プロローグ すべての終わりと始まり
初めましての人は初めまして。そうでない人はお久しぶりです。上月海斗と申します。
この小説は以前書いていたものですが、このたび数年ぶりに執筆しようと思い、投稿させていただきました。(ハードディスクがいかれて現本が消えてしまったのでかなり悩みましたが)
王道のファンタジーが好きで、最近の流行とは少し毛並みが違いますがよろしくお願いします。
それと、表現力が足りないのは、単に私のレベルが低いからです。
かなりご都合主義なところもあると思いますが、長い目で見てもらえるとうれしいです。技術は向上するものですから。
それでは、本文をお楽しみください。
「これより私が語るのは、虚無の王として語られた、エルドルガ国の王の物語である」
バーのホールに響く老婆の声。黒いローブを頭から深くかぶり、その表情は伺えないが、その声は愉悦と誇りにあふれていた。
老婆は手に持っていた本を一ページだけ捲る。
「物語は今から千年程前、アズラベルとダーゼルムの争いから始まる」
老婆は、まるでその時の事を噛み締めるかのようにゆっくりと物語を紡いでいく。
そう、一つ一つを思い出すかのようにゆっくりと……。
◆ ◇ ◆
暗澹の空が、世界を覆う。
吹き荒れる風、瓦礫の山。煤混じりの雨が世界を濡らす。
横殴りに吹き付ける漆黒の雨。まるで世界の終りのようだった。
「畜生! 俺にもっと力があれば」
慟哭。
そこには、二人の青年が居た。
一人は横たわり、もう一人はその青年を守るように見守っていた。
横たわる青年から流れる、夥しい血。そして、その腹部には剣が刺されていた。
「……アレス」
小さく呟かれた言葉。それに応えるようにアレスと呼ばれた青年は、横たわる青年の手を握る。
「ああ、ここだ。俺はここにいるぞ、ハル」
「……よかった。俺は、アズラベルを救えたのかな? 本当に、あれでよかったのかな?」
消えそうな言葉。その言葉が紡がれるのも時間の問題だろう。それほどまでに致命傷とも言っていいほどの傷。間もなく命の灯は消えるであろう。
「ああ、お前は良くやったよ。お前が居なければアズラベルは滅んでいた。お前が、ダルクスと戦わなければ間違いなくこのアズラベルの国は滅んでいたよ」
震える声。絞り出すように紡がれた言葉は、ハルと呼ばれた青年を安堵させる。
「……でも、倒せなかったんだ。あいつを救えなかったんだよ」
「ああ」
アレスの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「泣くなよ、アレス」
弱々しい声。だが、その声には芯がある。真っ直ぐな眼差し。
「……だってさぁ。……何でハルなんだよ。これしか方法がないって言ったって……魂を融合させるなんて」
そう、彼の腹部に刺さった剣は自分で刺したものだ。つまりは自害したのである。
「馬鹿野郎。それが国を制する者の吐くセリフかよ。お前は踏ん反り返って俺達に命令すればいいんだよ」
最後の憎まれ口。
「わかってるよ。……でもさ」
「馬鹿げてるよな、自分でもそう思うよ。でも、そうするしかなかったんだ。ダルクスはいつか絶対に転生をする。だけど、それがいつになるかはわからない。もしかしたらこの世界じゃないかもしれない。だから魂を融合させたんだ。あいつが転生する時に俺も転生できるように。けじめはちゃんとつけるさ。それがいつになるかはわからないけどな。その時はまた力を貸してくれよな、アレス」
そう言って青年は瞳を閉じる。
「ああ、絶対に転生したお前を見つけ出してやるよ」
「ああ。……じゃあな。精霊王アレス」
「じゃあな。大賢者ハルト」
交わされた挨拶。この言葉を最後に一つの命の炎は消えた。