過去。追想と罪と~その四
いつも読んでいただきありがとうございます。
過去編もクライマックスに入ってきました。
そして、猛烈な難産ですww
若干おかしかったら申し訳ない
会議室。昨日同様に武官が集まり、昨日の戦闘の報告に駆られる。
魔族の大進撃から一夜。兵力を三分の一まで減らされた魔族軍は撤退。ハルの活躍により、クーラルは陥落の危機を脱した。
「とりあえず今回は凌いだか」
呟くアレス。
「まあ、な」
ハルの返事は歯切れの悪いものだった。その理由は、昨日の戦いにダルクスが出てこなかった事だ。もし、あそこでダルクスに出てこられたら、ハルは確実にこの場にいなかったと考える。万全の状態で挑んでも勝てるかわからない相手なのだ。それは、僥倖と考えるべきなのか。昨日のあの瞬間から、ずっとその事が気にかかっていたのだった。
「まあ、済んだ事を考えても仕方ないか。運が良かったと考えるしかないか」
どんな結果にしても、魔族軍に一矢報いる事が出来たのだ。それは上々と言える。とは言え、未だに戦況は厳しい物である。今回の総攻撃を潰した事で戦況的には優勢に転じる事は出来た。だが、もしダルクスが攻め込んで来れば戦況は一瞬で覆るのだ。
「それで、この後はどう考える?」
「セオリー通りなら追い込むのが普通だろうな。だが、昨日の戦いにダルクスはいなかった。こちら同様にカウンターを仕掛けてくる可能性が高い。そうなったらまずい。一度泳がして様子を見るのがベストだろうな」
「ふむ。しかし、今のうちの兵士の士気は昨日の事もあり、上昇傾向にある。と言うよりも、若干暴走気味だ。兵士を説得するのにも骨が折れるぞ」
「確かにな」
ハルが苦笑いすると会議室のドアが勢いよく開かれた。
「ご報告いたします。現在クーラルの街の外に、魔王ダルクスが出現。周りに魔族の兵士は見当たりません。一騎駆けの模様」
「は?」
「何だと」
あまりの衝撃的発言に耳を疑う武官達。もし、それが真実だったら、それは無謀以外の何事でもない。
「ちょっと待て! そんな……いや、合理的なのか。……っ、まずい! 奴を街の中入れるな!」
ハルが言い終わるのと同時に辺りに轟音が鳴り響いた。
「……遅かったか」
窓から見える街並みに立ち上る煙。
「総員、総攻撃を仕掛けろ! これ以上の侵入を許すな!」
想定外の事態。攻められる事のないと思われた土地での戦闘。自陣の市街地での戦闘は、こちらにとっては足枷でしかない。守るべき対象が邪魔で、魔法を存分に行使できないのだ。一方、相手は構う事なしに魔法を行使できる。すべてが破壊の対象なのだから。それが、たった一人であっても相手はあのダルクスだ。磨き上げられた剣技と限界突破。その二つはまさに驚異である。
「くそっ! 昨日の総力戦自体がブラフって事かよ」
「総員、至急迎撃に当たれ! これ以上被害を増やすな! 俺も準備が出来次第出る」
ハルの号令に武官が部屋を後にする。
「ハル、今回は俺も出るぞ。あいつが単身で乗り込んできたんだ。しっかりけじめをつけてやる」
「ああ、わかったよ」
部屋を出る二人。決戦の場へ、修羅へと足を進めるのだった。
◆ ◇ ◆
立ち上る煙。燃え盛る炎。二人が駆けつけた時には既に死体の山が築き上げられていた。惨殺。そこには既に生きている人間は一人もいなかった。先ほど向かわせたすべての隊が全滅。むせ返るような血の匂いが立ち込める。そして、そこにいるのは鬼神と化したダルクスだった。
「……来たか」
静かに告げるダルクス。まるでハルとアレスを待っていたようなそんな発言だった。
「ダルクス。まさか単騎で乗り込んでくるとは思わなかったぜ。おまけに市街地に入り込まれちまってこっちは思うように手が出せない。作戦としては大成功だ。参ったぜ、お手上げだよ。ただ、ここまでやっちまったんだ。それなりのけじめはとってもらうぜ」
静かに剣を引き抜くアレスとハル。
「アレス、……ハル。……俺を、殺してくれ」
「は?」
「ハル。構えろ、様子がおかしい」
異変を感じ取ったアレス。二人が構えると同時だった。ダルクスの姿が突如消え目の前に現れる。神速、一筋の軌跡がアレスに向かって放たれる。
ぶつかり合う刀身と刀身。舞い散る剣塵。
「なんつう重い攻撃だよ」
「俺を……殺してくれ!」
「殺せっつったって!」
