第14羽
その後『薬草採取』の依頼を受けた二人はギルドの裏手にある冒険者用の門の前に行き、手荷物等の確認を行った。
「水筒は?」
「持った」
「緊急時の信号弾は?」
「持った」
「携帯食糧は?」
「ミカの好きなチョコミントクッキーを持ってきた」
「わーい!ありがとう!・・んん!翼の調子は?」
「良好」
「よし!それじゃあ出発!」
ミカエラに手を引かれ、ラストは初となる街の外へと一歩を踏み出した。
「これが、街の外か・・・」
壁に囲まれた街中からでは飛べなかったラストは外を見ることが出来なかった。本や写真でしか見ることのなかった景色にラストは感動すら覚えた。
「すっげー広いんだな・・」
一面に広がる草原、その向こうには森が広がっている。
「今日の依頼はあそこの森まで行って薬草を10kg分摘んでくること!急がないと森で野宿することになるよ!」
そう言ってミカエラは翼に魔力を纏わせ空に舞いあがる。
「ほら、行こう!ラスト!」
「お、おう」
陽光を反射してキラキラと輝く黄金の髪と翼。子どものような笑みを浮かべるミカエラを見て不覚にも綺麗だと思ってしまった。
(集中しろ俺!アザイアさんとの特訓を思い出せ)
内心言い聞かせ、翼に魔力を込める。シャアアあっと金属が軽く触れ合うような音を立てて翼が展開し、赤い魔力の光が迸る。
「なにあれ?あんなの見たことない・・・」
ミカエラも初めて見るラストの姿に釘付けだった。
それがいけなかった。
「あ、やべ!調整ミスった」
「え?どうしたの?ラ・・」
次の瞬間猛スピードで急上昇してきたラストと空中で激突し、二人でもみくちゃになって地上へ落下していった。
「アホ!ラストのアホちん!」
「すまん、ミカ」
あれからなんとか持ち直し、2人で森へ向かって飛んでいた。盛大にぶつかったが対した怪我もなく、その怪我もミカエラが治した。
「帰ったらなんか奢ってもらうからね!」
「なるべく安いもので勘弁してくれ」
「あと、買い物にも付き合ってもらうから!」
「服か?化粧品か?」
「両方」
「・・・・了解」
長丁場になりそうだと確信して落ち込むラスト。
それとは対照的にミカエラは内心ウッキウキだった。
(どさくさだけどラストをお出かけに誘っちゃった!しかもこれってデート!?デートなのよ~(?))
思わずニヤけそうになるのを堪える。
「ん、それなら許してあげる」
「・・・・なんか凄い顔してるけどその表情はどんな感情を現してるんだ?」
「!!べ、別にナンデモナイヨ!それより、ラストちゃんと飛べてるじゃん!あまり羽ばたいてないけど、どうやってるの?」
ミカエラ達のような普通の人は翼を鳥のように羽ばたかせて空を飛ぶ。魔力を掴んで飛んでいるというのもあるが鳥と違って体重も重く、姿勢も安定しないため、少なからず上下に揺れながら飛行する。
それに対してラストの飛び方は常に一定だった。翼を殆ど動かさず、直線的に飛行する。方向転換するときだけ翼や身体を傾けている。
「難しい事はよくわからないけど、俺の場合翼から魔力を真っ直ぐ放射して飛んでるんだ。だから魔力を込めすぎるとさっきみたいに暴発しちまうんだ」
「びっくりしたよ。いきなりボンッ!ってなって突っ込んでくるんだから」
「どうやら翼の構造がみんなと根本的に違うみたいなんだ」
「確かにそうだよね。普通翼は錆びないもん」
「それもあるけど、金属質の翼、魔力の循環、どれもみんなと違って・・・俺って何者なんだろうってさ」
両親もなく、気づいたら独りで重く錆びた翼を背負っていた。キリュウ院長と、そしてミカエラと出会わなかったら自分はどうなっていたのだろうか。
「ラスト?」
「ん・・ああ、なんでもない」
「なんでもなくないでしょ。眉間にシワ寄ってたし顔が強ばってたよ。鳥肌も立ってたし脈拍もいつもより早くなってたし」
「なんでそこまでわかる!?その事に鳥肌立つわ!」
「ラストのことでわからないことなんてないよ!」
ふわりとミカエラが翼を羽ばたかせ、ラストの前に出る。
「ラストが何者かなんて・・・そんなの私の家族に決まってるじゃん!」
「・・・・・ああ、そうだな」
「そうだよ!ほら!もうすぐ森の入口に着くよ!」
そう言ってミカエラは先へ飛んで行った。それを追いながらラストは小声で
「ありがとうな、ミカ。俺もお前のことを・・・」
言いかけてやめた。あいつは地獄耳だから万が一聞こえたら絶対調子に乗るか照れるだろうからと。