Scene 8. 廃墟都市見〜つけた!
ワーム型魔獣に襲われ、やむなく自爆してしまった件を私はワーム事件と呼ぶようにした。
ワーム事件のあと、爆発でできたクレーターのいたるところに落ちていたドロップアイテムをかき集めた。集めたマジックコインは相当な量になっていた。
マジックコインを使って、まずは索敵機能をレベルAまでに上げた。これによって、基地との通信もできるようになった。目論見通り、レオのバックアップを基地に保存することができるようになった。これで倒されてしまった後にコンティニューしても、レオも一緒に復活できる。ただ、レベルをB以上に上げていくと、一定の割合で残機がすくなくなるということだった。けれど、わずかな数字だったので気にはならなかった。
索敵機能が向上することで、魔素レーダーの性能が上がり、不用意に危険地帯に入ってしまうのを防げるようになった。
そして、私の仲間が増えた。
「ミッキー、右の群れをお願い。」私は言った。
「アイサー。姫。」と通信を返して、ミッキーの機体が右方向に進んでいく。そうそう、ようやくホバー機能をカスタマイズし、レベルBまでアップグレードした。ホバー機能のおかげで、ミッキーの機体はショートスキーでもしているような格好で荒れ地を滑り、魔獣の群れを追いかけた。
必殺技のスキル「100機無双’は一時的に100機を呼び出すことができるが、それは一瞬にして終わってしまう。その代わり、一度に召喚する数を少なくすると帰還までの時間が長くなる。2機の召喚なら24時間は活動してくれる。2機が帰還しても、また別の2機をすぐに召喚できるので、常時2機体を召喚し続けることにした。そうして、私は2機の僚機を従えて、魔獣を倒しながら、大きな川の下流をめざしていた。
ミッキーは馬のような魔獣の群れを追いかけながら、ほどよく距離を取りつつ、ライフル銃で獲物を一匹ずつ正確に倒した。
初期装備では銃の類はなかったけれど、遠距離攻撃を強化したくて、長距離ライフル銃をカスタマイズした。とにかくこの機体は外装の強度が無い。極端に言えば、アルミホイルを外装にしているようなものだった。
「姫さま。正面を掃討しますので、少々ここでおまちください。」とローズが通信してきた。
ミッキーはお喋りでお調子者の近衛兵、ローズは無口な女騎士という設定にしていた。各機体の支援AIが私のために、人間のフリをしながら相手をしてくれていた。
私は魔獣と距離を取るために、その場で待機した。ミッキーとローズはそれぞれに魔獣を倒し、マジックコインを集めて帰ってきた。敵が強ければコインは多く、弱ければ獲得できるコインは少なかった。
「姫さま。早いですが、そろそろ活動時間が終わりますので。」とローズが通信してきた。
「もう、そんな時間なんだね。うん。ありがとう。レオ、お願い」と私は応えた。
レオが新たに2機体を召喚してくれた。そろそろ交代の時間だった。今まで戦闘してくれていたミッキーとローズの活動限界時間が近づいていた。新しく召喚した2機体と通信ができるようになると、ミッキーとローズは、それぞれのデータを新しい機体に転送し始めた。
5分ぐらいすると、データの転送は完了し、新ミッキーと新ローズが、それぞれの旧ミッキーと旧ローズにお別れを言い、2体の旧召喚機体は帰還した。その場から消えて居なくなった。
「待たせたな。姫。行こうぜ。調子はバッチリだ!」とミッキーが通信した。
「うん。じゃぁ、行こうか。」と私は応えた。
私達は川沿いの草原地帯を疾走した。最高速度は250キロまで出た。本当はレベルA以上にカスタマイズしたかったけど、我慢した。とにかく、機体の強度が弱い。急なターンなどしたら、脚部が壊れてしまう。外装も構造躯体もまともな強度が無かった。
外装の強度を上げることもできたが、そうすると急に重量が増してしまう。重量級の機体にしたいならそれでもいいが、この世界をまずは探検したいと思ったから、移動能力を優先した。運動性能もレベルBまでカスタマイズした。巨体ではあるが。すばやい動作ができるようになってい。
機体性能の向上だけでなく、武器のカスタマイズも行った。初期装備には無かった長距離ライフル銃がそれだ。とにかく、逃げ足を早く、そして遠距離から安全に相手を仕留めるという考え方だった。いまのところ、この作戦は順調だった。いろいろな魔獣と遭遇したが、今のところ窮地に陥るようなことは無かった。
気持ち悪いワーム型魔獣の群れにも何度か遭遇した。かなり手強い相手だが、やはり距離を取って攻撃すればリスクは少ない。ライフル銃は通常弾以外にもナパーム弾やグレネード弾。地中用の魚雷弾などに換装することができた。特に地中用の魚雷弾は効果的で、地中を移動するワームをいとも簡単に倒せた。
その日、夕暮れが終わろうとした頃、わたしたちは海にほど近い丘についた。ワーム事件の時、空高く飛ばされた時に見えたのはやはり海だった。海に沈む夕陽をしばらく丘から眺めた。
「廃墟のようだね。それも相当古い。人型の生命体の反応は無いようだ。」レオが言った。
丘から見える海沿いの地形は古い都市のように見えなくもない。高い建物はないが建物を思わせる残骸が拡がっていて、草木が生い茂っている。なんとなく道路だったと思われるような地形が存在している。
「20機体ぐらい召喚して、ローラー作戦みたいに、調査してみたらどうかしら?」私はレオに尋ねた。
「うん。悪くないね。かなり広いけど2時間ほどで調べられるんじゃないか。」
「うん。じゃぁ、それでいきましょう。」
レオは20機を召喚し、彼らは一斉に丘を下って、都市の探索に入った。20機体のモニター映像が、全面のスクリーンに映し出される。
ところどころの探索で小型の魔獣と遭遇したが、探索を優先して戦闘は禁じた。狩ったところで、たいしたマジックコインにもならそうだった。
都市の中央の探索にかかった頃、一画だけ、その他とは異なった地域があった。石造りの広場の中央に低い建物が現存し、その周辺は草木が生い茂るこが無かった。あきらかにここだけ行きている場所という雰囲気があった。
「レオ。なんだろう?」
「少し、待ってね。今、センサーの情報を受け取ってるから。・・・おお。これは中に人間用のエレベータがあるね。地下があるようだ。ただ、地下の状況はわからない。エレベーターで降りてみないと。」
「うーん。どうしよう。」
「7号機の人型義体を向かわせてみるのはどうだろう?本体が乗れるようなエレベータのサイズではないし、地下に向けて穴を掘るというのも現実的ではないね。だから、義体でまずは向かうのがいいんじゃないかな。」
「危険じゃない?」
「そうだね。何があるかはわからない。」
「義体が壊れたらどうなるの?」
「本体ではないから、残機数には影響しないと思う。ただ、再召喚時にどうなるかデータが無いからわからない。義体を失った機体を再び召喚した場合に、義体がどうなるか、無くなったままなのか、再生されるのかは不明。」
「うーん。危険じゃないレベルで探索できないかな。」
「そうだね。危険が無いとは断言できないけど、リスクが無い探索も無いだろうからね。」
「わかった。じゃぁ、7号機の機体に行ってもらおう。レオがリモートで操作するの?」
「うん。」
「おっけー。じゃぁ、残りの機体は地表を続けて探索してもらって。」
私はレオに作戦を依頼すると、前のめりになってた身体をもどして、操縦席のシートに深く座って、くつろいだ。