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虚無の王  作者: 上月海斗
第一章 『終焉』と異世界
12/27

初めてのお仕事

いつも読んで下さりありがとうございます。

この三日間で大分投稿できたと思います。

明日からは通常通り一日一話に戻ります。

 日は既に沈み街は闇に包まれていた。街は、自然の光を失えば、人工的な明かりを発する。煌々と輝く街灯やネオンの明かり。


「すっかり夜になっちまったよ」

「まったくだ。さあ、買うもの買ったしさっさと帰ろう」


 呟くアレスとハル。二人のその姿は、疲れ切っていた。それもそうだろう、二人の手には大きな荷物がぶら下がっていた。もちろん翔流の両手にもぶら下がっている。


 それらは翔流の生活必需品や服、そして靴などが入っていた。


「って、どうした翔流?」

「あ、いや。やっぱすげぇなって」


 今日、何度めの感嘆だろう。翔流の視線の先にはライトアップされたセントラルタワーが映し出されていた。


「つか、今気がついたけど、この防壁みたいなのって区画ごとにあるんだな」

「ああ。この街全体が要塞都市だからな。ほら防壁の横にでかいビルあるだろ」


 ハルが指をさす。その先には他のビルよりも明らかに高いビルが建っていた。


「あれってさ、砦の役割を果たしてるんだよ。この街は各ブロックで別れてるからさ」 


 ちなみに今いるのは、商業・商売エリアである。この街は大きく分けて三つのエリアで構成されていて商業・商売エリア、工業エリア、住宅エリアとなっている。それぞれに巨大な防壁があり、敵の侵入や攻撃に備え即座に対応出来る様に砦の役割を果たすビルが一つのエリアにつき三つほど作られていた。


「ふぅん」


 改めて街を見てみるといろいろな所に戦争の産物ともいえる物が見える。防壁から突き出す大砲やサーチライト。そしてセントラルタワーを護るように建設された建物の数々。改めてこの国は戦争をしているという事を認識する翔流。


「まあ、外には結界もあるしな。ここが攻め込まれるような事は先ずねぇよ」

「そうなのか?」

「多分ここが攻め込まれたらこの国はお終いだと思っていい。それぐらい綿密な防壁や結界を張り巡らせているんだ」


 アレスをそこまで言わせる鉄壁の護り。よっぽどその護りには自信があるのだろう。


「まあ、そうじゃなくてもうちには優秀な兵士達がいるからな。期待してるぞ、翔流少年……いや、翔流三尉」


 まだ、あまり聞きなれていない自分の階級に少し鳥肌が立つ。


「はあ、やれるだけはやってみます」


 何とも覇気のない翔流の返答。


「まあ、早いとこ千芹を奪還できるように頑張れよ」

「ああ」


(きっと千芹はもっと辛いよな)


 翔流にはハルがいた。だが千芹は見知らぬ土地で孤独なのだ。周りは自分の事を魔王とあがめるだろう。だが、その国には千芹の理解者は誰もいない。


(絶対助けるからな。千芹)


 その為に、一刻も早く魔素を操れるようにならないといけない。

 自分の中にあふれる魔素。翔流にとって、今はそれだけが望みだった。


◆ ◇ ◆


「翔流三尉!」


 就任の儀と言う名の入隊手続を終えた翔流は、聞きなれた声に呼びとめられた。呼ばれなれないその言葉に背中がむず痒くなり、全身に鳥肌が立つ。仕返しにと言わんばかりに翔流は声の主に万弁な笑顔で返した。


「なんですか、ハルト将補」

「うおぅ、気持わりぃ。翔流が俺に敬語だ」


 翔流に言われ、ハルも鳥肌が立ったのだろう。結果、二人で爆笑した。


「ったく、お前等は……」


 呆れたアレスが二人に促す。


「だってよぉ、こいつが軍服来てるんだぜ。可笑しくてしょうがねぇよ」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。お前だって軍服にあわねぇじゃねぇか」


