Scene 1. 転生したけど、すぐ寝る私
私は芙蓉。平凡な、どっちかというと陰キャのフリする女子高生。
で、今日、目が覚めたら、格納庫で斜めに寝てた。
(えっ、、どういうこと?これ、どういうこと?)
横を見るとずらーっと、ロボットが並んでる!!なんかアニメで見るような!?
斜めになった台に寄り掛かるようにして、大量のロボットが並んでる。
っていうか、ナニコレ?って思ったら、私の手がロボットなんですけど!?
視線を下に向けて、てのひらを開いたり握ったりすると、巨大なロボットの手がわきわき動くの。
やっぱり足もロボットなんですけど。
私は頭が混乱した。混乱せずにはいられない。夢の中で、ああ、これは夢だなと気づくときがたまにある。けど、今は自分の意識がはっきりしているのがよくわかる。これは夢じゃない。
って、なんだか目線が高い。これ私の頭の高さが地上よりずっと高いところにあるからだ。10メーター?20メーター?よくわからないけど、すごく高い位置に目線がある。怖っ。
なんなのこれ、どんだけアホな状況なの?
えっ!!?て、思って、斜めの台から身を起こそうと動き出したら、ギュイーン、ギュフイーン、ってなんかモーター音がするんですけど。
(え、、ナニ?私、やっぱりロボットみたいなんですけど。どういう冗談ですか!!)
わたしはびっくりして、あたりを何度も見回した。首が回るけど、その動きがどこか直線的。それに首のあたりでクイーン、クイーンって音がする。
というか、なんか、ここに居るロボットって全部同じ形なんだけど。しかも、なんかダサい、いかにもザコキャラっていう、単調なカラーリングに、ちょっと間抜けな感じのシルエット。
え、なに、作画失敗ですか?っていうレベルなんですけど。
つか、私の腕も足も同じカラーリングだし、え、私、ザコキャラロボットになってるんですけど。。!!
「うっそーん!!」
「・・(うっそーん)・・・・・(うっそーん)・・・」
思わず叫んだら、拡声器から出たような私の声が格納庫に響いた。
周りを何度見回しても、なんかロボットだらけ。よくわかんないけど、1,000体とか、2,000体とか、もっと並んでいるのかも。縦も横も何十体というロボットが整然と並んでる。すっごく広い格納庫で、どこまで続くのってぐらい広くて、そしてずっと奥の奥まで同じザコロボットが並んでる。てか、動いているの私だけだし。みんなじっとしてる。
(頭、めっちゃ混乱するわっ!!)
と、急に直前の記憶を思い出した。
そういえば、携帯をいじりながら歩いてたら、横断歩道で車に跳ね飛ばされたような気がする。
やぱ、これって、転生ってやつなんじゃないかって思った。
でも、転生って普通、人間じゃん。どうしてロボット?
(あー、すっごくだるい。だるい、だるい、だるい!だるい!)
だるい、だるい、って思っていたら、なんだか、この状況がもうどうでもいいと思えてきた。だるさが突き抜けて、笑えてきた。笑うしかないと思った。
「うしゃしゃしゃ!バカじゃん、バカじゃん!ちょーバカじゃん!」
私の声と笑い声が格納庫じゅうに響く。発狂したみたいだ。
ひとしきり笑ってから、大きくため息をついた。
(ほんと、なんなのよ。この状況。)
私は今の自分の状況を改めて考えた。たぶん、車に惹かれた。そのあとの記憶が無いけど、ここで目が覚めた。気がついたら、ロボットだった。自分と同じロボットが山ほど並んでいる。そして、私はこの状況を受け入れてもいい気がしてきている。
いや、まあ、別に高校も楽しいってわけじゃなかったし、クラスじゃ浮いているのわかってたし。正直うまくいってなかった。あの生活に未練はないかもしれない。
受験とか、高校生活とか、だる過ぎてやってらんないなとか、早く楽になりたいとか、死んじゃってもいいかもとかたまに思うぐらいだったから。