「何が起きているんだ」
「俺を……」
ダルクスはそう呟くとその場から姿を消した。
「なっ!」
驚愕するハル。
「ハル! 後ろだ」
アレスの声に振り向いたハル。そこには回し蹴りを放つダルクスの姿があった。
鈍い音と共にハルの頭をダルクスの足が捉える。ハルの体が吹き飛ばされ瓦礫へと突っ込んだ。
「なんて蹴りしやがんだ、死ぬかと思ったぜ」
瓦礫からはい出たハル。その頭からは血を流し、剣を杖のようにして立ち上がった。圧倒的な破壊力を持つ攻撃。気を抜けば死が待っている。
「ダルクス。何が起きた!」
「俺の意志を……乗っ取ろうとするな」
頭を抑えるダルクス。持っていた剣が転がり落ちる。
「やめろ、やめろおおおおぉぉぉぉ!」
何もない空間に向けて氷槍を放つダルクス。その瞬間空間に歪が生じ、一人の禍族が現れた。
「ったく、何一著前に抵抗してるのさ。さっさと諦めちゃいなよ。君は僕の傀儡なんだよ」
「……あいつ」
見覚えのある顔だった。目の前にいる禍族は戦意表明の時にいた男だった。
「やあ、くそったれな神族のお二人さん」
「てめぇ、何者だ」
「僕かい? 僕はジーン。キミのお父さんが作った一番最初の禍族さ」
「一番最初の禍族だと! そんな馬鹿な。禍族は寿命が……」
「別に体なんて入れ物だろ? 脳をデジタル化して入れ替えればいくらでも蘇れる」
ジーンはさも当たり前のように話を続ける。
「おい、傀儡ってどういう事だ」
「あはははは、大賢者って言われてても頭悪いんだね、キミ。そのまんまの意味だよ。魔王様を人体改造したんだ。僕たちの言いなりになるようにね。まあ、カロテはそれに気が付いたみたいだけどね。だけど僕が使っているのは精神魔法なんて代物じゃない。ナノマシンさ。科学って奴だよ」
「てめぇ、……っ! まさか!」
「あははははは、そうだよ、その通りさ。すべてを仕組んだのは僕だよ」
「……ルカもシエルもてめぇが殺したのかよ」
「ああ、そうだっていってるだろ。楽しかったよ。皆コロッと騙されてさ。ふふふふふ、あははははは」
ジーンの笑い声が響き渡る。
「目的は何だ! なんでこんな事をした!」
「目的? 目的なんてないといけないのかい? まさか、禍族が神族を未だに怨んでいるとでも考えているのかい? まあ、強いてあげるなら、世界で一番の魔蔵を持つ魔王ダルクスと同じく世界で一番の神蔵を持つハルト・クロライクの細胞を頂く事かな。キミたちは僕にとってただの研究対象でしかないんだよ」
「何……だと」
「それだけの為に……こんな馬鹿げた事をしたのか!」
咆哮、アレスが地面を蹴る。一瞬にして縮まる距離。流れる様に繰り出される剣戟。だがその刃が男に届く事はなかった。ダルクスが止めたのだ。
「あはははは、無理無理。僕に攻撃したいんだったら、まず魔王様から倒さなくっちゃ」
「クソが!」
ハルが怒りに身を任せて斬りかかる。上段から下段。打撃も織り交ぜ怒涛のラッシュを叩き込む。ダルクスはその攻撃をすべて見切り反撃へと転じていく。互いに一歩も譲らぬ猛攻。だが、剣技ではダルクスの方が優勢なのだろう。徐々に防戦へと転じていく。そして、一瞬の鍔迫り合い。そしてハルの剣を絡め弾き飛ばした。そしてダルクスがハルの足へと剣を突き刺した。
「ぐあああぁぁぁぁぁ!」
引き抜かれる剣と同時に吹き溢れる血潮。足を抑えて倒れこむハル
「ハル!」
「あはははははは、お得意の魔法はどうしたんだい。別に僕は使ってもらっても構わないんだよ? まあ、この街中で撃てればだけどね」
歪んだ笑み。二人にとってこの街自体が足枷なのだ。
「そうだ、だったら足枷を外してあげようか」
狂気に満ちた笑みが一層強くなる。
ダルクスから急速に展開される魔素。複数の漆黒の球体が出来上がる。限界突破の予兆。
「やめろ!」
アレスが飛び掛かり剣戟で応戦するも、その発動は止まらない。球体は金色に変化し、、街の至る所へと放射される。その一撃でほぼ壊滅まで追い込まれたクーラル。そしてその中の一つがセントラルタワーへと向かっていく。一筋の閃光。鳴り響く轟音。巻き起こる爆炎。セントラルタワーが炎に包まれる。
「……てめぇ!」
「あはははははは。どうだい? 気に入ってくれたかな?」
ジーンがハルの頭を踏みつける。
「……だったら使ってやるよ」
