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第8羽

対峙するラストと怪物。しかし、ラストは自分が圧倒的不利な状況に置かれていることに気づいていた。


(さて、ミカエラを庇いながら、実戦でならした冒険者達を蹴散らすこいつとやり合うのは分が悪すぎる。まさかこんなことになっているなんてな・・)


自分の見通しの甘さを呪いつつ、ラストは怪物から目をそらさず、怪物の全身をくまなく観察していた。


(俺より2回り以上でかくて長い手足、それに長い尻尾、なんなんだよこいつ)

「よくも、ヨグもやっでくれだな!潰してやる!」


怪物が大きく腕を振り上げ打ち下ろす。凄まじい衝撃と細かな瓦礫が飛び散る。


(腕を振っただけでこの威力!)


咄嗟に顔をかばい、なんとかやり過ごす。その頭上をさらに薙ぎ払われる。咄嗟に屈むが舞う土埃で視界が遮られる。


(さっきの俺の攻撃は効いたんだ!やるんだ!)


自分を奮い立たせ前に出る。振り切られた腕の下から懐へ潜り、怪物の胴体を殴り付ける。硬いゴムを殴りつけたときのような波打つ感触。幼い頃から迫害に会い、喧嘩慣れしているラストは自分より大きな相手とやり合うのに慣れていた。懐に潜りもう1発腕を畳んだ状態からアッパーを叩き込む。さらに怪物の足目掛けてローキックを放つ。


「ぎぃ!うおぉっ!?」


バランスを崩した怪物が倒れ込む。すぐに懐から跳び退いてミカエラの元まで下がる。


「今のうちに」


ラストは気絶したミカエラを抱えて素早く走り出す。

決して離さぬよう抱き抱え教会跡から脱出する。


「ニゲルナァ!」


しかし、怪物が鋭く放った尻尾がラストの足を払い転ばせる。


「あぐっ!?」


それでもミカエラを庇い、彼女に覆い被さる形で身を守る。


「ジャマだあ!」

「がっ!?」


怪物はそんなラストを振り払って弾き飛ばす。4~5m程吹っ飛ばされる。


「黄金のづばさあああ!」


怪物が再びミカエラに迫る。それをラストは見逃さず、間に割って入って受け止める。


「なぜだ!なぜタダの人間が!この俺の攻撃を受け止めれる!?今の人間にそんな力はないはずなのに」

「あいにく、こんな重いだけの翼背負って生きてきただけあって腕力には自信があるんだよ」


ラストはずっと飛べない自分を責め続けた。幼い頃から毎日飛ぶ練習を欠かさず、崖から落ちても自力でよじ登り、飛べないとわかってからも、いや、わかったからこそ狂ったように身体を鍛え始めた。崖登りや走り込み、ギルドの力仕事を重い翼を背負いながら何年も続けた。その結果、ラストの身体は誰よりも強く強靭に仕上がっていた。冒険者達を羽虫のように振り払う怪物とまともにぶつかれるほど強靭に。


「おおお!」

「この羽虫風情があああ」


怪物が身を振るい、細長い尻尾の先端をラストの身体に突き刺した。皮膚を、肉を突き破りラストを串刺しにする。


「がっ!・・・あああああ・・・!!」

「ぐげげ、羽虫が!オマエらがこのオレ『悪魔』様に勝てるわけないダロうが!」


ゲラゲラと勝利を確信した悪魔が哂う。ゲラゲラ、ゲラゲラと・・・・・・・・・・・・・。













「・・・・ん・・・あれ?あたし、怪物に飲み込まれ

・・・ここは外?」


目を覚ましたミカエラは辺りを確認すると、すぐに見知った人物を見つける。


「ラスト・・・?ラストだよね?私を助けに・・・」


僅かに湧いた希望。しかしそれはすぐに打ち砕かれることとなった。

ボロ雑巾のように力なく横たわるラスト。全身傷だらけの血塗れで無事な所の方が少ない有様。それを見てミカエラは一瞬で血の気が引く。


「ラスト!?なんで!?ねえ!起きてよ!ラスト!」


半狂乱になりながらラストの身体を揺さぶる。それでもなんの反応もなかった。一気に視界が滲む。ミカエラは大粒の涙を流しながらラストに泣きつく。


「うぐっ・・うぅ・・・ラストォ・・・」

「ゲゲゲグギギ!」


しかし、下卑た悪魔の笑い声がミカエラを更なる地獄へ落とす。


「ひっ・・・」

「黄金のツバサ・・・ついに俺が手に入れたゾ。コレでやっど、オレも『上級悪魔』に・・・」

「・・・・・・めて、もう、やめて」


ミカエラは立ち上がり、横たわるラストを守るように前に出る。


(ラストは・・あたしを守る為にこんなボロボロになって・・。今度はあたしがラストを守るんだ)