いいよね。だってもう、これ、受験とかどうでもいいじゃん。無いでしょ、ロボットに、受験とか無いもんね。だってロボットの大学とか聞いたこと無いし。受験が無いなんて超ラッキーじゃん。
(そうだよ、転生、超ラッキーじゃん。)
面倒なこと、全部無いじゃんって思った。ロボット最高じゃないって思った。
そう思うと気が楽になってきた。あー、なんか受験から開放されたなーって思えた。いいじゃんいいじゃん、量産タイプのロボット。私、別に目立ちたい方じゃないし、すっごくお洒落したいとか、ハイブランドが好きとかじゃないんだよね。ユニクロ好きだもん。うん、量産タイプサイコーじゃんって思えた。
自分のなかで今の状況を受け入れられると、とりあえず、また寝るかなって思った。転生したからって特にやりたいことがあるわけでもないし。神様が出てきて、あれやれとか、これしろとか、言われたわけでもないし。転生前も、いつも寝てた。だるいときも、だるくないときも、いつだって、寝てれば、どうにかなった。
そう考えて、私はまた寝ていた台に身体を、、じゃなくて、機体を預けて横になった。
機械になっちゃったから、寝れなくなったりしちゃうのかなって、思ったけど、全然そんなことはなくて、ごくごく普通に眠気に誘われて寝た。
もう、永遠に寝ちゃえって思った。
眠りに落ちるとき、誰かの声が聞こえたように思えた。
(・・・長期スリープモードに移行します・・・)
どれぐらい時間が経ったのかわからない。
目が覚めた。
伸びをした。
どこが腰だか、肩だかよくわからないし、伸びをしたから身体が気持ちいいのかわからないけど、習慣ってやつは恐ろしい。伸びをして、アクビをした。
周囲を見回しても、眠る前と何も変わっていなかった。
ここは、量産型ロボットの格納庫で、1000台だか2000台だか、もっと多いかもしないロボットが整然と並んでいる。
私は携帯を見たくなって、ポーチを探した。
うん、そんなもの無い。
ロボットになった私にそんなものがあるわけない。
だいたい、携帯があったって、やりたいことがあるわけじゃない。
なんとなくTiktok見るとか、流行りのYoutubeとか見るだけ。
別に、LINEグループとかどうでもいいし、インスタのDMとか、マウントを取りたがるクラスの女子とかからの連絡とかうざいだけだし。
あー、これ、いいデトックスだと思った。なんかクラスの女子に調子を合わせるのとか、マジうざかったから。なんか、人間じゃなくなってよかったのかも。
うーん、でも、お父さんとお母さんは泣いちゃってるかなぁ。こんな私にでもいつも優しい両親だし。私が交通事故で死んじゃったとか、めっちゃ落ち込んでるんだろうなぁ。私、まだ元気で居るよって伝えてあげたほうがいいのかなぁ。。
いやいや、でも、娘がロボットになったなんて知ったら、びっくりしすぎて倒れちゃうかも。交通事故のあと、ロボットになりましたとか知っても嬉しくないかも。ちょっと風邪で熱が出たり、ちっちゃな怪我しただけでも、すっごく慌てるぐらいだもん。そりゃ、勉強しなさいとか、あれしなさいとか、これしなさいとか、いつもウザいぐらいだけど、わたしのこと、いつも大切に思ってくれてたんだよね。
(あー、なんか、むしゃくしゃする!!)
私は頭の中がぐちゃぐちゃになって、イライラが爆発して、思わず自分が寝ていた台を思い切り蹴った。
「警告!!警告!!右脚関節部の負荷増大!右脚破損率95%!」
突然、頭の中で声が聞こえた。警告音のような断続的なアラーム音がして、音のたびに視界が赤い光で照らされたように染まった。
「え、なに?どういうこと?」
すると、目の前に緑色をしたスクリーンのような、テレビのような映像が現れた。
その映像には、ロボットを前からと、後ろからと、その姿を描いたような図面が表示されている。私のこのロボットの身体のことなのだろう。右足の部分が赤く点滅して、ダメージ急増と表示されている。
(って、ちょっと、蹴っただけで、破損率95%とか、おかしくない?どんだけ脆いの?)
