はどこへ行くんですか?」
リリカが尋ねた。
「さあな。影のあるところなら、どこへでも」
カイは笑った。
八人は影の中へ溶けるように消えていった。
城壁の上から、王国兵たちが叫んだ。
「黒翼団、万歳!」
「影の英雄、万歳!」
だが、彼らはもう姿を消していた。
光に生きられぬ英雄は、再び影の中へ。
それでも彼らは、誰よりも自由で、誰よりも強く、誰よりも温かかった。
影の中でこそ、本当の光が見えるのだから。
(完)




