知らない天井と部屋事情
いつも読んで下さりありがとうございます。
本日二回目の投稿です。
でも、今日は頑張ってもう一本上がります。
眼に映る知らない天井。
「ったく。目、覚めたか? 翔流」
嘆息交じりに呟くハル。
「またこのパターンかよ。今日はよく気絶する日だ」
眼に映ったハルの姿を確認し、身体を起こしてみるとそこには、アレスとエルノアがいた。
「まったく、お前は無茶しすぎなんだよ。神術で治したからいいものの、肋はグチャグチャで折れた肋骨が肺に刺さって肺はつぶれてるし、鼻骨は骨折してるし、重体もいいとこだ」
「そんなに酷い怪我だったのか」
「そんなに酷い怪我だったのかって、自覚がないのも考え物だな、翔流。いくら不死になったと言っても痛覚はあるんだろ? やばいと思ったらやめてくれ、頼むから」
眼の前の幼馴染は怒りから愁嘆へと変わっていった。
「わりぃ」
「まあ、あそこでお前が負けてたら、これは手に入らなかったけどな」
そう言ってハルは翔流に一枚のカードと携帯電話を差し出した。
「おめでとう、翔流。お前は今日から三尉だ。これは、お前のIDカードだから失くすなよ? それとそっちのはお前専用の携帯な」
ハルの口から放たれた慶賀。それは翔流が勝利したという証だ。
「ソニア三尉はどうなった?」
腕に残る感覚。それと耳に残る音。正直あの技はこの世界では流布していない技だ。どんな事をされるかわからない状態であの技を食らえば、大概は脚の筋を断裂する。そうなればしばらく動く事などかなわない筈だ。
「もうとっくに神術で治して自分の仕事に戻ったよ」
「そっか」
神術とは本当に便利な物だ。翔流は心の中で思う。
「それと、ソニア三尉からの伝言で次に手合わせするまでに魔術を使えるようにしておけだとさ。めんどくさい奴に惚れられたな」
「実際『この者を是非私の部隊に配属させてください』って懇願されたしな」
「まだ言ってたのか、あの人」
アレスの言葉に翔流は苦笑した。
「まあ、君の所属先ももう決まっている。明日の就任の儀でも発表するが第二神技研究部隊だ。君にはエルノアの下についてもらう事になる」
「エルノアさんの?」
「まずは、翔流にはこの世界の事や、魔素の使い方を学んでいってもらわないとならない。そしてこの国で魔素を所有しているのはエルノアしかいない。そうなれば適任者はエルノアって事になる」
「そっか」
「ビシバシ教えていくから覚悟してね」
エルノアはそう言って妖艶な笑みを浮かべた。ハルが後ろで小さく『ドS』と呟いたがその言葉は、翔流には聞こえていなかった。
「それと、これは我がアズラベル軍からの餞別だ」
アレスはそう言って何かの入った封筒を差し出す。その封筒は分厚く受け取ると結構な重量感があった。
「なんですか、これ」
封筒を開けてみるとそこには紙の束が入っていた。
「それはこの国の紙幣だよ。百万ゼント入ってる。それだけあれば必要な物は大概揃えられるさ」
「百万ゼント?」
正直その金額がどれほどの価値を持っているかは分からなかったが、恐らくは大金なのだろう。
「ああ、ゼントっていうのは殆ど円とおなじに考えてもらっていいぜ。種類も一ゼント、五ゼント、十ゼント、五十ゼント、百ゼント、五百ゼントが硬貨で、千ゼント、五千ゼント、一万ゼントで別れてる。まあ、日本とは物価が違うから同じどおりに計算すると大分狂うぞ、そうだな物価は日本の十分の一って考えてくれればいい」
つまり、ハルの説明に当て嵌めていけば一千万円分を支給されたという事になる。
「ちょ、そんな金もらえねぇよ」
あまりの金額の多さに、慌てる翔流。
「ははは、何慌ててんだよ。この金はお前が軍に入隊する時に発生した基本報酬なんだぜ。お前はそれをもらう権利があるんだよ。この国では志願兵制度を取っててな、入隊した者には入隊金が支払われるんだ」
「そう……なのか」
それにしても百万ゼントは多いと思ってしまう。
(俺って貧乏性なのか?)
