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虚無の王  作者: 上月海斗
第一章 『終焉』と異世界
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タフVSタフ

いつも読んで下さりありがとうございます。

本日は、三話投稿です。次の話は本日午後六時にアップします。

 闘技場の中央で睨み合う二人。ギャラリーからは歓声が上がり異様な盛り上がりを見せていた。


「名前は?」

「浅葱翔流」

「翔流か。俺はソニア・イクリプス。君の健闘を祈る」


 見た目とは違い、意外と好青年と言った所か。そして、この人物は対峙して初めて分かったがまだ若い。

差し出される拳。その拳を軽く合わせる。触れ合う拳。この事は試合開始を表していた。


(まずは出方をみるか)


 この時、翔流の選んだ戦法は後の先である。後の先とは分かりやすく言えば相手の攻撃を予測し受け、外した後の返し技行う事、つまり相手の攻撃を読んだうえでのカウンター攻撃になる。厭くまで相手の動きを見てから作戦を立てるので無難と言えば無難だろう。


 奇妙な間合い。互いの制空圏が触れ合うぐらいの間合いだった。ちなみに二人の制空圏は武器を所有していない為、単純に考えて自分の四肢が届く範囲の事だ。この距離を考慮し攻撃を予想する。


 どちらも硬直状態が続く。均衡する睨み合い。だが、それは一瞬にして破られる。地面が蹴られた。縮まる距離。ソニアが動いたのである。


 まずは挨拶代わりとも言える左ストレート。モーションが少なく無駄のない動き。閃光の様な左ストレートが翔流を襲う。


 恐らく相手も様子を見たいのだろう。


「ちっ!」


 想像よりも速い攻撃に毒づきながらも右手で手刀を叩き込み軌道を反らす。

 痺れる右手。それはその攻撃が重い事を意味した。


「ほう」


 翔流の手刀に興味を持ったのか、ソニアは小さく笑い続けざまに攻撃を仕掛けてくる。上段回し蹴りから水面蹴り、立ち上がり様に踵を天に向かって突き上げる。その一つ一つが洗練された動きだった。だが受ける事に徹している翔流もそれはすべて見切り丁寧に攻撃を受け流していった。


(一つ一つの攻撃が重いな)


 恐らく頭にクリーンヒットすれば根こそぎ意識を刈り取られるだろう。


(けど、やっぱりテコンドーベースだな)


 なんとなくだが、蹴り足の軌道を理解する。それさえ頭の中に叩き込めばなんとか戦う事は出来る。


(さて、狙うか)


 次に来る技に狙いを定め、静かに攻撃を待つ。恐らく相手も翔流が後の先を狙っているのは既に気が付いているだろう。

だがソニアはそんな事お構いなしに鞭のように足を撓らせ、再び中段後ろ回し蹴りを放つ。


 軌道を冷静に読む翔流。そして翔流は今日初めて攻撃を仕掛けた。


「……ぐぅ」


 ソニアから苦悶の声が漏れた。ソニアのアキレス腱に翔流の肘が突き刺さっていたのだ。


 翔流のとった行動、それはソニアの後ろ回し蹴りに肘鉄を合わせる事だった。狙うべきはアキレス腱断裂。アキレス腱は、蹴り技には絶対不可欠なものだ。それさえ破壊できれば勝負は一瞬で決まるのだが、ソニアは寸前でその行動を読み取り少しだけ軌道を反らしたのだ。


(壊れなかったか)


 小さく舌打ちをした後、翔流はソニアからの距離を空けた。冷静に相手を捉える為に。刹那、ソニアの眼がより冷酷なものへと変わる。これは恐らく翔流を舐めていた自分への戒めなのだろう。相手は最小の動きで隙の小さい技で攻めてくるのは明白だった。だがそれでも翔流の目標は変わらない。厭くまで部位破壊を最優先に戦うだけだ。


 苦痛に顔を歪ませながらもソニアが地面を蹴る。一瞬で距離を詰め、それと同時にローキックを放つ。それを翔流は膝を立て防いだ。だが、何千、何万と蹴り続けた足にはダメージを与える事は出来ない。


 続いて突きだされる右の拳。それを左腕の肘鉄で返す。


 徹底的な部分破壊。翔流が今行っているのは、『倒す空手』ではない。『壊す空手』なのだ。


「厭くまで、カウンターでくるか。ならば」


 小さく呟くソニア。左足を軸に右足を高く上げる。上段の回し蹴りが翔流を襲う。それを待っていたと言わんばかりに翔流の拳がソニアの膝に向かって放たれた。終わったと言わんばかりの渾身の突き。だがそれは翔流の驕りだった。


 拳が空を切る。ソニアが途中で蹴りの軌道を変えたのである。そして、ガードもない翔流の脇腹に中段回し蹴りが炸裂した。重い一撃。ソニアがやったのは後の後と言われるカウンターだった。くの字に折れ、苦悶の表情を浮かべる翔流。だがそれで終わりではない。


「まだだ」


 ソニアほどの手慣れが、その隙を逃すわけがなかった。怒涛の様に放たれる足技の数々。


 二段蹴りから上段回し蹴り、そしてその反動を利用して渾身の突き返し蹴りへとつないでいく。


 すべての蹴りが翔流にクリーンヒットし、最後の突き返し蹴りが決まった瞬間、翔流の身体は石畳に叩きつけられた。

突き返し蹴りとは、円を描くような打ち下ろしの蹴りだ。一八〇を超える長身から繰り出された蹴りの威力は凄まじいものだった。


「ぐあっ」


 短く発せられた声。その声にソニアは構えを解いた。


「っつ」


 必死で痛みを堪えているのだろう。石畳に叩きつけられたときに頭を打ったのか、額からは血が流れていた。だが、そんな事は関係ないと言わんばかりにゆっくりと立ち上がる翔流。


