食事と喧嘩と酷い上官
いつも読んで下さりありがとうございます。
言ってるそばから間違えたぜ、ヒャッハー!!
と言うわけで修正入れました。
13話のエルノアの講義の部分です。
× クラール
○ クーラル
です。
首都の名前を全力で間違えました。正しくはクーラルです。
翔流の眼の前に湯気を立てる、スパゲティミートソースと一切れのパン。
「どうしたの? 翔流君」
エルノアの眼の前にも同じメニューが並んでいた。
「いや、スパゲティだ」
その二つがあるという事は、この世界には小麦の存在があるという事だ。
「スパゲティ? これはラスタと言う穀物を粉状にしてから水分を加えて麺状にしたニクスと言う麺よ」
「……二クス」
フォークに巻き付け二クスを口の中に入れる。口の中に広がる肉の風味とトマトの風味。そして間違いなくパスタの食感。
「味も同じだ」
間違いなくスパゲティミートソースだ。
「これ、俺達の世界ではスパゲティって言うんだ。小麦って穀物を粉状にして麺にしたもんなんだけどさ。今食べて確認したけどまったく同じだ」
「へえ。じゃあ、呼び名が違うだけで同じ穀物なのかもしれないわね」
そう言ってエルノアはパンをちぎり口に放り込んだ。
「ってか、多分穀物だけじゃなく殆どの物が呼び方が違うだけで同じな様な気がする」
このミートソースに使われたトマトも、恐らくは呼び方が違うだけなのだろう。
だが、それが翔流にとってはすごくうれしい事でもあった。呼び方が違うだけで元の世界の慣れ親しんだ味に戻れるのだから。実際、この世界に来た時は正直、食生活は諦めていた。それは外国に行くのと同じで自分の口に合う料理を探さなくてはならない。そういった意味では、人間は慣れ親しんだ味と言うのは非常に重要になってくる。それがまた食べられると思うと、この世界も悪くない。人間の三大欲求の一つなのだから当然と言えば当然か。
「今度探してみるのも悪くないかもね」
「そうだな」
そう言って二クスを口に入れる。その味はやっぱりスパゲティだった。
そんな、小さな感動に浸っているとエルノアの表情が変わったのが分かった。
「どうしたの? エルノアさん」
「いや、……嫌な奴が来たなと思って」
エルノアの視線を辿るとそこには三人の男がいた。一人は大柄で如何にも我の強そうな男。後の二人は如何にも取巻きと言った感じの男だった。
「誰、あいつ?」
「ハルの部隊の下士官よ。あいつとは同期なんだけどね。生理的に受け付けないのよ。早く何処かに消えてほしいものだわ」
「へえ、エルノアさんでもそう思う事はあるんだ」
「まあ、ね」
だが、エルノアの思いも空しく、男達はこちらへ足を向けた。
「これはこれは。異族同士仲良くランチときたもんだ」
「あ?」
思わず男を睨みつける。男は下種な笑みを浮かべていた。
「翔流君。あんな奴、相手にしちゃダメよ」
「分かってる、こういう下種な奴はほっとくのが一番なんだ」
翔流は威嚇の意味を込め、言葉に棘を持たせた。
「あ? 下種だ?」
売り言葉に買い言葉。張りつめた空気が流れる。
「下種に下種と言って何が悪い。木偶の坊」
その空気は臨戦態勢を作るには十分すぎるものだった。そんな翔流を見てエルノアが小さくため息をつき口を挟んだ。
「何の用かしら、バズー准尉」
凛とした声だった。そして少しながら怒気を含んだ声。そんな声があのエルノアから発せられたのだ。その声は一瞬にして翔流を冷静にさせた。
「いや? 俺達は食堂に飯を食いに来ただけだぜ。そしたらなんか食堂がくせぇんだよ。それで調べてみたらこんな場に異族の二人組がいるわけよ。しかも一人は魔族ときたもんだ」
だが、バズー准尉はお構いなしで挑発を続ける。
「ふぅん? それで?」
言葉に怒気が強くなる。
「ちょっと、エルノアさん。落ち着こうぜ」
いつの間にか立場が逆転した二人。翔流は慌てて仲裁に入る。
「だからよぉ。原因を作ってるその魔族にはご退場願いたいわけだよ。分かるか? エルノア」
