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第12羽

それから数日後。ミカエラの傷も治り、ラストの検査も終わったため、2人は無事退院することができた。

しかし、


「わたし、住む所ないです。ラストの部屋に住まわせてください」

「・・・・悪い、耳の調子が悪いみたいだ。今なんつった?」

「ワタシ、スムトコナイデス。ラストノヘヤニスマワセテクダサーいだだだだ!!やめふぇ!やめたげふぇよぉ!」

「ああ、すまん。何をとち狂ったことを言ってんのかと思ったら手が勝手に」


パッとミカエラの肉付きの良い頬を引っ張る手を離す。ぷるんぷるんと餅のように波打っている。


「お前のほっぺたどんな材質でできてんだよ」

「それよりもラスト!一生のお願い!新しい部屋が見つかるまで住まわせてください!」


なんの躊躇もなく地べたに額を擦りつけ完全平伏・・・つまり土下座である。


「お、おいミカ!なにやって・・!」


ヒソヒソ

「あらやだ、なにあれ?」

「新手の路上パフォーマンスかしら?」

「あんな綺麗な女の子に土下座なんてさせて」


すぐさま通りすがりの人達の視線が痛い程突き刺さる。あまりのいたたまれなさに地面に突っ伏すミカエラを引っこ抜く。ぷらりとミカエラの身体が軽く持ち上げられる。


「いきなりどうしたんだよ。お前自分の部屋とか」

「私の部屋は悪魔に潰されました」

「あ」

「荷物もお金も殆ど吹き飛びました。ついでに職場も一緒に無くなりました」

「つまり今のお前は」

「住所不定のガチニートです」

「・・・・・・・」

「泊めて欲しいでやんす」

「孤児院は?キリュウ先生には話したのか?」

「新しい孤児が入ってきたから私達の部屋を使わせて欲しいって」

「・・・友達は?」

「みんな会社の寮とか相部屋。彼ピと同棲してるから無理って・・・」


光を無くしたその瞳を見てしまったラストにはもう何も言えなかった。


「・・・・・しょうがねぇな」

「!!、やったー!ありがとうラスト!」

「あぷっ!コラ抱き着くな!」


そしてラストは渋々ミカエラを自分の部屋へと連れていくのだった。

同じような建物が並ぶ集合住宅地にラストの借りている家はあった。ちなみに構造は玄関、キッチンとトイレ、部屋が一室に押入れがある程度。


「ここがラストの部屋か・・・狭いね!」

「1人用だからな。後で必要な物買いに行くぞ」

「うん!・・・あ、下着は自分で選ぶから気にしないでね・・///」

「当たり前だ!」


ラストの部屋に荷物を置き、今度は買い物のため家をでて少し歩いた所にある商店街に行く。

日用品や食料を取り扱う店や武器や防具など冒険者御用達の店まで一通り揃っているため、色々な人で賑わっている。


「ここに来るのも久しぶりだ!」

「そうなのか?」

「教会からはあまり外に出してはもらえなかったからね」

「そっか。必要なものがあったら遠慮するなよ」

「なら・・串焼きとサンドイッチとモチモチゼリージュースを・・」

「それは自分で買えよ」


そんなやりとりをしながら二人は生活に必要な物を

買い揃えていく。


「あ!見てラスト!あそこのお店安売りしてるよ!急がなきゃ!」

「おーい、あんまりはしゃぐなよ」


はしゃぎながら商店街を駆けるミカエラ。キラキラと瞳と翼が輝いている。


(やっぱあいつ目立つよな・・・)


希少な黄金の翼、恵まれた容姿、天真爛漫な笑顔、どれも人を惹き付けるものだ。現に今も商店街を行き交う人の視線を集めている。もちろん好意的なものだ。

若い男の中には舐め回すような視線を無遠慮に向ける者もいる。


(・・・・・・)


それがラストにとってはあまり気分の良いものではなかった。何人かの男がミカエラにいいよろうとするのを見つけ、咄嗟にミカエラの手を取る。


「ふぇ?ラスト?どうしたの?」

「はしゃぎすぎだ。もう子どもでもあるまいし」

「ごめんごめん。嬉しくってさ。・・・正直私、孤児院を出てからずっと寂しくてさ、勿論教会の人達は凄く良くしてくれたよ。でもやっぱり不安でさ、私なんかが聖女候補に選ばれたのかわからないし、家族とも離れ離れになっちゃうし、挙句の果てに悪魔に襲われて滅茶苦茶になっちゃうし・・・」

「ミカ・・・」

「でも今はラストが傍に居てくれる。それが凄く嬉しいんだ!ふふっ」

「そうか・・・なら良かった。ミカ」

「なあに?」

「私なんか・・なんて言うなよ。お前は自分が思ってるより凄いやつなんだ。自信を持て」

「それは私が黄金の翼を持ってるから?」

「関係ねえよ」


ラストははっきりと断言する。


「黄金の翼だろうとそうでなかろうと、お前は凄いやつだよ。子どもの頃から俺はお前に救われてきたんだ。お前が俺を認めて受け入れてくれたからこそ、俺は腐らずにすんだんだ。俺の方こそ、お前がいてくれたから・・・わぷ」


唐突にミカエラが買い物袋でラストの口を塞ぐ。


「もがむぐ・・(なにすんだよ)」

「急に・・・・」


俯くミカエラの顔は耳まで真っ赤だった。


「急にそんな・・・真面目な顔して・・そんなこと言わないでよ、恥ずかしい・・・・」

「ぷは・・・俺は本当に」

「場所・・・考えて・・・///」

「え?・・・あ」


ふと我に返ったラストが当たりを見回すと自分達が注目の的になっていることに気づく。


「若いって良いわね~」

「最近の子は大胆ね~」

「リア充は死ね~」


「おい、最後言ったやつ誰だ出てこい!」

「もういいから行こ!ラスト!」


その後家に帰るまで気恥ずかしくて互いの顔を見ることができなかった。


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