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Scene 6. 復活と再始動だよ!!

 私はふゆ。魔法機械生命体としての2回目の復活を果たした。

 未だ慣れないけど、自分の身体の感覚が大きなロボットの機体と同化している。

 今は地表に出来た巨大なクレーターのようなものの中心に立っている。

 ぐるりと見回して見えるのはむき出しになった土だけだ。それも真っ黒で炭のような土だ。窪地の底に居るから、見えるのは視線の上にあるクレーターの淵と、その上に拡がる空だけだった。空はいつもの透き通った青色ではなくて、暗い灰色の雲に覆われている。核の冬という言葉が頭をよぎった。

 動くものは何も見えない。ただ、この荒んだ光景で異質に見えるものがそこら中にある。近くにも遠くにも、光るドロップアイテムが点在しているのが見える。

「ねえ。ラビちゃん。居るんでしょ?さっきはなんであんなことしたの?いきなり自爆とか、すっごくびっくりしたんだから。」

「・・・・・・・・」

 ラビちゃんは黙っている。

「ラビちゃん。いいんだよ。怒っているわけじゃないの。わかってる。あの状況では自爆が唯一の選択肢だったっていうことでしょ。あのキモい蟲どもを全部やっつけたんだもん。すごいよね。ラビちゃんの判断は正解だったと思ってるよ。」

「・・・・・・・・」

「でもね。ふゆはびっくりしたし、悲しかった。時間の余裕が無かったのはわかっているけど、相談してほしかったの。」

「・・・・・・・・」

「ねえ。ラビちゃん。聞いてる?ねぇ、聞いてるの?なんでさっきから黙ってるの?」

「・・・・・・・・」

「ラビちゃん!ラビちゃんっ!!!どうしたのよ!ふゆとお喋りしてよ!前はあんなに喋ってくれたじゃない!ふゆを助けてよ!ラビちゃんは私を支援してくれるAIなんじゃないの?」

「主体。混乱。混迷。困惑。」

 ラビちゃんがようやく応えてくれた。やっぱり居るんじゃない。

「なに?混乱?そうだよ、ふゆはずっと混乱してるよ!!ずっと怖かったよ!ずっと一人ぼっち寂しかったんだよ!!だけど、ラビちゃんが居てくれたから、この世界でもなんあとか生きてたんだよ。。」

「回答。ラビちゃん。不明。」

「不明って何?ラビちゃんだよ。私が付けてあげた名前じゃない。」

「回答。命名。データ無し。」

「データ無し?名前を付けたのを忘れちゃったってこと?何日前だっけ?基地の中で目覚めて、初めてお喋りしたじゃん。」

 私はなんとなくこの会話が向かう方向がわかっているような気がして不安だった。

「回答。起動。時間。およそ15分。前。推測。ラビちゃん。前機体。搭載AI」

「う、、」

 私は胸が締め付けられた。自分の胸にぼっかりと穴が空くような気がした。その穴を埋めたくて、私は自分を強く抱きしめた(気持ちになった)。

 しばらく何も考えられなくなった。


 どれだけ時間が経ったのかわからない。私は泣くのをやめて、周囲にあるドロップアイテムを拾って歩いた。なんとなく気が向かなくて、自動操縦にはせず、自分の意志で機体を動かして、拾い集めた。

 ドロップアイテムはそこら中に転がっていて、私は黙々と集めた。遠くにも落ちているけど、全てを集めるのには数日かかるかも知れなかった。

3時間ほど集めていると、マジックコインは300万を超えた。

「300万コインか。すごいな。これならホバー機能だけじゃなくて、他のカスタマイズもできそうだな。。」

 無意識にそう呟いていた。

 私は機体のカスタマイズのことを考えた。ホバー機能を付けたら、移動速度が早くなる。蟲に突き飛ばされた時に見えた海にすぐにいけるのかもしれない。でも、その道中でまた蟲たちに襲われるかもしれない。ホバー機能でスピードアップしたら、あいつらから逃げれるだろうか。

 もしかしたら、あの蟲たちよりもっとすごい魔獣がいるのかもしれない。

 もう自爆するのは嫌だった。AIは所詮機械なのかもしれない。だけど私にとっては大事な話し相手だ。この世界でたった一人ぼっちの友達だった。思い出が消えてしまうのは嫌だ。私をちゃんと覚えていてほしい。私という人間を知ってくれて、理解してくれる存在が必要なんだ。そうしないと、自分がまるでどこにも居ないかのように感じてしまう。

 私のことだけじゃない。自爆したらそのAIは消えてなくなっちゃう。ラビちゃんはもう居ない。

 自爆を選択させてしまったあの子も可愛そうだった。生まれて(起動して?)すぐに自爆なんて選択をさせてしまった。一瞬であの子の人生は終わっちゃったんだ。私がバカだから、あの子を死なせちゃったんだ。

 うん、なんでもかんでもラビちゃんに甘えて私は何もしてなかったし、考えても居なかった。ほんと無責任だった。私がもうちょっと気をつけたり、考えたり、注意していたら、ラビちゃんはまだ生きていたのかも知れない。

「あっ!」

 私は声を漏らした。

「ねえ、支援AIさん。機体カスタマイズのメニューに、AIのアップデートって無かったっけ?」

「回答。メニュー。有り。」

「今持ってるコインで足りる?」

「説明。アップグレード。レベルC。864,000コイン。レベルB。5,184,000コイン。」

「うーん。レベルBまであと200万コインか。どうしよう。ふゆ、そんなに頭は悪くないと思うんだけどさ、バカなんだよね。なんか、いろいろ間違っちゃうの。どのカスタマイズメニューがいいかもわかんないし。そうだよね、頭のいいAIさんが居てくれたほうがいいと思うんだよね。」

