Scene 4. T^T なんかちょっとやばい・・
私は芙蓉。今は魔法機械生命体だ。
だいぶこの世界に慣れてきたのか、けっこう退屈になってきた。景色を見るのも飽きてきた。
支援AIのラビちゃんに任せれば、大抵のことはやってくれる。待っていれば、魔獣を倒してマジックコインを集めてくれる。私はただぼーっと、見ていればよかった。
って、嘘です。実はもう見てない。自動操縦に任せて寝る方法というのも覚えた。何かおかしいことがあれば、ラビちゃんが起こしてくれるので、身体(機体?)の感覚を遮断して、見ざる聞かざるで静かにだらけることもできるし、睡眠もとれる。別に眠くないけど。
できればスナックがあったりスイーツがこの世界にもあればいいなぁと思う。今はお腹は空かないけど、空くとか空かないじゃなくて、嗜好品として食べたいなという気持ちはある。きっと、いくら食べても太らないだろうしね。ほんと、この世界はストレスフリーで最高です。
ほら、もう、マジックコインもそろそろ4000近くなってきたし、新しいホバー機能を付けて、ビューンって移動したらきっと楽しいと思うんだよね。私、べつにやりたいこととかは無かったけど、遊園地の絶叫系のアトラクションとか、スリルがあるやつは嫌いじゃないし、スピード狂みたいなところはあるかも。まぁ、面倒だし、付き合いが嫌だったから、あんまり行ったこと無いけど
そうだ、ラビちゃんに聞けば、この身体(機体?)でも、スイーツを食べるみたいない何か満足するような方法を教えてくれるのかも知れない。甘い液体燃料とか、ふわふわスポンジみたいな固形燃料とか。そうか、聞いてみようかな。
と、私がだらだらと考えていると、ラビちゃんがけたたましい声で私を起こした。
「警報!!警報!!魔素濃度上昇!魔素レーダー使用不可!」
「魔素レーダー?魔素レーダーって何!?」
「熱源体!前方地下!出現!」
「えっ?」
よほど急だったのだろう、ラビちゃんは初めて私の質問に答えてくれなかった。
視界の左上に、サーモグラフィーみたいなものが表示されていて、中央に何かが赤く表示されていた。距離200メートルみたい。
突然に、地表が割れたと思ったら、巨大なミミズのようなものが現れた。太さが10メートルぐらいありそう。地表から出たその胴体は私の背丈の3倍ぐらいはある。顔なのか、こっちに向けて巨大な丸い口が開いていた。丸い口のすぐ内側に牙のようなものが無数に円を描いて生えていて、緑色した粘着質の液体が垂れていた。めっちゃ気持ち悪い。めっちゃ嫌。そいつがくねくね胴体を左右に揺らしながら、こちらに向かってくる。
「接近!魔獣!ワーム型!」
ラビちゃんの口調がいつもより早い。
「ラビちゃんなんとかして!」
私は目をつぶって叫んだ。同時に前方から何かが爆発したような音がした。
「回避!緊急!」
金属がきしむ大きな音がして、私の身体が右に素早く跳んだ。数度右に跳びはねた。反復横跳びを右だけに続けるような動作だった。
「うぁ、すごいじゃん!めっちゃ早く動けるじゃん!」
私が叫ぶのと同時に、左からまた爆発音のような音と、大地が揺れる衝撃が来た。たぶん、私を飲み込もうとしてあいつが飛びかかってきたんだと思う。飛びかかって、そのまま地表に潜ったんだろう。でっかい穴が空いていた。
「やばいじゃん!あいつやばいじゃん!ラビちゃんなんとかして!」
私の身体は動かなかった。らびちゃんは下手に動かずに、相手の出方を待っているのかも知れない。
「抜刀!フォトン・サーベル!」
ラビちゃんが言うと同時に、右腕が背中から光る方なみたいなものを取り出した。正面にサーベルを構えた。
「おお、すごい!って言いたいけど、ちょっと、動作が緩慢なんだよな。大丈夫?ラビちゃん?」
「熱源!右前方!」
さっきより近い。また気色悪いそいつが地表から現れた。眼の前でガガガガガッとガトリング砲が火を吹いた。視界がぐわんぐわん揺れる。なんじゃい、サーベル抜いておいて、ガトリングかいっ!
