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虚無の王  作者: 上月海斗
第一章 『終焉』と異世界
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『魔王と守護兵』

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

「まったく! これから世界が滅びるって言うのに、バカばっかりだよ!」


 桜の木に凭れかかり、テディベアの様にぐったりしている翔流を一瞥し、ハルが怨嗟の声を上げる。


「自分……武人ですから」


 力なく応える翔流。千芹と梓の懸命な介抱により、意識は取り戻したが正直まだ辛そうだったので、結局タイムカプセルは、ハルと樹の二人で掘りだす事となった。


「しかし、みつからねぇな。こんなに深く埋めたっけ?」

「確か一メートルぐらいしか掘らなかった気がしたんだがな」


 タイムカプセルを掘りだす時に良く陥る記憶互い。二人も例に洩れず、桜の木の前は軽く工事現場の様になっていた。最初は女性陣も穴が掘られるたびに興味を示していたが、一向に出てくる気配を見せないタイムカプセルに痺れを切らせたのか、翔流の横で談笑をしていた。


「ったく、なんかどうでもよくなってきた」


 どうにも辛抱できなくなったハルが、地面にスコップを突き刺し流れる汗を拭う。広がる穴を埋める事を考えると、そろそろ出てきてもらいたいものである。


「確か、校舎側に埋めた記憶があるんだがな。もしかして誰かに掘りだされちまったかな」

「それは、勘弁してもらいたいな」


 校舎に設置された時計を見ると既に三時を指している。既に、穴を掘り始めてから一時間半が経過していた。


「こりゃ、そろそろあきらめた方がいいのかもな。闇雲で思い出を探すよりも、残された時間を楽しんだ方が利口なのかもしれない」


 確かにそうかもと言う声が梓から洩れる。周りも声には出さないが、周りは絶望ムードが漂っていた。


「よっ!」


 木に凭れていた翔流が、反動を利用して器用に起き上がる。


「にしたって、これからどうするよ? ファミレスなんてはもうやってないし、遊ぶところだってどこにもないだろうよ」


 というよりも、終焉を迎える前日なのだ。コンビニですら営業していない。寧ろこんな時に仕事をしている人間が居るはずがない。


「そうだよなぁ。でも、このまま穴掘ってても見つかりそうもねぇしなぁ」

「こう思うと遊ぶ所って意外とないもんだな」

「……まあ、な」


 現代社会で『娯楽』と言う事に関しては、ほとんどの事に人の手がかかる。つまり、どんな施設でも人々の手がなければ動かない。残念な事に、現代にはそれが普通であり、人々が仕事を放棄した今、娯楽と言えば自宅でゲームをしたり読書や談笑するしかないのだ。


「公園でバスケ……は、暗くて出来ねぇな」

「いっその事、終焉を珍しい場所で過ごすとか?」


 梓が翔流のバイクを指さして言う。


「珍しい場所ってどこよ」


 怪訝そうに聞く樹。


「う~ん、富士山とか?」

「最後に山登りはちょっと嫌だな」


 苦笑する千芹。


「う~ん。俺も、山登りは勘弁してもらいたい。ただ、皆でツーリングっていうのは面白そうだけどな」


 樹がポケットの中から鍵を取り出す。どうやら樹達もバイクで来たらしい。

「別にそれでも良いけどさ。目的地はどうする?」

「それは、別に走りながら決めればいいだろ」

「まあ、そうだな。樹達はバイクどこに止めてるんだ?」

「ああ、俺とハルは教員用の駐車場に止めてきたんだ」

「なるほど。じゃあ、さっさと片付けるか」


 穴を埋めるという作業は、穴を掘るという作業に比べれば圧倒的に早い。三人で手分けして穴を埋めていく。別に、最後なのだから埋めなくても良い気もしたが、ハルが一言『最後ぐらいはちゃんとしていこう』という言葉に皆、賛同したのだった。


「まあ、こんなもんだろ」


 スコップの背で被せた土を均す翔流。


「じゃあ、俺、スコップ片付けてくるわ。お前等バイク校門の前に回しとけよ」

「おう、悪いな」


 スコップを樹とハルから受け取り用務倉庫へと足を向ける翔流。


「あ、翔流! 私も行くよ」

「おう」


 翔流の隣に並ぶ千芹。その時だった。


『見つけた!』


「うん?」


 不意に聞こえた声に翔流が振り向くと、その瞬間に何かが爆ぜた。

 小さな爆発だった。


「千芹!」


 小さな爆発とは言え、凄まじい風圧と轟音。とっさに千芹を庇い、爆発が起きた辺りを確認する。ハル、樹、梓の三人は爆発の影響を直に受けたのだろう。三人はピクリとも体を動かさない。いや、動かせないのだ。もしかしたら気絶しているのかもしれない。