スクリーンの右下にうさぎのようなものが表示されて、なぜか踊っている。そのうさぎが喋った。
「歩行困難!歩行困難!速やかな対応が必要。速やかな対応が必要。」
うさぎの声は機械的で、少し甲高い声だった。
「え?対応ってなに?」
「説明。破損対応必要!選択肢。修理。交換。自壊。自爆。選択肢。修理。交換。自壊。自爆。」うさぎが喋り続ける。
「え、自爆ってなに?そんな・・」
「自爆。説明。小型核融合炉の過剰反応。小爆発。必殺技。小爆発。必殺技。」
「え、ちょっとやめて、爆発とか。ちょっ・・。」
「歩行困難!歩行困難!速やかな対応が必要。速やかな対応が必要。」
「え、ちょっと待って、、。」
「破損対応必要!選択肢。修理。交換。自壊。自爆。選択肢。修理。交換。自壊。自爆。」
うさぎはうるさく対応しろと繰り返した。
相変わらず、断続的なアラーム音がして、音のたびに視界が赤くなった。
「わかったよ、わかったから、黙ってよ。じゃぁ修理しようよ。修理。」
「修理。了解。修理要請を申請します。・・・・・・・・・修理要請キャンセル。破損対応必要。選択肢。交換。自壊。自爆。選択肢。交換。自壊。自爆・・・・」
「え、何?修理できないの?どうして?修理しようよ」
「修理。説明。整備スタッフ不在。整備スタッフ不在。」
「スタッフが居ないの?なんで?」
「説明。整備スタッフ応答なし。整備スタッフ応答なし。」
「誰も居ないの?」
「説明。基地内に生体反応無し。基地内に生体反応無し。」
「どういうこと?」
「回答。質問の意味がわかりません。質問の意味がわかりません。」
変わらず断続的なアラーム音がして、音のたびに視界が赤くなった。
私はいらいらしながら喋った。
「いいよ、わかったから、わかったから交換でいいから。すぐやっちゃってよ!!」
「了解。破損対応実施。特別緊急交換実施。特別緊急交換実施。自動交換モードに移行します。」
急に身体が軽くなった。軽くなったというか、身体の感覚が無くなった。
私が寝ていた大きな台が斜めから倒れて地面と平行になった。
私は何もしていないのに、ロボットの身体が勝手にその台の上に仰向けに寝そべった。
天井から大きな何かが降りてきた。それは私にではなく、右横に降りてくる。
よく見ると、すぐ右隣のロボットの台も地面と水平になり、いつのまにか仰向けになっていた。その右足の部分の上に、天井から降りてきた何かの機械が覆いかぶさっている。
しばらく金属音が鳴り出して、右隣のロボットの脚が切り離された。すぐに持ち上げられる。
天井から吊り下がった機械は、今度は私の右足のほうに向かってきた。
右隣のロボットの脚を私のと交換しようとしているようだった。
なにこれ、これでいいのっていう感じだけど。
「報告。右脚特別緊急交換終了。右脚特別緊急交換終了。自動交換モード終了。」
うさぎの機械的な声が終わると、急に重力を感じた。手脚の感覚(??ロボットだけど、、)が戻ってきた。
うるさく鳴っていたアラーム音が止まり、視界が赤く点滅するのも終わった。
(ふう。。ちょっと落ち着いた。。)
寝ていた台がゆっくりと持ち上がり、また以前のように斜めになった。
私は右足を動かしてみた。相変わらず、ギュイーン、ギュフイーンと、モーター音なのか、何かの音がするけど、ちゃんと思い通りに動いた。
私は急に怖くなった。この世界っていったいなんなんだろうって怖くなった。さっき、うさぎの声が言ってた「基地内に生体反応無し」という言葉を思い出した。誰も居ないって、どういうことだろう。この世界に居るのって、私だけなんだろうか。相変わらず、とにかく広い格納庫に並ぶロボット達は、どれも動かず、物音一つ無い。静かすぎて気味が悪い。
世界に私だけが取り残されたのかもしれないと思うと、急に寂しさが込み上げてきた。ここには誰も居ない。生きている人が居ない。しかも私はロボットで、他のロボットは起きても来ない。
「ねえ、うさぎちゃん、居る?」
「回答。レーダー範囲内に生命反応なし。小動物存在なし。提案。基地システム接続。基地レーダー使用。申請しますか?」
「ううん、違うの。今、応えてくれたあなたのこと。あなた、うさぎちゃんの絵だったから。あなたのお名前は?」
「理解。回答。サポートAI」
「あなたAIなの?」
「回答。イエス。人型汎用ロボットXACO搭載自律支援AI。です。」
「ここはどこ?」
「回答。データがありません。提案。基地AI接続。申請しますか?」
「うん。」
「了解。基地AI接続。・・・・・・・・・基地AI接続キャンセル。応答なし。基地AI接続応答なし。」
(うーん。。どうしたらいいんだろう。。)
私は息を大きく吸い込み(実際には吸い込んだ気持ちになって)、長い溜息をついた。