タイムカプセルと、同回し蹴りと、踵落としと
ある程度までは毎日アップで考えています。
街を疾走する一台のバイク。
街は閑散としていて普段は目立たないモーター音が一定の音を発している。
『化石燃料禁止法』が出来て十年。内燃機構の乗り物は禁止され、この国の乗り物は電動へと変わった。
モーターの著しい進化。エンジンが小型で出力も高いと言われていたのは、もう数十年前だ。今じゃ、何の申し分もないぐらい小型で馬力もある。そのことが拍車をかけそんな法律が出来上がったのだろう。
ネイキッドのバイクを巧みに操る翔流と、タンデムシートに跨り、翔流にしがみ付く千芹。
バイクのホログラムパネルの時計を見る翔流。時間は、午後一時を示している。
その割には暗い。太陽の光すら通さない厚い雲の所為だ。この世界が、闇に包まれてから三日。専門家は、隕石の影響だと言っている。
「懐かしいね」
「ああ、そうだな」
流れる景色。住宅街から大通りへ。いま二人が疾走している道が、三年間通い詰めた私立岸谷中学への通学路なのだ。
そしてバイクを走らせる事、五分。目的地へと到着する。
「いよう! 待ってたぜ、お二人さん」
金髪の少年が金属製のスコップを片手に手を挙げる。恐らく用務倉庫から拝借してきたのだろう。
「ハル君久しぶり~!」
バイクから降りた千芹がハルと呼ばれた少年に駆け寄る。
穂純ハル(ほずみはる)。それが、この少年の名前だ。金髪にピアス、まだ幼さが残る顔立ちには少しアンバランスにも思える。そのアンバランスは良くも悪くも目立っていた。
「よう! ハル。相変わらず金髪にしてるんだな」
バイクのスタンドを立て、翔流も二人の所に駆け寄った。
「へっへ~! かっこいい?」
ビシッとポーズをとるハル。
「ハル。成長しねぇな」
「十分間、鏡の中の自分を見てからそのセリフを言ってみようか」
「うわ~。俺って超愛されてる」
呆れた二人の突っ込みを、ポジティブに受け取るハル。三人にとってはこれが挨拶のようなものなのだ。元々、ハルと翔流と千芹は幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた。よく三人組で括られる事が多い、俗に言う幼馴染だ。中学に上がり翔流と千芹が恋仲となると、ハルは二人から少し距離を置くようになった。だが、こうして三人がそろえば、いつもの様に幼馴染の三人に戻るのだ。
「で? 皆は?」
「もう桜の木の下にいるぜ」
ハルは、二人を急かすように桜の木の下へと誘導する。
「お、来たな」
翔流にかけられた声。
「おう、樹! 久しぶりだなって、お前また身長伸びたか?」
「まあな。そういう翔流は、……何というかまた縮んだか?」
「縮むか! 胴回し蹴りくれるぞ!」
「踵落としで撃ち落としてやるよ!」
樹と呼ばれた少年の名は綾瀬樹。一八〇を超える長身で、翔流と同様に幼少期から空手を習い、地方大会では翔流と五度ほど対戦している。勝敗は、二勝二敗一引き分け。
その為、顔を合わせれば何かと物騒な話も出てくる。
時には、模擬戦という名の喧嘩を申し込んだり、時には完全に喧嘩に発展したりするが、本人達に言わせればただじゃれ合っているだけなのだ。
「相変わらず翔流君とは続いてるんですか~?」
ギャーギャーと、じゃれている樹と翔流を一瞥した少女が、からかう様に千芹に声をかける。
「えへへ、まあね」
「あらら。からかったつもりが、のろけられちゃったよ」
と、笑う。
「梓だって樹君と付き合ってるんでしょ?」
「え? ……なんでそれを?」
そう言って苦笑する少女。
ポニーテールにまとめた髪と、漆黒の髪。はっきりとした目鼻立ちが活発な印象を与える。
少女の名は牧野梓。
中学時代は期待のスプリンターなんて言われた短距離選手だったが、高校に進学すると同時にばっさりと陸上から縁を切った。
本人曰く、陸上は趣味でやるのが良いらしい。
「まあ、気が付いてるのは、私だけおもうけどね」
「う~ん。わからないようにしてたんだけどなぁ」
考え込む梓。それを見て笑う千芹。千芹は、昔から直感が働く方だった。洞察力とでも言うのだろうか、物事の異変には一番最初に気がつく。
「でもさ、樹君相手だと倍率高かったんじゃない?」
「それが、そうでもないんだよ。あいつも結構鈍感だからさ……」
繰り広げられるガールズトーク。
話題は、互いの彼氏の話からスイーツの話、そして今使っている化粧水の話へと移っていく。
「……はぁ。お前らここに来た目的忘れてるだろ」
鉄製のスコップを右手にぶら下げ、肩を落とすハル。
「わかってる、わかってる! タイムカプセルを掘りにきたんだよ。……よっ!」
ハルの言葉に肯定した後、宙を舞う翔流。正確には前転宙返りの要領で、右足を鞭のように撓らせる。胴回し蹴りだ。
「ばかっ! 本当にやる奴が……」
胴回し蹴りとは、早く言ってしまえば変形の踵落としだ。軌道を見切った樹が体を捻り、右足を避ける。
「あるか!」
そして、そのまま体の捻りを利用し、右足を頭上高くまで上げ一気に振り下ろす。倒れこんだ翔流の鳩尾に踵落としが炸裂した。
「ぐはっ」
まさに宣言通りのフィニッシュを決めた二人。
「胴回し蹴りなんてくらうか! って、あれ?」
足元には白目をむく翔流。そこには、悶絶を通り越し、失神している翔流の姿があった。
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
感想、意見、誤字脱字報告など、ありましたらご一報いただけるとありがたいです。
次回は四月九日、正午になります