一際大きな金色の構築式。昨日クローン三人を消失させてあの魔法だ。
そして、魔法を展開させた。天へと放たれる電撃。幾重にも重なる電撃は光線へと姿を変えジーンを呑み込んだ。
「ざまぁみやがれ」
ゼロ距離から放たれた魔法はそれだけで消失してもおかしくない一撃だ。
収束した光線。
「……嘘だろ」
驚愕するハル。それもそのはずだ。確実に捉えたはずの一撃。現にその攻撃はジークに直撃した。殺す気で放った一撃。だが、ジークは無傷でいたのだ。
「なにかしたのかい? ハルト・クロライク」
「……そんな馬鹿な」
「じゃあ、ヒントをあげよう。時空魔法と言う物を知っているか?」
急速にハルの体に絶望が満ちていく。
「わかったようだね。そうだよ。時間を止めてやったのさ」
自分たちとはレベルが違いすぎるのだ。それは悟ってしまえばただの恐怖でしかない。
「おやおや、大賢者と言われて謳われたキミが震えているのかい? 当然だよね。キミたちの攻撃は当たらないんだからさ。さあ、そろそろ幕を引こうか」
ゆっくりとハルの髪の毛を掴み持ち上げていく。
「キミも僕の操り人形にしてあげるよ。そこにいるアレス・レオハーツを八つ裂きにするんだ。最高だろう? 親友を殺せるんだ。なかなかできる経験じゃない」
そう言ってジーンは懐から注射器を取り出した
「これが、ダルクスに打ち込まれたナノマシンさ」
ジーンはそう言ってハルの首に打ち込んだ。
「うわああぁぁぁあぁぁああ!」
「ふははははは、そのナノマシンが完全に体に回ればキミもダルクスの仲間入りだ」
「嫌だ……嫌だ! アレス、逃げろ!」
徐々に体が自分の意志で動かせなくなってくる。体と心が切り離される恐怖がハルの心を蝕む。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、そんな事できるかよ!」
「アレス!」
慟哭。それはもう懇願と言ってもいい。その時だった、ハルの懐からまばゆい光が溢れだす。
展開される黄金の構築式。
「なんだ」
「……これは、時空魔法!?」
懐から光の原因を取り出す。
「……姉さん」
それは、ルカがハルの為に作ったカードリッジだった。
そして、ゆっくりと魔法が展開されていく。
「これは……」
まるで逆再生をかけたようにハルの体の傷が修復されていった。
「動ける。動けるぞ!」
「時間を戻しただと!?」
「ああ、そうみたいだな。いつまで髪の毛掴んでんだよこの野郎!」
神素を纏いジーンの鳩尾に蹴りを放つ。
「ぐあっ」
「この構築式は……そうか。ある程度の時間を操れるわけか。ならお前の動きを止めて、魔法をしこたまぶち込むのも不可能じゃないよな」
「貴様……」
「なんだ? さっきまでの余裕はどうした? 喋り方まで変わってるぜ?」
「くそっ、まさか時空魔法を使えるようになるとはね。こうなると流石に分が悪い」
展開される構築式。漆黒の構築式がダルクスの体を包む。
「うあああぁぁぁ!」
地鳴りの様な咆哮。変化していくダルクスの体。至る所が膨張をはじめ、その姿を獣へと変えていく。
「魔獣合成だと!?」
アレスから驚愕の声が漏れる。禁忌とされた錬成魔法。ダルクスの体がキメラへと変貌を遂げた。
「今回の所はあきらめるよ。だけど、ただじゃ終わらせない」
金色の構築式。眩い光がダルクスを包み込む。
「お前、今何をした」
「別に大した事じゃないさ。ダルクスが死んだ時に、その魂を来世に送る術式をかけただけだよ。それがどういう事か、分からなくはないよね。ハルト・クロライク」
徐々に消えていくジーンの体。
「憎しみの記憶とその力を継承した魂は、確実に神族を潰しにかかるだろう。だけど、ダルクスが転生した時にはキミはもうこの世にはいない。キミたちの負けは確実だね。ふふふふふふ、あはははははは」
そしてその姿が完全に消えた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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無駄にやる気が出ますww
後本日を持ちましてストックが完全に切れました。一応GWなので書き溜めはしますが次回はいつアップするかはわかりません。
とりあえず四月中に過去編はけり付けます。