アズラベル
いつも読んで下さりありがとうございます。
ちょっと短めです。なので今日、明日はお休みという事もあってストックが作れるので本日も二本投稿します。
それと、第6話に今後の話に係わる重大なミスがあったので訂正しました。
× 身体に神素と言う魔力細胞を持っている神族と
○ 身体に神素と言う魔道エネルギーを持った魔力細胞を持っている神族と
となります。後の話でそこの説明がありますが今そこで間違った事を野放しにすると大変な事になるので読んでいただいた方には申し訳ないのですが訂正させていただきました。
集束していく光。徐々に眼が機能し始めていく。そこに映し出されていく光景。
「なんじゃこりゃ」
それが、翔流が異世界についてから発した第一声だった。
そこは、見渡す限りの大草原が広がっていた。
「ようこそ、イグニリアスへ。それと俺達の国アズラベルへようこそ」
アレスが頭を下げる。
「は?」
丁寧に頭を下げられても見渡す限り草原である。
「ははは、リアクションに困ってんでやんの」
それを見たハルが、大爆笑した。
まるで、ドッキリに嵌められたような光景である。
「ハル、笑っちゃ可哀そうでしょ? ここに初めて来た人は大体こうなるわ」
「ああ、わるい。そうだったな」
エルノアの言葉に必死で笑いを堪えるハル。
「ここはアズラベルの首都クーラルって言うんだ」
見渡す限りの大草原をさしてハルは笑う。
「普段は結界を張っていて大草原にしか見えないのさ。でもこうするとな」
ハルは、懐から石を取り出し空に翳した。先ほどハルが翔流達に渡した球体とよく似ている。
すると、球体は眩い光を放った。そして、眼の前に現れた物。
「すげぇ」
翔流の眼に映し出された物。それは、翔流の予想を大きく裏切るものだった。いや、むしろ裏切るというよりもぶち壊したと言っても過言ではない。そこに現れた物は、まさしく大都市だ。防壁こそ有る物の、それは翔流がいた世界と何ら変わる事はない。
聳えるビル群。街中を走る高架線。そして、街の中心には一際大きいビルが建っていた。
「へへ、驚いたか?」
「驚いた」
眼を丸くした翔流が呟く。
「驚いたけど、想像と大分かけ離れてるわ」
「だろうな」
まず翔流の頭にあったのは城、もしくは宮殿だ。だがそこにあったのはどう見てもビルだ。
「てっきり、魔法なんて言うからもっと中世的なもんだと思ってた」
ハルの問いに素直な感想を漏らす翔流。
「はは、それは向こうの世界の人間が空想的に作り上げた世界だからな。まあ、魔女狩りなんて物もあったからその印象が強烈なんだろう」
確かにその通りである。魔法とくれば自然とイメージされる中世ヨーロッパのイメージが強い。そして、その原因は魔女狩りにあるといっても間違いではないだろう。
「って言っても、種族によって文化は異なる。こんな感じなのは神族だけさ。さあ、行くぞ」
ハルの言葉に合わせて防壁の扉が開いた。
街の中に入ってみると、そこは翔流が日常的に見ていた風景と何ら変わらない風景が転がっている。アスファルト、コンクリート、街灯はもちろんの事、車やバイクなんてもある。強いてないと言えば電柱ぐらいか。その代わりにどの建築物にも魔法陣が記されていた。
「こっちの科学も向こうほどじゃないけど、結構進んでるんだぜ」
「そうみたいだな」
感嘆の息を漏らす翔流。ここが今までいた世界じゃないのは分かっている。だが、翔流の目の前には、今まで見てきたような日常がそこにあるのだ。
「神族は昔から科学と魔法学の融合を目指してな、魔工学っていうんだが。まあ、その結果がこの街に現れてるのさ。あっちの世界では固形燃料や電気を使っていたが、こっちの世界では原動力が神素や魔素なんだ。ほら、建物とか街灯に魔法陣があるだろ?」
「ああ」
「あれは自然界にある神素を吸収して電気に変える装置なんだ。向こうと違ってこっちの世界は空気がきれいだろ」
確かに、言われてみれば吸い込んだ空気がやたらと肺になじむような気がした。それは俗に言う『空気がおいしい』と言うやつだ。
「へぇ」
「後は、向こうの世界と違う点って言ったら魔工具ぐらいか」
「魔工具?」
「ああ。この世界独自の技術でな。ほら、さっき渡した石あるだろ? ちょっと出してみ」
「ああ」
ハルに言われポケットから石を取り出した。相変わらずオレンジ色で太陽の光を受けキラキラと光っていた。
「これは、カードリッジって言ってな。まあ、魔方式の刻まれた物を魔工具っていうんだが、これはその代表的なものだな。ちょっと失礼」
そう言ってハルは手のひらにあったカードリッジを取り上げた。
「アレス、エルノア。なんか喋ってくれ」
ハルがそう促すした。
「○×わ◇※$し&@ずQ」
「▽◎#ざ&%〒○☆わ§」
「……え?」
何を言っているのか全く理解できなかった。
「分かったか? この中にはいろいろな術式が組み込まれててな。結界を無効にする術式から翻訳までいろんな機能が含まれてるんだ。今回はカードリッジで説明したけど実際、魔工具と呼ばれる物はもっとある。生活用から戦闘用までいろいろあるんだぜ。ああ、そうだ。例えば、エルノアが持ってたあの杖も魔工具の一種さ」
「へぇ」
そう言って、手のひらの上のカードリッジをまじまじと見る翔流。その反応は流行に疎いおじいちゃんだ。
「まあ、そこら辺はまた教えてやるよ」
「ああ、頼むわ」
カードリッジをポケットにしまい込む。
「さあ、行こうぜ」
ハルに促され足を進める。
「行くってどこに?」
「セントラルタワーだ」
そう言ってハルは街の中心にある一際大きなビルを指差した。そこに聳えるのはまさに塔と言うべきに相応しい建物が建っていた。土台からして相当に広く、一つのフロアの大きさが伺えた。
「あそこがこの国を支える中核なんだ」
「へぇ」
言わばこの国の都庁みたいなものだろう。
進みながら、流れる風景を眼で追う。行き交う人々。街全体は首都と言うだけあって活気づいている。賑わいを見せる商店街。その人混みは、少しだけアメ横を連想させた。
「……なんか、あんまりこっちの世界に来た感じがしねぇのな」
翔流の言葉にハルとアレスは苦笑した。
「でも、生活文化が変わるよりは全然いいな。過ごしやすそうだ」
この世界に来る時、生活文化の違いや食文化の違いは否めないと思っていた。だが、ここまで自分のいた世界に近ければさほど苦にはならない。翔流の正直な気持ちが毀れた。
「まあな」
頷くハル。そして四人は中央に聳えるビルに向かって足を進めた。
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次回は本日、午後六時にアップします