『死体運び屋』
ちくしょう。町に戻ったら、あの道士!ぶちのめしてやる!
「おい、どうだ?そっちは、見えるか?」
小声で5mほど離れた、仲間に声をかけた。
「いや、こっちは何も見えない。」
「そうか。」
俺は、息を止め、忍び足で仲間の所へ向かった。
1歩、2歩、3歩。
背後から、トン、トン。一定の感覚で飛び跳ねる音が近づいて来た。
アイツだ!キョンシーだ!
俺は、息を止めたまま、立ち止まった。
俺の横で、キョンシーは止まり、見えもしないのに辺りを見渡す。
そして、また、飛び跳ねながら森の奥に消えていった。
なんとか仲間の元へたどり着いた。
ゆっくりと深呼吸をした。
「ふぅ。ダメかと思ったよ。」
「あぁ。」
「お前、どれくらい息を止められる?」
「…100ぐらいかな?」
「俺も同じぐらいだよ。」
お互い辺りを警戒しながら、どうやって隠れながら、この森を抜け出すを考えていた。
俺らは、町の道士(死体を操る者)から隣町の道士に死体を運んで生計を立てている。道士から額に札の着いたキョンシーを預かり、鈴の音で誘導する。夜の散歩で金が稼げる楽な仕事さ。山賊もキョンシーを恐れて近づきやしない。
妻に子供ができたので、料金を増したところ、道士は心よく承諾してくれたが、実際は俺らを殺す気だったのだ。
いつも通りに、キョンシーを預かり、予備の札と前金を貰って、森の中に入ってしばらくしたら、貼り付けた札と予備の札が突如 燃えて灰になって消えたのだ。
道士の術だろう。
俺らは、慌てて自分たちの火を消した。
キョンシーも札が燃えて自由の身になったが、火の苦手なキョンシーは目の前の燃えた札に驚いたのか森の奥へ行き見えなくなってしまった。
おかしいと思ったんだ。普段ならキョンシーを3体運ぶのに、今日は1体だけなんて、あの道士 俺らをキョンシーにして3体にする気だな?
俺らだって、長年キョンシーを運んできたんだ。多少の心得はある。ただ、札もなく、さっきのドタバタで、提灯も燃えてしまった。
真っ暗闇だ。普通に歩いても森を抜けるのに、2時間はかかる。
キョンシーに見つからないように隠れながら、息を止めて動いて森を出るのに何時間かかるのだろう。まだ、夜明けまでは6時間以上ある。早く抜けて、安全な場所に身を隠すか、札を手にいれなくては…
「!」
仲間が口に手を当て、息を止めた。
俺も、息を止める。
トン、トン、トン、と一定の音で飛び跳ねる姿が見えた。
俺らと逆の方向だ。
少し進もうとした時、仲間が引き留めた。
(まだだ。)声には出さないが、首を横に振るしぐさでわかった。
完全にキョンシーが見えなくなると仲間は、
(もう、いいよ。)と顔を縦に振り、ゆっくりと10mほど先の木までたどり着き、また隠れた。
そこで、息を浅くゆっくりと整える。これを何百回も繰り返さなくてはならない。
ここで、キョンシーになるわけにはいかない。
妻と生まれてくる子供の為に。
まぁ、いざという時は、コイツを犠牲にするがな。
読んで頂き誠にありがとうございます。
キョンシー懐かしいなぁw
また、『かくれんぼ』考えよw




