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虚無の王  作者: 上月海斗
第一章 『終焉』と異世界
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出兵前の一時

いつも読んで下さりありがとうございます。

 闘技場。そこに翔流とアズマリアが居る。そして、その二人を囲むようにして張られた結界。エルノアが展開したものだ。


「翔流君、もっと魔素を安定させなさい!」


 結界の外でエルノアが呼びかける。


「わかってる!」


 必死に魔素を放出する翔流。ハルから翔流の出兵を聞かされてから五日。あれからずっと魔素を放出する訓練を積み、少量だがようやく魔素を放出する事が出来るというレベルまで達していた。


 そして、今はアズマリアとの神魔混合術の練習なのだ。


「アズマリア! 発動準備!」

「はい」

 

 神魔混合術。それは、その名の通り神素と魔素を掛け合わせる事により行使する術である。濃密な神素と魔素を融合させると、神素と魔素が互いの力に反応しあい、過剰エネルギーが生まれる。そのエネルギーを神魔対素しんまついそといい、神魔対素は通常の神素や魔素とは比べ物にならないエネルギーを持っている。そして、その神魔対素を原動力に生かした術式を用いる事で初めて神魔混合術が出来上がるのだ。 


「術式展開確認。……やっぱり、あの術式じゃちょっとラグタイムがあるな」


 真剣な眼をしたサイトが呟く。


「もっと展開速度を弄れるのでは?」


 と、ラクティがサイトに言う。


「う~ん。ちょっとやってみるわ」


 そう言って、黙々と作業に戻るサイト。元々、この国では神魔混合術を使えるのはエルノアしか居ない為、神魔混合術自体が試作品と言ってもいいのだ。その為、神魔混合術の術式はすべてエルノア用に作ってある。現在サイトとラクティは、その術式をアズマリア用に書き換える為にここにいるのだ。


「神魔対素装填完了。発動します」


 刹那、アズマリアと翔流を中心に爆発が起こる。そして激しい閃光。白光の炎が闘技場を包んだ。灼熱や業火では言い表せない炎。その炎は、すべてを焼失させるような劫火だった。


「おわ、すげっ! 練習用の術式でこれかよ。本番はもっとすげぇんだな」

「使う方は結構嫌なものよ」

「確かにそうだろうけどな」


 一瞬にして人の命を奪う事が出来るのだ。確かに使う方の身としては気が引けてしまう。


「うわっ、すげぇな。これ」


 収まる炎。二人の周りの石畳は赤く溶け、軽く溶岩の様になっている。


「二人共お疲れ様。もう上がっていいわよ」

「了解」


 翔流はそう言って魔素を展開し、氷の足場を作り、焼けた足場を渡る。


「じゃあ、後の調整はお願いね。サイト曹長。この時間、私達は休憩に行ってくるわ」

「あいよ! 術式を大幅に変える様だったら呼ぶからまた実験してみてくれ」

「おう」


 真面目な顔で紙に術式を書き換えていくサイト。普段は飄々としているようで、やるときはちゃんとやる人間なのだという事が伺える。


「じゃあ、よろしく」


 そう言い残し闘技場を後にした。


◆ ◇ ◆


 作戦当日、 既に身内のたまり場となった翔流の部屋のリビングにはアズマリア、エルノア、翔流の三人がソファーに座っていた。


 テーブルの上には、人数分のティーカップが置いてある。そして、カップにはミルクティが注がれている。アズマリアのお手製だ。こちらの世界にも紅茶と言うのはあるらしく今はそれをごちそうになっている。


