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Scene 10. 私、最強の戦闘員を目指します!!

 戦闘トレーニング初日の日は模擬戦のトレーニングから始まった。

 義体用の大剣を持つように言われた。操縦席の隠し戸にしまわれていたそれは、自分の身長と同じぐらいの長さの刀身がある。両刃で幅は70センチぐらいある。見るからに重そうだったけど、あっけなく片手で持てた。そうだ、私ってば、もう普通の人間じゃなかったんだと改めて思った。

 模擬戦はミッキーとローズの義体を相手に始まった。いきなり戦闘なんてできるわけではないので、お手本としてレオが私の義体をリモート操作して闘うところから始まった。感覚で慣れろということだった。

「じゃぁ、姫。始めるよー。楽しいね!」とミッキーは言った。私から15メートルぐらい離れていた。ミッキーは武器を持っていなかった。

「姫様。参ります。」ローズはハスキーな声で言った。ローズはミッキーから少し離れて、巨大な鎌を右手で掴んでいた。身長の2倍はある柄の上に巨大な鎌の刃がついている。

 二人とも同じ容姿なので、見た限りでは区別がつかない。

(さて、姫。始めようか。)と、頭の中でレオの声がした。久しぶりにレオの魅力的な声を近くで聞いてドキッとする。

(最初は義体の感覚を遮断した状態でトレーニングを初めて、だんだんと感覚をつなげていくよ。なに、すぐに慣れると思う。)

 ローズが言い終わると、身体の感覚がすっと無くなる感じがした。全く無くなったわけではないけれど、遠く微かに義体の感覚がわかる。

「せいっ!」とミッキーが叫んだ。

 ミッキーとローズがものすごいスピードで突っ込んできた。うわっと思って、目をつぶったつもりになったけど、視界をふさぐことはできなかった。勝手に眼球が動いて、ミッキーとローズの動きを追尾している。

 最初は何が起こっているのかまったくわからなかった。とにかく視線があちこちに動き、目の前で手や足や、大剣、鎌の刃が乱れ動く。あまりにも激しい動きに、気持ちが悪くなりそうだった。

 私は数秒と持たずにギブアップだと思った。。ギブ、ギブ、ギブ!と叫ぼうとした。けれど、唇が動かない。声が出ない。すると、ゆっくりと話すレオの声が頭の中で響いた。

(姫、リラックスしていこう。慌てないで大丈夫だよ。無理に何が起こっているかを考えようとしないで。気持ちを無にするんだ。)

 そんなことできないよ、と内心思いつつ、目の前で起こることから意識を遠ざけようと努力した。何度も意識を逸らそうとするうちに、しばらくして気持ちが落ち着いてきた。それまではあまりにも激しい視線の動き、めまぐるしく動く景色に気を取られていたけれど、それがどこか窓の外の景色でも見るような、自分の目だけど、自分の目では見ていないように思えた。

 気持ちが楽になってくると、だんだんと激しい動きに頭がついていくようになった。なぜか、二人の動きが見えるようになってくる。ミッキーの蹴り、掌底、その動きも予備動作も見える。目の前を過ぎる巨大な鎌の刃にも慣れてきた。義体を操作するレオは最小限の回避しかしないので、目の前を刃が通り過ぎることがある。それが、最初は目にも止まらない速さだと思っていたけれど、しだいに刀身の動きが見えるようになった。

 しばらくすると、刀身が目の前をすぎる時、その刃文まで見えるようになった。刃の先に波を打つ紋様があった。10センチぐらいの幅だろうか、刃先がきめ細かく磨かれている場所がある。しだいに、その磨かれた刃先が鏡のように映り込んでいる周辺の景色さえ見えてくるようになた。

(どうだい。だいぶ慣れてきたんじゃないかな?)レオは優しく語りかけてくれた。

(うん。最初は何がなんだかわからなかったけど、だんだんわかるようになってきた。見える。うん。見えるよ!!すごい!!)

(そうだね。今の姫は物理的な肉体の作用に縛られていないから、反射速度や思考速度に限界は存在していない。全ては姫の気持ち次第なんだ。)

 レオは私が理解をするのを待つかのように、一呼吸おいてから続けた。模擬戦は継続している。

(さて、それじゃぁ、義体の感覚を少しずつ繋げるよ。そうすると、自分の身体がどう動いているか、どう力を入れているか、わかってくるからね。まずは2%の感覚からいこうか。)

 レオが言い終わると、身体の感覚が少しだけ強く伝わってきた。ものすごい勢いで義体が動いている。けれど、感覚がまだ鈍いから、びっくりはしない。

(ここからは少し時間が必要かもしれない。姫、義体の感覚に集中してね。)

 レオに言われる通り、私は義体の感覚に集中した。腰の動き、背の動き、首の動き。腿の動き、膝の動き。ものすごく早い。経験したことのない感覚だ。腰に入る力、腿に入る力、膝に入る力。蹴り一つでも、これまでに経験したことが無い力の入り具合と、骨格のきしみ、加速による重力負荷の感覚がわかる。集中しているとだんだんと義体の感覚についていけるようになった。

 私は夢中になって義体の感覚に集中した。初めての感覚が楽しかった。人間だったらこんなに素早く動けることなど体感できないだろう。自分は何もしていないが、ミッキーとローズの攻撃を寸前でかわしている。時には両手で握った大剣で防御もしていた。大剣の腹でミッキーの掌底を防いだり、蹴りをいなしたり、ローズが振り下ろす大鎌の刃を弾いたりする。途中からは大剣を使って攻撃も始めていた。上段から振り下ろしたり、横に払ったり、下からすくいあげるように切り上げたり。

 私はしだいに楽しくなってきた。自分で義体を動かしているわけではないのに、自分が模擬戦を戦っているような気にさせられた。義体は驚くほどの運動性能で飛んだり跳ねたり、ひねりながらバク転したりと、アクロバティックな動きもお手の物だった。ジェットコースターとか好きだから、こういうアクションとかも好きなのかも知れないと思った。

(よし、ここらで一旦休憩しようか。)そうレオが言ったとき、義体の感覚認識は30%まで回復させていた。

 レオのリモート操作が終わると、義体の感覚が100%伝わってくる。

 私はレオが義体を操作していた感覚を思い出しながら、剣を構え、振り下ろしたり、薙ぎ払ったりしてみた。

「おお。姫。なかなかやるじゃないか。筋がいいね!」ミッキーは楽しげに言った。

「そう?」と私はうきうきしながら言った。自分の義体がイメージ通りに動く。それも考えられないぐらいの速度で動く。

 大剣を大地に突き刺し、私はバク転をしてみた。軽々と身体が飛び跳ねる。空中で3回転できた。すごい。嘘みたいだ。

 意識を集中すると、まるでまわりの時間がゆっくり流れているように感じる。ミッキーやローズや、流れる景色がまるでスローモーションのように思えた。

「お見事です。姫様。」と、ローズが褒めてくれた。

(想像以上の上達スピードだね。まだ10分ぐらいだと言うのに。)レオンが言った。

「え、そんな時間しか経ってないの?」私の感覚ではもう数時間ぐらい模擬戦をしていたような気がする。

(うん。データが無いからわからないけど、義体との相性がいいのかもね。とはいえ、無理は禁物だから、ゆっくりと義体の感覚を強くしていこうか。)

「うん。わかった。やろう。やろう!」

 まだ陽は高かった。これなら、地下探索を始めるのも大して時間がかからないかもしれない。

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