「まだ立ち上がるか」

「へへ、意外とタフっしょ」

「ああ、その頑丈さは称賛に値する」

「そりゃどうも」


 再び構えを取る二人。


「ったく、なれねぇ事なんかするんじゃなかった。やっぱりカウンターは趣味じゃねぇ」


 そう言い残し翔流は地面を蹴る。

 右のストレートから左のフック。そして、フックの回転を利用した後ろ回し蹴りへとつないでいく。


「それが貴様の本性か」


 攻撃を受け流しながらソニアが口を開いた。


「本性? まさか。これからでしょ」


 左手のノーモーションを放ちながら翔流が呟く。眉間を狙った一撃。そしてインパクトの瞬間、拳を解き、指を鞭のように撓らせた。拍子のとれなかったソニアの両目に翔流の貫き手が直撃する。


(かかった!)


 翔流がノーモーションの左を放ったのは二つの意味がある。一つは相手への精神的なダメージ。ノーモーションとは手打ちな為、予備動作が読めない分拳が見えないのだ。そしてもう一つは一瞬のフラッシュを起こさせたかったのだ。


 戦いに措いて、一秒でも視界を奪う事が出来たらどれほど戦況が変わるだろう。翔流の顔面への攻撃はそれを実現させていた。


「さあ、覚悟しな」


 繰り出される攻撃の嵐。翔流の四肢がソニアを襲う。


「ぐっ」


 堪らず身を固めガードに専念するソニア。だがそれは、翔流にとっては好都合な事だ。


 右フック、横蹴り、ローキック、裏拳、右アッパー、左ストレート。どの攻撃がどこに被弾しようと構わない。ガードの上からでも構わず打ちつける。


 頭突き、肝臓打ち、正拳、膝蹴り、肘鉄。


 次第に翔流の息が上がってくる。だが、それでも翔流は息を止める様に連打を繰り返す。すべてはあの一撃の為に。


 手刀、裏打ち、スマッシュ、回転肘打ち。次第にソニアのガードが下がり手応えのある攻撃も増えてきた。そして、ガードが下がりソニアの顔面が露出した瞬間翔流は跳躍した。あの大技を繰り出す為に。今日は一度かわされてしまったあの大技を。

 前転宙返りの要領で足を鞭のように撓らせる。目標は眉間だ。全身のバネを使い遠心力をすべての力に乗せる。そしてインパクトの瞬間に確かな手ごたえを感じた。渾身の胴回し蹴り。崩れ落ちるソニア。湧き上がる会場。


「っはぁはあ、どうだ!」


 呼吸が乱れる。恐らく今立たれれば勝機は無くなるだろう。満身創痍とはまさにこの事だろうと実感する。自然と笑みがこぼれた。勝利を確信しハルに向けて手を挙げた。


 その瞬間だった。脚に走る衝撃。ソニアの水面蹴りが見事に決まったのである。


 首から地面に落ちる翔流。


「くっ、さっきのは中々効いたぞ。翔流」

「……どんだけタフなんだよ」


 呆れたように呟く。


「それはお互い様だろ!」


 翔流よりも早く立ち上がったソニアが翔流の顔面へミドルキックを叩き込んだ。吹き飛ぶ翔流。


「ぅあ……」


 顔面を抑え、それでも立とうとする翔流。


「翔流よ、素直に負けを認めたらどうだ?」


 再び放たれるミドルキックが脇腹に突き刺さる。ボキッと嫌な音が聞こえる。


「肋が折れたか。さあ、負けを認めるか?」

「……嫌だ」


 肋を抑えて立ち上がる翔流。


「強情な奴だ。だがそれがいい。君の様な人間は是非部下にしたいものだ」

「ふん、願い下げだ」

「まあいい、これで終わりにしてやる。ゆっくりと眠れ!」


 三度放たれたミドルキック。狙いは勿論、折れた肋だ。


(こりゃ、ここで意地を見せないとまずいか)


 ドフッと言う音が闘技場に響く。


 ソニアの足は翔流の脇腹にクリーンヒットしていた。口からは大量の血を吐きだしている。折れた肋が肺に刺さったのだろう。


「終わったな」


 脚を戻そうとするソニア。その時だった。


「捕まえた」


 翔流の腕がソニアの脚に絡みつく。


「なっ」


 驚愕するソニア、そして対照的に笑う翔流。


「怨むなよ」


 翔流はそう言ってソニアの脚を抱きか掛け錐揉み状に回転した。ブチッと言う音が闘技場を静まり返らせた。脚の靭帯をねじ切ったのだ。


 所謂、プロレス技のドラゴンスクリューである。


 翔流が最初に翔流がこだわっていた部位破壊。それを最後に実現したのだ。そして、その拍子にソニア三尉は頭から地面に倒れ込んだ。


「……ドラゴンスクリュー」


 小さく呟かれたハルの言葉の一瞬後、闘技場に歓声が走った。

 失神するソニアに翔流が呟く。


「俺の勝ちだ」


 そう言い残し翔流は意識を手放した。


いつも読んで下さり、ありがとうございます。

感想、御意見、誤字脱字報告など、ありましたらご一報いただけるとありがたいです。


次回は本日、午後六時にアップします

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