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第2羽

この世界の人々は皆翼を持って産まれる。殆どが羽毛の翼で、時折皮膜の翼が産まれる程度。だが、ラストのように金属質の翼なんて誰も知りもしなかった。気味悪がった両親が親戚の孤児院に押し付けて蒸発したらしい。


「全く、歩く度にギシギシうるさいし硬いしなにより超絶重い!・・・おかげで体力はついたけど」


この世界では大抵のことは魔法で解決する。筋肉をつけて重いものを持ち上げるより、魔法を学んで重いものを複数個動かす方が遥かに効率が良い。そのため運動不足がこの国の生活習慣病になりつつある。

閑話休題、すなわちそんな魔法が最重度とされる世界でラストの存在は極めて異質なものだった。

まず飛べない。魔力の存在こそ感じられるが翼が重く、錆び付いて動かせず魔力を掴んで飛ぶことができない。

幸いこの国では老化や病気、様々な理由から飛べない人のための公共サービスが充実しているため暮らすには困らない。ではそれ以外何が困るかというと


「明日はなんの仕事すっかなー。フリーターは安定しないな」


就活である。

飛ぶのが上手い、早く飛べる=魔力の扱いに優れる=優秀という図式が一般常識であるこの社会でラストの歳で飛べないというのは社会人としては致命的だ。

それに体裁を重視する会社ではたとえラストが飛べたとしても、錆びた翼は「清潔感にかける」と落とされるのも必然。翼の清潔感もマナーの1つである。

ではそんなラストがどうやって日銭を稼いでいるのかというと、冒険者ギルドである。

ギルドは所謂職業斡旋所であり、様々な仕事の依頼を取り扱っている。一般の土木作業から企業への派遣といった仕事から、街の外へ出かけ郵便配達や街の脅威となる動物の駆除や本当に危険な魔物やそれ以上の存在を狩る冒険者に向けた仕事もある。

ちなみにラストは主に前者の掃除や土木作業、飲食店のキッチンやホールといった雑用~アルバイト感覚で働いている。


「ギルドに行くか・・その前に着替えないと、・・・ったくマイトの野郎数少ない服を汚しやがってクソが」


悪態をつきながら孤児院へ向かおうとUターンすると、前方斜め上から金色の何かが飛来してくるのが見えた。


「あれは?・・・不味い!」

「ラストォォォォォォ!」


危険を感じて避けるラスト・・・・しかし逃げられなかった。まるで変化球のようにラストが避けた方向へカクッと曲がったその飛来物は見事にラストを捉え、もんどり打って地面に転がる。


「いたたた・・・あ!大丈夫・・・じゃないよね」

「自覚があるならまず言うことがあるだろ?あと退いてくれ重い。」


突然の飛来物、その正体は金髪碧眼ムチムチボディで程よく肉付きの良い健康的な肢体に金色の翼を生やした少女・・ミカエラである。


「もうごめんってば・・・あと誰がヘビー級肉弾戦車だって?」

「言ってない!そこまでは言ってない!その目が笑ってない笑顔どうやってんの!?」

「そこまではってことはある程度はそう思ってるってことでしょ?・・・ラストも天使趣味なの?」


天使趣味というのは早い話この世界における過半数の男女共通の性的嗜好のことを指す。男女ともに性差が少ない方が異性にモテる。具体的には男性は線の細い美少年顔、女性は華奢で可愛らしい人が人気である。

その点を踏まえて2人を見るとラストは黒髪黒目迫害を受け続け濁った瞳に錆びた翼とそのせいで筋肉質でがっちりした身体。上背もあるため全くと言っていいほどモテない。ミカエラは童顔で中背ほどだが身体つきがグラマラスなためラストほどではないがモテないが、美少女で明るい性格のため男女問わず友人は多い。


「いや、俺は正直外見より性格派。どんだけ美人でもこの翼を見て引くやつは好きになれん」

(ボソッ)「・・よかった」

「・・・んで、どうしたん?」

「あ!あのね、今日学校の卒業式で早く終わったから

みんなでご飯食べに行くことになって、それでラストも一緒にどうかな?・・・って」


ズキン

ラストの胸に痛みが走る。一年ほど前まで同じクラスで机を並べた同級生達、ミカエラ以外がラストを迫害しいじめ嘲笑った。『錆色』と罵った。それでもラストは挫けなかった。ミカエラの支えもあったが座学で優秀な成績を残した。あの事件が起きるまでは。事件後ラストは退学し、一般冒険者として生きることになった。そんなトラウマとも呼べるあのクラスメイト達と食事を共にするなど考えただけでもありえない。


「・・・冗談だろ?」

「だよね・・・なら、あたしも欠席する。ラストと2人でご飯食べる!」

「お前は行けよ。クラスの人気者だろ?」

「『家族』の方が大事だもん!」


そういってミカエラは薄型の通信端末を取り出し魔力を込めて起動すると通話を開始する。


「あ!もしもし!ごめんやっぱり嫌だって、だからあたしも欠席で・・・ごめん、また今度ね」


ラストが止めるまもなくクラスメイトたちに断りの電話をする。


「はい、これであたしの分の席なくなりました!今から行ってもあたしの席ないです!だから一緒にご飯食べよーよー」

「縋り付くな、ったくしょうがない。お前友達無くすぞ?」

「ラストがいるじゃん」

(ボソッ)「この無自覚め」


「ん?」

「なんでもない、それより飯の前に着替えたい。さっき輩にからまれて服がボロボロなんだ」

「ファッションセンス皆無な服着てると思ったらそういう事か、衛兵に言えばいいのに」

「運悪く近くにいなくてな。いいよもう」


そんな取り留めのない会話を続けながら2人は家路に着く。そんななにげない時間が2人にとって好ましいものである。


「あ、ミカひとつ言い忘れた」

「ん?なあに?」


ミカ・・・ミカエラの愛称を呼び、彼女の美しく輝く碧眼を見据え


「卒業おめでとう。綺麗になったな」


彼女は驚いて、それから照れたように笑った。


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