「そう言えばさ、ずっと気になってた事があるんだけど」


 紅茶を啜りながら翔流が口を開く。


「何かしら?」


 同じく紅茶を啜るエルノアが答えた。


「神魔混合術ってこの国ではエルノアさんしか使えないんだよな」

「ええ、そうよ。この国には魔素を持った人間は私と翔流君しかいないもの」

「そう、それだ。それなんだよ」


 翔流の指摘に頭に大きなはてなを作るエルノアとアズマリア。


「何が?」

「えと、疑問に思ってたのは、なんで龍族であるエルノアさんがこの国に居るのかがずっと謎だったんだ」

「あら、言ってなかったかしら」

「うん、聞いてない」

「それは、失礼。私は、この国に研修兵と言う形できているの。だから期限を過ぎれば当然自分の国に戻るわよ」


 自分の国と言うのはテイル国の事だろう。


「元々、アズラベルとテイルは交友国でね。テイルの王族は一九〇歳から二〇〇歳までの一〇年間アズラベルで研修兵として派遣されるのよ」


「へえ、って王族?」

「あら、それも言ってなかったかしら。私の立場は、テイル国第三王女エルノア・ルノアールと言う立場でもあるの。これでも、王家ルノアールの三女なんだから」


 と、自信満々に言うエルノア。


「意外だったかしら」

「まあ、ね。でもいいのかよ? 仮にも他国の王女様が国の幹部だぜ。まあ、それを言ったら俺もなのかもしれないけど」


「それは、やっぱり派閥の所為じゃないかしら。本来、他国の人間を幹部に入れるのは例外中の例外だもの。そうまでしてほしい人材だったって事よ」

「へえ」

「なんてね。多分、今言ったのはこの国の建前よ。本当は私も翔流君と同じ理由よ。自分の監視下に置きたかったのでしょう。現に、私の端末で調べられる事は結構限られているもの……」


 そう言ってエルノアは苦笑した。


「ふぅん。……監視下ね」


 翔流が呟く。正直、自分の立場と言うものも理解しているつもりでいる。そして、ハルの立場の重々承知している。だが改めて言われると自分達はこの国とっては駒なのだ。そして六日前にゲルツ大臣に言われたあの言葉を思い出し、顔を顰めた。


「どうしたんですか? 翔流三尉」

「いや、なんでもない」


 慌ててごまかす翔流。その瞬間、アズマリアと翔流の携帯に同時に着信音が鳴り響いた。数秒コールした携帯はその後何事もなかったように静寂を取り戻す。つまりメールが送られてきたという事だ。


「招集ですね」


 携帯を操作したアズマリマが呟く。翔流も、携帯を操作しそのメールを見る。


「まあ、優秀な部下が二人もいるわけだし、今回の作戦がうまくいけば、私の株もまた上がるわね」

「おいおい、まだこっちは成功するかわからないんだぞ」

「あら、弱気ね。六日前の翔流君に逆戻りかしら」

「なっ、エルノアさん! それは言わないでくれよ」


 ばつの悪そうに顔を顰める翔流。それを見てアズマリアが首を傾げた。


「六日前何かあったんですか? 翔流三尉」

「いや、気にするな。アズマリア」

「余計に気になります」

「別に大した事ないわよ。強いて言うならアズマリアと、翔流君が同じ日に同じ体験をしてるって事かしら」


 エルノアの言葉にさらに首を捻るアズマリア。感づいた翔流はばつの悪そうな顔をしている。大方こちらの事情はハルから聞いたのだろうという目を向けながら。そんな視線をものともせずに続けるエルノア。正直、悪戯モード全開と言った感じか。


「まあ、気にすんなよ。アズマリア。今日は頑張ろうな」

「……はあ」


 納得のいってないアズマリアを無理やり説得する翔流。正直、翔流にとってあの出来事は他人にはあまり知られたくない過去に上位にランキングされている。


「まあいいわ……翔流君。正直な事を言うわ。貴方の気持ちもわかるし、正直、任務なんてどうでもいいの」

「おいおい、何言って……」

「隊長命令を出します。二人共、絶対に帰ってきなさい」


 真剣だった。先ほどまで茶化していたエルノアは見る影もなくなっていた。そして、二人に注がれるその視線は憂い。その視線から二人を思う気持ちが伺えた。


「はい」

「ああ」


 上司としての言葉ではなくエルノアの本心だと悟る二人は自然に頷いた。


「じゃあ行ってらっしゃい」

「「いってきます」」


 エルノアに見送られて二人は部屋を後にした。


いつも読んで下さり、ありがとうございます。

感想、御意見、誤字脱字報告など、ありましたらご一報いただけるとありがたいです。


次回は四月二十一日午後六時にアップします

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