 AIをレベルBまでカスタマイズすることにして、ドロップアイテムを拾うのを再開した。

 見通しが良くて、なにかに襲われるようには思えなかったけど、できるかぎり周囲を見渡しながら、ドロップアイテムを延々と拾い集めた。

「ふうーっ!これで500万コイン突破!!」

 また数時間掛けて、ようやくコインを回収した。ロボットの身体は痛みとかは感じないけど、腰が疲れたような気がした。

「AIさん、500万コイン貯めたよ。これでレベルBまであげれる?」

「回答。アップグレード。レベルB。可能。」

「うん、じゃぁ、レベルBまでアップグレードお願いします。」

「了解。アップグレード。レベルB。準備。開始。残機数の再計算が発生します。」

 AIが言い終わると、身体の感覚が無くなった。音も遠くに聞こえる。

「準備。完了。アップグレード。プロセス。開始。」

 微かにAIの声が聞こえる。

「レベルE。アップグレード。開始・・・・完了。」

 レベルEになったらしい。特に何かが変わった感じはしない。

「レベルD。アップグレード。開始・・・・・・・・完了。」

 レベルEのときより、少し時間がかかったようだ。

「レベルCにアップグレード開始・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・完了。」

 なんか、口調が変わって、機械っぽい高い声が、人間らしくなってきた。

「レベルBにアップグレードします。シーケンス開始します。」

 さらに人間ぽい口調になってきた。

 何かノイズのような音がした。視界が揺れる。大丈夫だよね、と不安になる。ノイズのような音が大きくなった。耳障りだ。画面の揺れが激しくなったと思ったら、視界が真っ暗になる。何も見えない。音も何も聞こえ無くなった。

 ふっと、また幽体離脱するような感覚を味わった。けれど、視界は暗いままで、宙に浮いていることもない。

 しばらくすると、なにかに吸われているような感覚を味わった。それは一瞬ではなく、かなり長く続いた。だんだんその勢いは強くなり、やがて増していた力は弱まり、次第に吸い込まれる感覚が薄くなった。ほとんど何も感じなくなったと思った頃、視界が明るくなりだした。ゆっくりと視野が戻ってくる。

「ふゆ様。お待たせいたしました。支援AIのレベルBアップグレードが完了いたしました。」

「ふ、ふゆ様っ!?」

 急に名前を呼ばれてびっくりした。すっかり人間らしい口調になっている。優しく、どこか甘さを感じる落ち着いた男性の声だった。声フェチの私からしても合格点だ。イケメンボイスだ。

「この度は多くのマジックコインを費やされ、支援AIであるわたくしをアップグレードしていただき、誠にありがとうございました。このご恩を決して忘れることなく、ふゆ様のために誠心誠意、自らの勤めを果たす所存でございます。」

「あ、うん。はい。こちらこそありがとうございます。よ、よろしくおねがいしますね。」

「御意。そうしましたら、手始めにわたくしの愛称をお決めいただいてもよろしいでしょうか。会話も円滑となりますので。」

「あ、愛称。う、ん、はい。名前ね。名前。えーと。」

 私はなぜか緊張していた。間近で男性の声を聞くなんて経験がなかったからかもしれない。もちろん、お父さんの声は聞いたことがあるけど、それは別物だ。こんなに耳の近く、というか、頭の中だけど、男性の声を、しかもイケメンボイスを聞くとドキッとする。

「そう、そうね。名前。」

「はい。いかがいたしましょう。」

「うんと、えっと、その。」

 私はすぐにあることを思いついた。けれど、自分の考えが幼稚で恥ずかしく思えた。小さい声で言った。

「あのね、王子・・様・・みたいな、名前がいいな。って、ごめん。わたし馬鹿みたいね。」

「御意。それでは、いくつか候補をご用意させていただきます。」

 そう言うと、候補の名前が文字として眼の前に浮かんだ。


アレクセイアス・アルテリウス

レオヴァルト・セリディオン

カシリアン・エルドラード

ディオスクール・アルクレイ

リリエンダール・ファイアブレイズ


「いかがでしょうか。ふゆ様。」

「レオヴァルト、が、いいかな。レオヴァルト。うん。いいんじゃないかな。ふゆは、レオって呼ぶね。」

「御意。ふゆ様。仰せのままに。この不肖レオヴァルト、全身全霊でふゆ様を支援させていただきます。」

「あ、うん。あと、あ、うん。」

「はい。他になにかございますでしょうか。」

「うん。その、御意、とか。ちょっとやめたいな。もうちょっと親しい感じっていうか。そうだな、年上のお兄さんみたいな感じがいいな。」

 レオはしばらく黙っていた。

「・・・・わかったよ、ふゆ。こんな感じでどうかな。」

 さっきより少し声が若返ったような気がした。でも、変わらず優しくて、力強さを感じるし、頼もしくて。レオの声を聞くと、身体が火照ったような気がする。

「うん。」

 私は消え入るような声で応えた。けっこう、異世界転生もののアニメとか好きで、王子様と出会うみたいな話が好きだった。私は人間じゃないし、レオもAIだけど、それでもなぜか嬉しかった。王子様ごっこが楽しくなりそうな気がした。嬉しかったし、緊張した。

「レオ、それで、あとひとつ。」

「なんだい、ふゆ。」

 私は緊張していた。

「あのね、ふゆね、姫って呼ばれたいの。ふゆ姫でも、姫でもいいよ。」

「ああ。わかったよ。姫。これからは姫と呼ぶね。」

 レオの甘い声で胸がキューッとなった。子犬が2、3匹、私の胸の内側でクンクンと鳴いている気がした。

 うん。異世界転生、やっぱり悪くないかもって思えた。




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