Scene 9. 地下に謎の迷宮!?
7号機の操縦席に座っていた人型義体が機体を降り、低い建物に向かった。人型義体は全て同じ容姿をしている。
自分の意識が宿った義体が男性型ということは少しショック(といってもロボットの機体よりはマシだけど)だったし、レオやミッキーやローズとのお姫様ごっこ気分を楽しみたかったから、自分の容姿を確かめることはあえてしてなかった。だから、人型義体をまじまじと見るのはこれが初めてだった。
細身の体型で、背が高く、さわやかな短髪のイケメンだった。表情が無いけど、笑顔を見せたらきっとやばいと思う。
正面のモニターに義体の視界が映し出された。低い建物の入り口には扉がなかった。その中に入る。
中はどこに照明があるのかわからなかったけれど、明るかった。外の廃墟と違って、古びた感じが一切しない。体育館のように広い空間が拡がっていた。その真中に、丸い円が描かれていた。なにやら複雑な紋様が書いてある。その円のふちに沿って手すりが一周していた。円の内側に人の腰ぐらいの高さの台がある。操作盤かもしれない。
7号機の義体は円形の手すりを抜け、円の中にある台の前に立った。操作盤が見えた。操作盤といっても、ただボタンが並んでいるだけだった。ボタンがたくさんあり、数字が書いてある。ボタン以外には何も無い。
「B50!?B50って地下50階ってこと?」私は思わず声を上げた。
「おそらく。」レオは冷静に答えた。
義体はB1のボタンを押した。すると、床に描かれた円の紋様部分が凹み、手すりとともに沈み始めた。そのままゆっくりと円形のエレベーターが降下をはじめた。
しばらくして急に大きな空間が眼の前にひらけた。地表がだいぶ下に見える。地下一階の地表までは数十メートルがありそうだ。義体が上を向くと、天井に丸くぽっかりと穴が空いていた。エレベーターで通ってきた場所だ。エレベーターはよく知っているビルのエレベータとは違い、円柱の形をしているようだ。円柱の上の面に紋様が描かれ、その上に義体が立っている。まるで地中に円柱が吸い込まれていくようにして降下しているようだ。
地下1階は暗く。遠くが見えない。基地で見た格納庫のよりも一回りも二周りも大きく広そうだ。ただし、ロボットは並んでいない。
しばらくしてエレベーターは地表にたどり着いた。
「どうしよう?」
「引き返させたほうがいい感じだね。ちょっと、深すぎて各種センサーが働かないんだ。どんな危険があるか察知できない。通信も少し不安定のようだ。周囲の様子もわからないし、さらに下の階は論外だね。」
「あらら。そうか。残念。そうね。この調子で地下50階まであるようなら、どんだけなのか。仕方ないね。戻ってもらおうか。」
「うん。ただ、装備を整えれば、もう少し探索できるかもしれない。」
私は装備とやらについてレオに尋ねた。機体についている装置は、部分的に取り外すことができるらしく、それを携行していけば通信も索敵もできるということだった。センサー類と通信機器を取り外して持っていくことができるらしい。
「それとね、姫。頭部のガトリング砲も外せるんだ。」
「え!?外せるの?」
「ああ。下でも魔獣が出るかも知れないし、持って行かせたほうがいいだろうね。大型の魔獣でもなければ、充分対処できるんじゃないかな。」
「うん。じゃぁ、わかった。行こう。私も地下探検する!!」
「え?姫もいくのかい?まだ安全とは言えないんだよ。」
「うん、わかってる。でも、行きたいの。私さ、何もかも任せっきりにしたくないの。自分の目で見て、体験してみたい。」
「うーん。困ったな。」
「それにさ、召喚したコの義体ってさ、活動時間に限界があるじゃん。召喚は便利だし、助かるけど、時間制限あるからね。何事も結局最後は自分でやるしかないって思うの。」
「そうか。うーん。そうだね。姫がそういうモチベーションを持ってきたというのは嬉しいことだし。・・・うん。わかったよ。ただし、トレーニングをしてからにしよう。」
「トレーニング?」
「うん。義体での戦闘トレーニングさ。トレーニングを積んで、大丈夫だと思えるようになったら、地下探索を開始しよう。」
「えっ!?そんなのできないよ!できるわけないって。わたし、スポーツとか苦手だったし。どんだけ時間がかかるのかわかんないよ。」
「心配は要らないんじゃないかな。義体の性能は有機生命体のそれとは全くの別次元だからね。」
私は納得いかなかったけれど、レオのすすめに従うことにした。運動なんて苦手だし、身体を動かすなんて疲れて面倒なだけだと思っていたから、戦闘だなんて想像がつかない。といっても地下探索をするっていうのは自分が言いだしたことだし、なんとかやってみようと思った。
そして、当初の心配はすぐに杞憂に終わった。3日もしないうちに私は戦闘の達人になっている自分を発見することになるのだ。