なんて考えてしまうが昨日まではしがない高校生だったのだ。別に翔流の金銭感覚は間違っているわけではない。
「それに、お前はこれから必要な物を買いそろえて行かなくちゃいけないんだ。金はあった方がいいだろ」
「まあ、確かに……」
「ああ、金で思い出したが、毎月給料も支給される。まあ、詳しい話は明日の就任の儀で進めて行こう」
「……はあ」
「さてと。渡すもんも渡したし、動けるか? 翔流」
「ああ。問題ないと思う」
肋を擦ってみるが痛みは無い。どうやら完全に完治しているようだ。
「じゃあ、次はお前の部屋に案内するからついてこいよ」
まるで自分の事の様に高揚するハル。
「今日は、これから忙しくなるぞ~!!」
そこには無駄に張り切る幼馴染の姿があった。
◆ ◇ ◆
「すげぇ」
口をポカーンと開く翔流。先ほどまで激戦を繰り広げていた人物とは思えないぐらい間が抜けていた。そして、彼の目の前に広がる部屋。ここはセントラルタワーの五十五階にある一室だ。ハルの話だと、このクラールに勤務するアズラベル軍の兵士は、このセントラルタワーに部屋を持つか、近隣にあるマンションに部屋を間借りして暮らしているらしい。そして、今回翔流はハルとアレスの計らいにより、セントラルタワーの一室を間借りする事になった。まあ、間借りと言ってもセントラルタワーに住む場合は家賃は発生しないらしいのだが。
そして、今翔流達はその部屋を見ているのである。その部屋は、まるで張り替えた直後の様に一遍の曇りもない白を基調とした壁紙と、ピカピカに反射して光沢を放つフローディング。俗に言うリビングと言う奴だ。そのリビングには、ソファーとテーブル、そして机とミドルタワー型の端末が設置されていた。そしてキッチンには備え付けの電子レンジと冷蔵庫が完備されている。そして、勿論の事ながら風呂とトイレ別に分かれてた。
「そうか? 幹部だったらこの部屋は狭すぎる方だぞ? この部屋は一般兵士用の部屋だしな」
「は? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。この部屋のどこが狭いんだよ」
驚愕する翔流。その他にも十四畳の空き部屋と、九畳の寝室が付いていた。一人暮らしを想定するには相当広い。そして、それぞれの部屋にご丁寧に端末が付いていた。ハル曰く、兵士はいつどんな時でも情報を集める必要があるためだと言っていた。
「私は、これと同じ間取りの部屋が三つあるわ」
「ちなみに俺の部屋は一フロアな」
その時点で既に部屋ではない。その返答に翔流は虚脱感に駆られる。
「俺の部屋は六十六階から上が俺の部屋だ」
ちなみに、セントラルタワーは六十八階建てとハルが言っていたのでアレスの部屋は二フロア分となる。話を聞けばそれぞれにマッサージルームやスパ施設、書庫や書斎と振り分けているらしい。アレスに至っては一フロアを丸々戦闘訓練室として設けているらしい。
(……こいつら、規格が違いすぎる)
日本では翔流の部屋は八畳だった。一般家庭ではそれでも十分に広い方だとも言える。
(寝室に負ける俺の部屋って……)
愕然とする翔流。
「さてと、まずはこれから生活して行く上で欲しい物の調達だな」
ハルはそう言ってポケットからPDAを取りだす。
「えと、生活必需品として、衣服とタオル系は絶対必要だよな」
そう呟いてPDAに入力していく。
「洗濯機と乾燥機は備え付けられてるからいいとして」
ハルの声に驚愕しながら浴室へ走るとそこにはドラム式の洗濯機が備え付けられていた。
(至れり尽くせりってこの事だな)
急に自分の置かれている状況が怖くなるがとりあえずリビングに足を向ける。
「だから、テレビは五十型以上は絶対必要だって!」
「そんな事よりも音響システムにこだわるべきよ!」
「それだったらいっそプロジェクターにしちまえよ!」
三人は、どうでもいい事で口論していた。
「……俺の部屋なんだけどなぁ。もっと質素でいいんだけどなぁ」
呟くが翔流の声は三人には届いていなかった。
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次回は本日午後十時にアップします