「この!」


ミカエラが足元の拳大の瓦礫の欠片を掴んで悪魔になげつける。もちろんこんなものが効く相手ではなく、ビクともしないのはわかっている。それでもミカエラは最期の最期まで足掻くつもりでいた。


「大人しくシテな。今度こそ喰ってやるカラよ」


悪魔が巨大な腕でミカエラを掴む。それでもミカエラは諦めずもがき続ける。


「この!離せ!」

「暴れるな」


悪魔が力を込めミカエラを強く締め上げる。


「かっ・・あっ・・・はっ・・」

「おっと殺したら鮮度がオチる。イきたままマルノミだ」


悪魔が口を開け再びミカエラを飲み込もうとする。

苦痛と恐怖に襲われながら今度こそミカエラは自身の最期を悟った。


「ミカ、あきら・・めるな!」

「!!」


不意に近くで声がして悪魔も一瞬動きが止まる。

完全に意識を無くし、動けなくなるまで痛めつけられたはずのラストがふらりと立ち上がり、油断した悪魔の単眼目掛け瓦礫を叩きつけた。


「!!ぎぃやああああ!!!」


悪魔は痛みに絶叫し、掴んでいたミカエラごとラストを振り払う。


「かはっ!けほけほっ!ラスト!?大丈夫なの!?」

「げほっ・・ヒュー・・」


文字通り死力を振り絞ったのだろう。ラストは最早いつ息絶えてもおかしくないくらいに消耗していた。最後の一撃もほぼ無意識によるものだった。


「ラスト・・・」


横たわるラストをミカエラが包み込むように抱き締める。また彼に救われた。しかし、もう戦う力は残っていない。今度こそ死んでしまう。その時ミカエラの頭にあるひとつの考えが思い浮かぶ。


(力・・私の黄金の翼の力が使えれば・・でも)


黄金の翼の力は知ってはいた。希少な癒しの属性で、かつて『聖女』と呼ばれた者がその力で数々の人を救ったという。


(でも、私そんな力使ったことない。けど、)


ここでやらねば2人ともこの悪魔に殺される。

ミカエラは翼に意識を集中させ、魔力を込める。


「お願い!ラストを!私の家族を!大切な人を・・・助けて・・・!!」


すると、ミカエラの背の翼が眩い光を放ち、大きく開いた。自分の体から溢れんばかりの力を感じたミカエラは、それをそのまま横たわるラストに向ける。


「『聖光』」


ミカエラの体から溢れた光がラストの体を包み込む。

血や汚れ、あらゆる損傷がみるみるうちに消えていくのがわかった。


「目を覚まして!ラスト!」


ミカエラの気持ちに答えるよう光がより一層溢れ出す。すると今度は光がラストの翼に集中し始める。


ミシィ!バキバキバキ!


「いぃ、!?」


突如響き渡る耳障りな金属音

思わず身を竦ませるミカエラ。それでも金属音は鳴り止まなかった。


ギギギギバキバキィィィ!


「な、なにこれ?・・・ラスト?」


その音は光に包まれたラストの背中から発せられたものだった。錆付き薄汚れた彼の翼が開こうとしていた。直後、一際甲高く巨大な音と共にラストの背から錆の塊が弾け飛んだ。


「きゃあ!」


辺りに散らばる錆びた欠片。正しくそれは長年ラストの背にあったものの残骸であった。


「ま、まさか・・ラスト!」


自分のせいで翼が根元から折れてしまったのではないかと青ざめるミカエラだったがその心配は杞憂だった。


「ラ・・ラストの翼が・・」


彼の背から次々と錆が剥がれ落ち、中から光が漏れだしていた。ミカエラのような黄金に輝く翼とは違う、鈍色に輝く金属質の翼がそこにあった。


「き・・きれい・・・」


思わず見蕩れるほどその翼は輝いていた。形は羽毛とは異なる希少な皮膜の翼、しかし、柔らかな印象は無く、金属を思わせる硬質さを持っていた。

やがて光が収まると、以前とは全く異なる翼を持ったラストが横たわっていた。


「ラスト・・?ラスト!」


声をかけても返事はない。慌てて呼吸を確かめると穏やかな呼気が感じられた。


「よ、良かった・・・」


思わずへたりこみそうになるミカエラ。しかし、すぐに自分達の置かれている状況を思い出し、悪魔の方へ身構える。悪魔はラストに潰された目玉を手で覆いながら怒りに身をふるわせていた。


「ごの虫ゲラどもがあ!それは!その光はぁ!俺達の最もぎらう光ィ!・・・目覚めやがっだのが!黄金の翼ぁあ!」


悪魔が四肢をばたつかせながら突進してくる。

それに対しミカエラは逃げずに真正面から立ちはだかる。


「来るなら来い!この光で、今度こそ守るんだ!」



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