そして、原因を探るために爆発した場所に目を向ける。


「……なんだよ、こいつ」


 息を呑む。目を疑うような光景とでも言うのだろうか。そこに立っていたのは男だった金色の髪と、同色の瞳。身体を覆う黒いロングコート。その下から除く剣帯、そしてそこに長剣を携えていた。だが、それ以上に目を引くものが男にはあった。なぜならその男の姿は人間とは言い難いものだからだ。人外。異形の者という言葉が適切だった。その印象を与えるのは手と耳だ。手はまるで岩を削り出した様にごつごつしていて、指先の一本一本が氷柱の様に鋭い。そして耳は人間の耳というよりも半漁人のえらの様な形をしていた。


「お迎えにあがりました。ダルクス様」


 その男は一歩、また一歩と二人に向けて歩む。

 男が一歩歩くごとに強まる、威圧感と重圧。張り詰める緊張。

 身体が竦む。まるで磔にされたように動かない手足。脳が、危険だと警告する。脈が、心音が、耳元で聞こえるような錯覚。速まる鼓動。翔流の身体すべてがこの男を拒絶していた。


「……なんだよ、あんた」


 絞り出すように問いかける翔流に男は眉をひそめた。


「ほう。この髪と眼の色。まだ完全には覚醒していないようですが、既に守護兵殿も御創りになられたようで」

「守護兵?」

「やはり、私を見ても記憶は戻らないのですね」


 千芹の言葉に肩をすくめる男。その時だった。


「そいつに何を言っても無駄だぜ」


 男の首筋に這う銀色の刃。聞きなれた声だった。幼少時代からずっと聞きなれている声。先ほどまで倒れていたはずなのに。間違うわけがない。ずっと三人で過ごしてきたのだから。だが、その姿は翔流が知っているものとは少し違っていた。金色の髪は銀色へと変化し、黒目だった瞳は碧眼へと変わっていた。


「きさまは!」

「お前が千芹を狙ってここに来ることはわかっていたよ。カーン」


 刹那、首筋の刀身が煌々と燃えあがる。


「千芹の記憶は俺が操った。ちょっとの事じゃ、ダルクスの記憶なんて目覚めないぜ。まあ、翔流が取り込まれちまったのは誤算だったがな」

 そう言って刀身を引く。首に食い込んで行く刀身。鼻を衝く強烈な臭い。そして、絶叫。


「千芹! 見るな!」


 とっさに動いた身体。千芹を抱きしめ、視線を逸らす。血飛沫が焼け、強烈な悪臭を放つ。そして、断末魔が途絶えた後、鈍い音が聞こえた。

 目の前に広がる光景。それは、まさに地獄絵図その物だった。首の無いカーンと呼ばれた男が倒れ伏せている。そしてその横には転がる首。ハルが斬り落としたのだ。


「……ハル、お前なんて事を」


 すべてが理解できなかった。目の前に転がる首の無い死体。いや、それ以前に親しい間柄の友人が殺人を犯した。恐怖、悲しみ、怒り、様々な感情が頭の中を駆け巡り消えていく。そして、最後に消えずに残ったのは動揺だった。


「落ち着け、翔流! こいつは生きてるよ!」

「そんなわけ……」


 あるわけないと続ける事が出来なかった。ピクリと動く男の身体。ゆっくりと握られる掌。

 だが脅威は、それだけでは終わらない。

 男の身体は、再び立ち上がろうとしていた。まるでB級ホラーを見ているような気分に陥る。


「やっぱり、これぐらいじゃ足止めにもならねぇのな。嫌だねぇ、不死身は」


 そう言ってハルは、カーンの体に剣を突き刺した。再び、肉の焼ける耳障りな音が響く。


「来い、翔流! 千芹!」


 剣を引き抜き、血潮を振り払う。同時に、持っていた剣が跡形もなく消えた。


「ちょっと、待てよ! 何なんだよ! 意味がわからねぇよ!」

「話は後でたっぷりしてやる。今は俺の言うとおりに動け!」

「動けって言ったって、樹達はどうするんだよ!」


 倒れている樹達に目を向ける。だがそこは既に蛻の殻だった。


「何で……居ない?」

「もう安全な所に運んだ。それより、早く!」


 状況を飲み込めない二人を、急かす様に追い立てる。


「バイクで逃げる用意をして校門前で待っていてくれ。俺もバイクを持ってすぐに行く」

「くっ……ああ、もう! 仕方ねぇ、行くぞ千芹!」

「……うん」


 半ば自棄になりながらも、ハルの言葉に従った。走りながらバイクのキーを取り出す。刹那、地面が揺れる。


「なんだ!」

「くそっ! もう再生が始まりやがった」


 ハルの言葉で男に視線を送ると、そこには黒く巻き上がる渦が出来ていた。漆黒の竜巻。吹き荒れる疾風。そして、地の底より響き渡る雄叫び。その声に大気は震え、その場にいる者を圧倒する。


「何だよ、あの竜巻みたいなのは……」

「……翔流、あれが見えるんだな」

「は? 当たり前だろ?」

「……いや、なんでもない。急ごう」


いつも読んで下さり、ありがとうございます。

感想、御意見、誤字脱字報告など、ありましたらご一報いただけるとありがたいです。

次は四月十日、正午にアップします

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