 今現在二人の服装は、黒を基調とした軍服に身を包んでいる。基本的に軍内では軍服が義務付けられているのだ。


「で、どうしたよ? まさか笑いに来たわけじゃねぇよな」

「まさか。俺もそこまで暇じゃねぇよ。お前これからエルノアの所に行くんだろ?」

「ああ」


 これから翔流が向かっている先、それは第二神技研究部隊の研究室だ。場所はすでに教わっているので後は定刻通りに向かえばいいだけだ。


「俺とアレスはこれから文官との会議があってちょっと手が外せねぇんだ。悪いけどこいつをエルノアに届けてくれねぇか?」

「ああ、別にいいけど」


 ハルから手渡される紙の束。それは結構な重量があった。


「重いな。何の書類だよ」

「とりあえずヒミツって事で。エルノアにでも直接聞いてみな。きっと顔を顰めながら教えてくれるぜ。じゃあな」


 片手をあげて反対方向へ歩いて行くハルとアレス。


「ったく。一番最初の仕事がパシリかよ」


 呟きながら脚を進める。


「……けっ、魔族の癖に」


 途中ですれ違う兵士達は皆、翔流を一瞥した後、明らかに不服な態度を示している。


(三尉になっても、俺の扱いは変わらないのね)


 この国の兵士達から見た翔流の扱いは、厭くまで魔族。それはどんな肩書がついても変わる事はない。


「見ろよ、あいつ。昨日ソニア三尉と戦った魔族だろ? 凄かったよな、あの試合」

「ああ、しかもあの魔族は俺達と一緒に戦ってくれるんだろ。敵に回るよりずっといいよ」

 だが昨日のソニア三尉との激戦で考え方を変えてくれた人間がいるのも事実だ。


「ったく、めんどくせぇな」


 既にこの国に来てから口癖になった独り言を呟き、翔流は第二神技研究部隊の研究室に足を進めた。


 ◆ ◇ ◆


――コンコン。


 乾いた音が響く。翔流がドアをノックしたのだ。


「どうぞ」


 ドアの奥から声が聞こえる。ドアの所為で籠ってはいるが知っている声。エルノアの声だ。


「浅葱三尉入ります」


 昨日教わった最低限の軍人としてのルール。それは、自分が誰であり階級はなんであると伝える事だそうだ。そして、翔流はそのルールを実行しドアを開けた。


「うわ」


 思わず、声を漏らす。そこは、まるで会社のオフィスの様に机が並べられ、窓際には観葉植物が措いてある。そして、部屋の奥に一つだけ孤立した机にエルノアがいた。


 そして、翔流に向けられた複数の視線。


「第二神技研究部隊へようこそ、翔流君」


 固まっていた翔流にエルノアは立ち上がり手招きをした。

 今日のエルノアの服装は昨日のローブとは違い、軍服は肩に羽織っているが、白いノースリーブと両脇に深いスリットの入った黒いロングスカート。そこから覗く足が妖艶さを引き立たせていた。そのたまらぬ姿に思わず『どこのキャバ嬢ですか?』と突っ込みたくなるが、それを言ったら翔流の株は大暴落なので、呼ばれるがままにエルノアの元に足を運ぶ。


「彼が、さっき言っていた浅葱翔流三尉よ。彼は、今日からこの第二神技研究部隊に所属する事になるわ。皆、よくしてあげてね」


 エルノアの言葉に各位、短く『はっ!』と呟いた。見たところこの部隊はエルノアを含め四人。自分も入れれば五人だ。


(少ない)


 部隊と言うよりも小隊といった感じだ。


「どうしたの? 翔流君」

「いや。自分の配属された所は、結構人数少ないんだなと思って」

「そうね、うちは少数精鋭なのよ。この部隊は誰でも入れるような安い部隊じゃないの。この部隊は神素と魔素に関するスペシャリストが集められた部隊なの」

「……スペシャリスト」


 そんな部隊に自分が来ていいのだろうかと軽く苦悩する。


「具体的に、この部隊の任務は新しい神魔混合術ハイブリット・スペルの開発がメインになるわ。神魔混合術っていうのは、後で説明するけど簡単にいえば神素と魔素を掛け合わせた術よ。昨日、貴方の世界で使った術も神魔混合術の一種ね」


 エルノアの言葉に昨日の事を思い出す。翔流の世界を止めた魔法。自分の魔素にハルの神素を合わせて時を止めたと聞かされていた。つまり、翔流が加担したのは神魔混合術だったという事だ。