その魔獣は変な鳴き声をあげながら、一瞬ひるんだように見えた。けれどすぐさま体制を立て直して私に向かって跳びはねてくる。
「回避!緊急!」
今度は左に跳びはねた。1回、2回、3回!
3回目で、チュイーンッて、それまで聞いたことの無い音が腰のあたりから聞こえた。身体がぐらついて、横にぶっ倒れた。
「損傷!アクチュエーター!」
「え、何?」
「減。性能.。運動。」
ラビちゃんが言い終わる前に、足元から何かが突き上がってきた。私は下からの爆発的に強い衝撃で空高く跳ね飛ばされたようだ。200メートルぐらい飛ばされたのかもしれない。
身体が回転しながらも、視界は安定していて、遠くの風景が見えた。海が見えたような気がした。水平線に太陽が落ちかかり、海面が陽の光を反射してとても美しかった。海岸線に沿って何か、小さな建物が立っているように思えた。ううん、わからない。夕暮れで遠くの景色が鮮明に見えない。
私には時間の流れがゆっくりと感じられた。
そうだ、まだ小学生になる前、すごくちっちゃくて、子供の頃、まだ私が普通の子で、いつも元気にはしゃいでいたころ、パパとママと手を繋いで水平線に沈む夕陽を見たっけな。あんまり覚えてないけど、すごく楽しかったっていう記憶はある。パパもママもあの頃はすごく仲が良くて、いっぱい抱っこしてくれたな。そういえば、近くの丘に大きな鐘があって、3人で紐をひっぱってたくさん鳴らしたんだ。すっごく楽しくて、その日はお家に帰りたくなくて、ぐずってパパとママを困らせちゃったっけ。
(って、、やば、これ、走馬灯じゃないよね!!)
一瞬の物思いから覚めると、地面が目の前に迫っていた。
うあ、地面に当たる!!
だめだ!!っと思った瞬間、私はふっと身体の力が抜けたような気がした。なぜか身体が軽くなったような気がする。
音は何も聞こえない。
ゆっくりと目を開けると、眼下に地表が見えた。だいぶ高度がある場所で浮いているみたいだった。地表ではあの気持ち悪い蟲の魔獣がくねくねと動いていた。数が4匹に増えていた。まるで4匹が喧嘩をしているように何かを奪い合っていた。
奪い合っている対象の姿に見覚えがあった。それはロボットだった。あの格納庫で見たロボットと同型。
つまり、あれはさっきまで私が宿っていた機体なんだと思う。。ある蟲が私の元の身体を咥え、別の蟲が奪って咥え、また別の虫が奪って咥えていた。ある蟲は他の蟲の胴体にかぶりついていた。
きっとこれは幽体離脱みたいなもんなんだと直感的に理解した。肉体(機体?)が死んで、魂が抜けて、宙に浮いているのだろう。なんとなく馴染みのある身体の感覚があって、ふと両手を目の前に持ってくると、半透明の腕が見えた。手のひらを開いたり閉じたりすると思い通りに動いた。ゴツゴツしていない。角ばっていない。金属にも見えない。丸みのある、懐かしい、人間時代の私の腕だった。手のひらを表にしたり、裏にしたりして眺めた。半透明なので、手のひらの向こうに景色が見えた。
ああ、短い異世界ライフだったなぁと思った。まぁ、いいか、とも思った。別に思い残すことも無い気がする。自分がロボットになったのは、最初はびっくりしたし、刺激的だったけど、めちゃくちゃ楽しい異世界っていうわけでもなかったし。あのまま川沿いに向かっても別に何も無いのかも知れないし。またあんな気持ちの悪い魔獣とかと会いたくないし。うん、もう、充分に生きたかな。
うーん、疲れた、、と思って伸びをする気持ちでいたら、突然、目の前に文字が現れた。
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|1,000,000 units left|
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え、なになに?
ちょ、これってどういうこと?