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第4羽

「・・・・ふぅ、こんなもんか」


依頼人から指定された箇所を掃除し、集まったゴミを処理場へ持っていけば依頼達成である。


「おーう、ごくろぅさん」

「指定された箇所の清掃とゴミの処理完了したのでサインお願いします」


処理場の管理者から印鑑を押してもらい、ラストは一息つく。辺りは既に夕暮れ時だった。


「あんちゃんも毎日大変だねぇ・・・そんな重い翼背負ってなぁ」

「もう慣れてるので」

「動かせないのか?」


そう言われてラストは結果はわかっているが翼に力を入れて動かそうとする。


ぎゃりぎゃりぎゃり!ガガガガ!


「うぉ!・・・こりゃたまげた」


錆びた金属同士が擦れ合う嫌な音が響き渡るだけで翼は開きもしなかった。


「・・・これでも子どもの頃はいつかは飛べるんだと思ってたんですけどね」


そういいながら生まれた時から一緒の錆びた翼を撫でる。周りの人達が自由に大空を舞う中自分だけが飛べずに地べたを這い蹲っている。その事実が当時のラストの心に深い傷を負わせていた。


「飛べない、最低限の生活魔法を使うので精一杯、・・・自分の人生に見切りはついてます」

「あんちゃん・・・」


自嘲気味に笑いながらゴミ処理場の様子を眺める。

この世界はリサイクルできるものや、畑の肥料になるもの以外処分している。処分方法は簡単、大地に空いた穴にゴミを放り込むというもの。誰かが間違って落ちない様その場所を建物で囲ってゴミ処理場にしただけの簡単なものだ。


「飛べない俺なんかいっそのこと地上に降りてみようかなんて思ったりもしますね。

「地上・・・雲海の下の世界か」


この世界は大きくわけてラストたちが住む天界、その下に広がる雲の海雲海、雲海の底にはかつて人々が住んでいたとされる下界に分けられる。下界の調査は過去なんどか行われているが、調査員が戻って来たことは1度もない。


「いつからか『死の大地』なんて言われ始めてからは誰も下界について話すこともなくなったけどよ・・・あんちゃん、早まるなよ」

「・・・大丈夫ですよ」


一言それだけ言ってラストは錆びた翼をギシギシ鳴らしながらその場を後にした。



それから数日後・・・・


「それじゃあ元気でね。身体に気をつけるんだよ」

「バイバイ!ミカ姉、ラスト兄!」


遂に長年住んだ孤児院から巣立ちの日が来た。玄関からキリュウ院長と子ども達が見送りにきている。


「お世話になりました」

「うぶぅ・・ひぐ・・おぜわに・・なりまじだ・・ずび」

「ははは、ミカエラ。折角の旅立ちの日にその顔はないですよ。こういうときは笑って旅立つんですよ」

「だって~」

「それに未来の『聖女』様がこんなに泣いてたら、信徒達が困りますよ」


『聖女』とは、聖教会というこの国で最も信仰されている宗教の象徴たる存在であり、神の使いと呼ばれる黄金の翼を持つミカエラが民衆の象徴たる『聖女』見習いに選ばれたのである。


「つらいこともあると思いますが、みんなミカエラの明るい笑顔が大好きなのです。だからあなたはいつものように笑っていてください」

「・・・・はい!」

「ラスト」

「はい」

「ミカエラに黄金の翼が宿ったように、あなたにもなにかの役割があってその翼を授かったのだと私は思います。自分と、その翼を信じて進んでください」

「・・・はい、行ってきます。・・父さん」


最後にラストはキリュウと熱い抱擁を交わす。いつのまにか背も追い越し、体格も彼より一回りも大きくなった。『錆色』と揶揄され石を投げつけられた自分をここまで育ててくれた偉大な恩師に感謝し、孤児院から旅立つのであった。



「ラストはこれからどうするの?」


孤児院からしばらく歩いている中でミカエラがラストの周りをふわふわ飛びながら尋ねる。


「ギルドの近くに部屋を借りたんだ。今日からそこで暮らすんだ」


孤児院からギルドまで片道10km程ある。飛べる者からすればそこまで苦ではないが飛べないラストはほぼ毎日歩いたり走って向かっていた。


「見てたけど毎日大変そうだったもんね。小学校も中学校もラストだけ徒歩通学だったもんね」

「いいよな~飛べるやつは楽そうだし」

「ラストから見れば楽そうだけど意外と大変なんだよ。魔力の加減とか、姿勢の制御とか。後風圧で髪がもじゃる」


そんな他愛のない話を続けているうちに聖教会とギルドへ続く分かれ道に着く。


「あ~あたしこっちだ」


ミカエラの残念そうな声。しゅんと俯いているその背中をラストはぐいっと押す。


「ん、『聖女』頑張れよミカ!」

「ラスト・・・ありがとう。ラストも怪我しないで」

「おう、つっても怪我するような仕事はしないつもりだけどな」

「え~?モンスターとか悪魔と戦ったりしないの?あと!もしかしたら急に飛べるようになったりさ!」

「確かに急に飛んだら怪我するかもな」

「ラスト・・・」


不意にミカエラが一言。鈴の音のように綺麗な声がラストの耳に残る。そのままラストの方に近づきぎゅっとラストの身体に抱き着く。突然の行動にラストも、通行人もぎょっと驚く。


「お、おい!ミカ?」

「あはは、さっきのラストとキリュウ先生の真似。

すごいねラスト、背中に手回らないよ」


ぐいぐい押し付けられるミカエラの身体の柔らかい感触や温かさとほのかに香る心地よい匂いにラストは顔が熱くなるのを感じた。


「アホかこんな公衆の面前で!年頃の女の子ならTPOをわきま」

「ねえ、ラスト。忘れないでね」


ラストは気づいた。自分の胸に顔を埋めて肩を震わせるミカエラが泣いていることに。


「私たちは家族なんだから。離れていてもずっと繋がってるんだからね。ラストは独りじゃないんだからね」

「・・・ああ、お前もなミカ。俺達はずっと、これからも家族だ」


ぎゅっと優しくラストもミカエラを抱きしめる。

一瞬このまま永遠にこうしていたいという気持ちがラストの頭をよぎる。


「ミカ!俺は」


ふっとミカエラの金髪と翼が揺れる。

うんと背伸びしたミカエラがラストの頬にキスをする。呆気に取られるラストからスルっと離れ、いたずらっぽい笑みを浮かべ、


「じゃ、またね」


それだけ言い残してミカエラは翼を広げ、あっという間に飛んでいってしまった。

1人残されたラストは、ミカエラの唇が触れた所を触りながら、陽の光を反射して煌めかせながら飛ぶ姿を見えなくなるまで見送った。



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