Scene 14. 再び地下へ
私は蟻のような蜘蛛のような魔獣と義体で闘った。
義体の後方を確認できるカメラを増設するカスタマイズをしたくなって、すでに倒していた一団がドロップしたマジックコインを集めたり、同じく倒したリーダー格がドロップしたマジックアイテムを拾ったりしたけれどまだカスタマイズにはコインが足りなかった。
結局そこにいた甲殻類の魔獣を全てガトリング砲を使って討伐した。300体ぐらいはいたと思う。
その群れを倒しきっても目標までの8割までのコインしか集めることができず、2つ目の群れを見つけて、それもガトリング砲を使って殲滅した。また300体ぐらいで、合わせて600体ぐらいを倒した。
おかげで後方視野を確保するためのバックモニターのカスタマイズをすることができた。後方の視野が、視界の左下に表示されるようになった。
2つめの群れと闘い始めた頃はすっかり夜になってしまい、夜間用の暗視スコープを使うことになった。近接戦は課題を残したまま実戦トレーニングを終わりにしたけれど、夜間戦闘という光量の少ない状態での戦闘を経験することができた。地下を探索するにあたっては暗闇での行動に慣れておくのは悪くないと思った。
翌日の昼、私は卒業試験と銘打って、召喚した20体との模擬戦を行った。10体には剣や鎌を持たせ、10体には短銃を持たせた。
私は五感を研ぎ澄まして、1対20の模擬戦を行った。
あらゆる方向から間断なく攻撃を受けた。剣と鎌と銃弾と。
人間20人と闘うのとは訳が違うと思った。人間なら同士討ちを避けるために、同時に攻撃する人数を抑える必要があったと思う。けれど、20のAIが互いに連携しながら繰り出す20体の義体による攻撃には全く隙がなかった。10体が放つ銃弾が10体の近接戦闘攻撃を仕掛けてくる義体の間を正確にすり抜けながら飛んでくる。計算し尽くされた20義体の攻撃は同士討ちどころではなく、芸術的とも言える緊密な連携に沿った連続攻撃を放ってきた。
バックモニターを追加したことで周囲の状況を把握する能力が格段に上がったので、背後からの攻撃にも対応が可能になった。けれど、全方向から飛来する銃弾を躱すのは至難の技だった。囲まれてしまうと逃げ場が無くなってしまう。
何度も追い詰められ、同時攻撃で逃げ場を失い、攻撃を回避できなかった。銃弾はペイント弾でダメージはなく、剣や鎌の攻撃も紙一重で動きを止めて、寸止めをしてくれる。
高度な戦闘AI達なので、どれだけ数が多くてどれだけ複雑な攻撃パターンをしたとしても、私は致命的なダメージを受けることはなく、何も不安を感じることはなかった。
20体の活動限界時間になるまで目一杯模擬戦を行った。
「ふぅ〜っ!!なかなかむずかしいねぇ。」活動限界になって帰還する義体を見送りながら、私はつぶやいた。
私は悔しいという感情を久々に呼び覚まされた。義体の扱いに慣れ、超人的な運動性ので動くことができているのに、それでも追い詰められてしまう。悔しいなんて思うのは何年ぶりだろう。あ、いや、5万飛んで、何年ぶりだろう。
(いやはや、たいしたものだね、我が姫。あれだけの攻撃を回避しながら、攻撃を返せるなんて。さしずめ生きた武神というところだろうね。)レオは楽しげに言った。
「なんだろうな。あともうちょいっていう気がするんだけどなぁ。何かが物足りなくて。でも、それが埋まると、途端に前に進みそうな気がするんだよねぇ。」
(うんうん。まあ、それでも今はこのぐらいで充分じゃないかな。すくなくとも、この前のように不意を突かれて攻撃を受けそうになるということは無いと思うよ。)
私はまだ納得がいかなかったし、戦闘能力を突き詰めたいという気持ちが湧き始めていた。けれど、今は地下探索を優先するこが大事だとは思っていた。地下を探索することが今の目標だった。戦闘で強くなるのは、地下探索のリスクを下げるための手段であって、強くなること自体が目的ではない。リスクを軽減する程度の実力をつければいいのだ。そして、今は充分に実力をつけたと言ってもいいだろうと思う。
気持ちを切り替えて、地下探索の準備に移った。
本体の機体から予備のセンサー類と通信機類を外した。といってもどれがどれだかはわからない。自分で操作するとかは必要がなくて、遠隔でレオが操作してくれるらしい。義体用のバックパックにそれを積み込むことにした。予備の機器はメインよりも性能は劣るけれど、充分な性能があるということだった。
そうして、義体の私は、地下エレベーターが存在する低い建物を訪れた。
機体の操縦席から降り、機器類を入れたバックパックと大鎌を背に担いだ。片手で脇にガトリング砲を持った。
ガトリング砲を持っていくべきかどうかについてはだいぶレオと話した。閉ざされた空間で射撃を行うのは危険という理由から、ガトリング砲は地下には不向きというのがレオの主張だった。けれど私は断固拒否した。ただ単にこの武器が気に入ってしまったのだ。使いどころさえ間違えなければ危険なことはないと言って持っていくことにした。
この前に来たのは3日か4日前だった。特に何かが変わったということも無かった。7号機の視界を機体の大型モニターに映していたときと同じ風景が私の義体の目から伝わった。
この建物を調査するという選択もあったが、レオはあまり乗り気では無いようだった。利用されているテクノロジーはレオが知るものと近いということではあった。ただ、機体支援が主な役割であるレオは詳細を分析はできないということだった。装置の物理的なことはセンサー類である程度わかるらしいが、オペレーションシステムやソフトウェアについては不明で、あまり触りたくもないということだった。
ミッキーとローズを同行させるというアイディアはもちろん検討したが、活動限界があるので、ずっと一緒に同行はできないので、レオが操作する本体と一緒に地上の探索をさせることにした。
部屋の中央には円形の模様があり、その円をぐるりと囲うようにステレンスのような丸い金属の手すりがある。その手すりは近づくと、目の前の部分が自然と開いて通り抜けできるようになる。
私は円の中に入り、中心の台座の前に経った。
B1と記されたボタンを押した。音もなく、円形のエレベーター部分が下がり始めた。