「本当は、貴方の魔素が暴走しなければ、私が術者になっているはずだったんだけどね」

「はあ、申し訳ないです」

「気にしないで。ああ、それと。これは皆に忠告ね。今後この部隊に所属している間、彼を魔族と言った奴。理由はどうあれ、後で殺すわよ。心得ておきなさい。彼は好きで魔族になったわけじゃないの。それに、彼の階級は三尉。私の次に権力を持っているからその辺は各自考える様に」


 部屋の空気が凍る。それだけエルノアの威圧感が強いのだろう。部屋にいた兵士は慌てて『はっ!』と返事を返した。


「ちなみに、基本的に私達は非戦闘員なの」


 非戦闘員という言葉に、少しだけ安堵する。不要な戦いはできるだけ避けたいからだ。


「まあ、昨日みたいに緊急の要請で任務に同行する場合があるから、必ず安全とは言えないんだけどね。まあ、その場合は呼ばれるのは私だけになるわ。あ、でも翔流君が魔素を操れるようになればこの中の誰かとペアを組んでもらうって事も出来るようになるわね」


 と言ってエルノアは兵士達に視線を促した。

 その面々は個性的と言ってもいいだろう。


「せっかくだし、皆に自己紹介してもらおうか」


 エルノアの言葉に兵士達は『はっ!』と返事を返した。


「では、自分から紹介させていただきます」

そして、おもむろに一人の男が口を開いた。顎鬚を蓄え黒い髪の毛をオールバックに整えた見るからに紳士な男だ。


「自分は、ラクティ・グレン・ヴァルディアです。階級は准尉。よろしくお願いします、翔流三尉」

「よろしく、ラクティ准尉」


 名前で三尉と呼ばれたのは恐らくエルノアが翔流君と呼んでいたからだろう。だからこちらも名前で呼び返す。


「ラクティ准尉は、カードリッジをはじめとする魔工具生成の第一人者ね。この国の魔工具の試作品には、大体彼が関わっているわ。今は神魔混合魔術を使った魔工具を開発するためにこの部隊に入ってもらったの」

「へぇ」


 やはり、スペシャリストと言うのは間違いではないようだ。


「じゃあ次は、私が」


 次に口を開いたのは、見るからに若い女の子だった。まだ幼い顔立ちに不釣り合いにかけられた眼鏡。肩の辺りで切りそろえた少し癖のついた栗色の髪を頭の上の方で結っている。所謂ポニーテールと言う奴だ。その髪の所為もあるのかもしれないが、見た目だけでいえば翔流よりも全然若い。


「私は、アズマリア・ステリアスです。階級は二曹。よろしくお願いしますね」


 人懐こい笑顔を向ける。印象は活発な少女と言うところか。


「アズマリア二曹は、この軍で最年少の兵士よ。今年で十四歳だっけ?」

「十五ですよ。いつまでも子供扱いしないで下さいよ。エルノア姉さん。……じゃなかったエルノア一佐」

「ふふ、子供扱いされたくないんだったら公私混同している所を直しなさい」

「たまたま出ちゃっただけです」


 アズマリアが小さくむくれる。


「姉さんって、ええ!? エルノアさんってルノアールじゃなかったっけ?」

「あ、いや。あの、違うんです。本当の姉妹じゃなくて……えと、エルノア姉さん……じゃなかった、エルノア一佐はお母さんと言うかなんて言うか」


 耳まで真っ赤にして弁明するアズマリア。たまらずエルノアが助け舟を出す。


「アズマリアはね、戦争孤児だったのよ。それを私が保護者として引き受けたの。だからプライベートでは私の事を姉さんって呼ぶのよ」

「そう! それです!」

「そう! それです! じゃないわよ。全く、いつまでたってもお子ちゃまなんだから」

「むぅ~」  


 むくれるアズマリア。どうやら彼女には子ども扱いは厳禁らしい。正直一歳違うだけならあまり気にしないものだが、この年齢は難しいという事だ。


「ちょっと話が脱線したわね。さっきの続きだけど、アズマリアは神素のコントロールと放出量に関する事だったら、この国で彼女に勝てる人間はハルぐらいよ。階級は年齢の所為で二曹だけど、年齢がなければ、三佐ぐらいの貢献はしているわね」