「同期だからって気安く呼び捨てにしないで頂けないかしら? 私は一佐よ。バズー准尉」
「ああ? 手前、ハルト将補に気に入られてるからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」
「そのハルト将補にも気にかけてもらえない癖にしゃしゃり出てくるんじゃないわよ。木偶の坊!」
「なんだと、こら!」
ついにバズー准尉がキレた。鳴り響く轟音。バズー准尉が机を蹴り飛ばしたのである。引っくり返る食器類。勿論、翔流達が食べていたスパゲティも例外ではない。
立ち上がるエルノア。
「喧嘩なら……」
『買うわよ』と続くはずだった。
「手前! 何してくれてんだよ、俺の飯をよぉ!」
スパンと小気味のいい音がした。翔流のハイキックがバズー准尉の顔面に炸裂したのだった。不意を突かれたバズー准尉はそのまま崩れ落ちる。
「兄貴!」
「旦那!」
「クソ弱ぇ野郎が威張り散らしてるんじゃねぇよ。見てて腹立つ。行こうぜ。エルノアさん」
「え、ええ」
戸惑うエルノアを促し食堂を後にした。
◆ ◇ ◆
「ったく、神族って言うのは根性が腐ってるのが多いのかね」
不貞腐れる様に愚痴る翔流。眼の前に広がる広い空間。昨日、激戦を繰り広げた闘技場に二人はいた。魔素のトレーニングをするためだ。
「ごめんなさい」
不意に謝られる。
「なんでエルノアさんが謝るのさ。悪いのはあのバズーとかいう木偶の坊だろ」
「そうだけど不快な思いをさせたのは確かだもの。だから、ごめんなさい」
「そんな、謝らないでよ。そこまで気にしてないよ。ただ、エルノアさんはいつもあんな思いしていたの?」
異族。神族だけの世界にとって明らかに自分達は異質の存在だ。
「あ、いや。……そうね」
エルノアは否定しようとして途中でやめた。
「正確にはちょっと違うの。私が龍族だからバズーは絡んできた訳じゃないの。ちょうどいいから、翔流君に教えておくわ。この国は横の統制は最悪よ。特に派閥争いなんて酷い物だわ。バズーの奴はハルの部隊にいるけどあいつは文官のゲルツ総務大臣の派閥だからよく私に喧嘩を吹っ掛けてくるの」
「は? 派閥?」
「ええ。この国にはいくつかの派閥があるの。細かいのを合わせればたくさんあるけど大きい派閥は三つ。一つはアレスとハルの派閥。一つはゲルツ大臣の派閥。一つは武官ラクサ三佐の派閥」
「ラクサ三佐って昨日、ハルに反対してた人だよね」
「ええ」
元々派閥争いがあったのなら昨日の態度も納得がいく。
「大変なんだな。ハルも。まあ俺には関係ないけど」
「大変なんだなって、貴方もアレスとハルの派閥って周りからは思われているわよ」
「マジで?」
顔を顰める翔流。
「また面倒くさそうな顔するわね」
「面倒くさそうじゃなくて面倒なの。ったく、横の統制ぐらいとれよな、あのバカ」
「本当よね」
エルノアはそう言って笑った。
「まったく。こんな気分じゃ、魔素の練習なんて集中出来たもんじゃない。翔流君。半休使って気分転換に街に行こうか。昨日買えなかった物もあるし」
「おいおい、いきなりサボりかよ」
「サボりじゃないわよ。私の気分転換です」
「それをサボりと言うんじゃ」
「上官命令」
「……酷い上官だ」
「ちなみに拒否権は有りません。上官命令ですから」
『べぇっ』と舌を出すエルノア。
「ったく。しょうがねぇな」
翔流はそう言って笑った。
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
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次回は四月十六日、午後六時にアップします。
おまけ
ハル「エルノア、自分の住んでる首都ぐらい覚えような。クーラルだぞ」
エルノア「うん! クラール!!」
仕事中に思い浮かんでアホなエルノアが若干萌えました。
作者は今日も通常運転です