危急存亡
霧のような白い靄に覆われ倒れていく人
「永遠」
お母さんは焦った声で僕の名前を呼ぶと
靄から逃げるように僕の手を強く握りしめ、大型デパートメントストアへと走る
ホールにある大きなモニターの前には大勢の人が集まっている
気になった僕はお母さんの手を離し、モニターをのぞき込む
そこから聞こえてくる声と映像に目が離せない
靄から逃げる人の叫び声と、気絶したかのように次々と倒れていく人たち
アナウンサーらしき女の人が、テロなどと言っているが6歳の僕には分からない
映像を見るに白い靄を吸っては行けない。ただ、それだけは分かる
後ろから手を引かれると、僕を抱き抱えて歩き出すお母さん
入ったのはコスプレ店と書かれたお店
リュクサックとガスマスクを4つ取り、誰もいないレジにお金だけ置くと
「大丈夫、お母さんがいるからね」
そう言って、痛いほど俺を抱きしめるお母さん
「うん。お父さんと優愛は?」
「お父さんがいるから、2人ともきっと大丈夫」
大丈夫よ。自分に言い聞かせるように、僕を安心させるように
そんな言葉と表情から、僕もお母さんを痛いぐらい、強く、抱きしめる
「んー」
目を開けると、目の前にはいつもの天井
夢だった事に気がつく
懐かしい夢、10年前のあの日。最悪の始まりだった
2049年にテロ組織「justice」がまいた有毒ガスの影響で、国民の5割が亡くなった
外に出ることができない状況で、人が生きていけるはずもなく、また多くの人々が亡くなった
その後、「justice」に対抗する為にテロ対策組織「UCO」が作られ、人々に救助が来たのは2050年…1年を過ぎた頃だった
今では地下に都市を作り、一般の人々が地上に上がる事はできない
現在、行方不明者は国民の2割と言われている
科学者だった母は「UCO」に勧誘され、幼かった俺は母と共に組織へ入った
組織では、戦い方や知識を身体と頭にたたき込んだ
幸い俺には銃の才能があり、特別隊として選抜された
「永遠」
母さんの声でリビングに向かう
「どうした?」
「今日から、外にいくでしょ。これ」
そう。今日から、外の仕事に行くのだ
母さんから渡されたペンダントを開くと、昔4人で撮った家族の写真
あれから、父さんと妹の優愛は見つかっていない
2人はきっと生きてる。そう信じている
「ありがとう。母さん。行って来る」
「気をつけてね」
外に出ると、遠くからでも分かる大きな建物を見上げる
「UCO」本部。地下都市の中心に位置する
本部に入るには顔、指紋認証、「UCO」に属する人だけが所持するカードキーが必要だ
地上に出る方法は本部からエレベーターに乗るしかないため、警備隊の数も多い
「UCO」なんて言われてはいるが、10年前に日本の次期首相候補だった「獅堂 雅人」が作った政府みたいなものだ
地下都市には一度入ると出ることはできない
「FPS」に入る意外は、、、
本部に入りエレベーターの地下8階のボタンを押す
エレベーターが止まり、長い廊下の行き止まりにある更衣室と書かれたドアを開けると
「よっ、永遠」
右手をあげながら俺を呼ぶ朝陽
朝陽は近距離戦闘に強く、俺と一緒で小さい頃から訓練を受けてきた
朝陽は、「UCO」に入った頃の中で、親友のような存在だ
「おはよ。朝陽」
ロッカーを開け、つなぎに着替え、斜め掛けのカバンを持って部屋を出る
「なぁー、永遠。やっとだな…」
朝陽の言葉が廊下に響く
俺と同じで、行方不明中の家族
幸い、俺には母さんがいた
でも、朝陽は1人、、どうやって生きてきたのか、俺には分からない
「そうだな」
朝陽の肩をぽんっとたたき、歩き出す
地下5階にある会議室に着くと、みんなが揃っていた
「まーた、一緒にいる。2人とも仲良しだねー」
元気な声で話しかけてくる
「色葉」
色葉も今日から一緒に外へ行くメンバーの1人だ
後は、端に座っている海人と星空の双子
「おー、揃ったな」
振り向くと、柳川隊長がドアから入ってくる
『おはようございます』
整列し、頭を下げる
「おはよう。いいか、外にいる間は何が起こるか分からねぇ、油断するなよ。今日の目的は、生存者と物資回収だ。何があっても、こっちから仕掛けるような事はするな。誰1人、掛けることは許さねぇ。以上だ」
「はい。了解しました」
「おし、じゃあ乗れ」
地上に上がるエレベーターに乗る
地上まで続く長いエレベーターの扉が開くと
そこには眩しいくらいに光る太陽があった