「三佐って、……すげぇな」


 呟き少女の顔を見る。やはりまだあどけなさが残っている。それを、実力で国に貢献したのだ。それだけでも凄まじい才である。


「じゃあ、最後は俺だな」


 最後に聞こえてきた声はとても軽い声をしていた。一言で言ってしまえば限りなく陽気。その声だけで、まるで最初からそこにいた様な安心感を持たせる様なそんな不思議な声だった。


「俺は、サイト・リファレンス。階級は、曹長。よろしく!」


 パチッとウインクするサイト。軍服をうまく着崩し、茶色い髪の毛は後ろで一本に結っていた。


「サイト曹長は、こう見えても術式を構築するスペシャリストなの。後で詳しく教えるけど、神術っていうのは主に術式を利用して術を発動させるの。ほら、ハルの魔法陣とか出してたの覚えていない?」

「ああ、覚えてる」


 昨日、ハルは事ある毎に、魔法陣を出現させていた。忘れるわけがない。


「あの魔法陣は構築式って言って、それに神素を通す事で術を発動させているの。彼はその術式に関する事だったら恐らくこの軍でもトップクラスね」

「いやだねぇ、エルノア一佐。おだてても何も出ないよ」

「ただ、問題点としては馬鹿な事ね」


 溜息をつくエルノア。一方、サイトの方はそれを見て笑っていた。


「エルノア一佐、ため息つくと皺増え……」


 言い切るよりも早くエルノアの豪快なハイキックがサイトの顔面をとらえた。


「ちょ、……いきなり蹴るなんてひでぇ。でも、お召し物は黒ですか」


 錐もみ上に飛んでいったサイトが鼻を抑えながらも、美しい所作で立ち上がる。この男ソニア三尉よりもタフかもしれない。


「朝から眼福ですな!」


 目をくわっと見開き鼻血を拭うその姿は、変態と言う言葉が相応しい。だがその姿態はラクティとは別の意味での紳士だった。


「……朝からセクハラとか最低です」

「馬鹿言ってんじゃないよ。アズマリア二曹。男はみんなスケベなんだよ。二曹も似合ってるよ? その白いミニのプリーツスカートに黒のハイソックスとか。絶対領域完璧じゃね? 縞パンとかはいてたらパーフェクトじゃね?」

「ちょっと、変なこと言わないでください!」


 ギャーギャーと騒ぐ二人を尻目にエルノアはため息をつく。


「はい、翔流君。変態は視界に入れなくても結構。とまあ、こんな感じかしらね」

「なるほどね」


 第二神技研究部隊と言うのは、中々曲者揃いの職場と言った感じだった。


「じゃあ、翔流君。あそこが君の机だから。好きに使って頂戴」


 そう言ってエルノアが指をさす。そこには何も乗っていないまっさらな机が用意されている。配置的にはアズマリアの横、サイトの正面だ。


「了解です。あっと、そうだ。エルノア一佐」

「エルノアでいいわよ。一佐なんて呼びにくいでしょ。それに、敬語なんて使わなくてもいいわよ。もっと友達に話しかけるようにしてもらって構わないわ」

「そっか、そっちの方がやりやすいから助かる」


 昨日既に、友達の様に話しかけていたのだから敬語を使われると逆にやり辛いのだろう。


「これ、ハルから預かってきた」


 翔流はそう言ってエルノアに書類を渡す。


「……え」


 凄まじい速さで書類に目を通すエルノア。そこにはハルの言った通り、顔を顰めるエルノアがいた。


「どうしたんですか?」


 心配そうにアズマリアが口を開く。


「いいえ。優しい将補様から皆にお仕事が届いただけよ」

「って事は、新しい術式とそれの検証って事?」


 サイトの言葉にエルノアが頷く。その反応を見て項垂れるサイト。


「はっはっは。皆さん大変ですな」

「勿論、ラクティ准尉宛の書類もありますので大丈夫ですよ」

「ぬっ」


 言葉を失うラクティ准尉。


「まあ、私はこれからしばらくは翔流君の教育係と言う役があるので、仕事はそれぞれに振り分けておきます。それでは、今日も一日頑張りましょう」 

 エルノアの言葉に全員が動き始める。そして、すぐに仕事に取り掛かった。


いつも読んで下さり、ありがとうございます。

感想、御意見、誤字脱字報告など、ありましたらご一報いただけるとありがたいです。


次回は四月十四日、正午にアップします

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