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コノハの短編集

さョナら

作者: コノハ

微グロ注意。

「ねえ、どうしたの?」

俺の幼馴染、片桐かたぎり紀乃きのが、親しげに話しかけてきた。

「何でもねえよ。」

俺は怒鳴りつけたいのを必死に抑え、そう言った。

なんで、そんなに馴れ馴れしいんだよ。ただ、ずっと同じクラスだっただけじゃねえか。

「…ずいぶん苦しそうだよ?」

心底、心配そうに、紀乃は言う。

「なんでもねえって言ってんだろ!」

俺が怒鳴りつけると、一瞬、紀乃はビクっとなって、

「…そう。なにかあったら、言ってね。私は、私だけは志乃しのの味方だから。」

取り繕うように、そう言った。

紀乃は友達に呼ばれ、どこかへ行った。

教室の自分席に座ると、ただひたすら、恐怖が襲う。

(…ああ…学校が終わる…家に、帰らなきゃいけない…)

俺は昔から、学校が好きだった。勉強も、好きだ。

だから、家に帰りたくない?

…違う。

俺は、家に、あのクソ親父のいる空間に帰るのが、恐いのだ。

学校が好きなのは、疑われることなく家から離れられるから。

勉強が好きなのは、している間は全てを忘れられるから。

俺は、家に帰りたくない。なのに、ゆっくり、でも確実に帰宅じごくの時間は迫ってきている。

ほら、喧騒の中を歩く、教師の足音が…ここからでもしっかりと、確実に聞こえる。

カツリ、カツリ、カツリ…ガラリ。

教師の姿が見えた途端、全身から、冷や汗が。寒気が。怖気が。

「では、終礼を始める。」

帰宅を告げる声とともに、俺の一日は、幸せは、終わった。















ついに、着いてしまった。

悪魔の巣窟に。

すっかりさびれた門扉を音を立てないように開き、恐る恐る、一歩を踏み出す。

木製に引き戸まで、たどりつく。

ゆっくり、引き戸にてをかける。もうすでに息は荒く、冷や汗は滝のよう。手も、震えている。

ガシャン!ドカッ!バキッ!

その音で、手の震えが一層激しくなった。

12になる、弟のゆうが、あのクソ親父にいたぶられている音。

殴る、蹴る。怒鳴りつける。

ありとあらゆる方法で、俺達はなぶられる。

扉をあけるのをためらって、なんになるのだろう。いずれは同じ目に遭うというのに。

グシャッ!ボキッ!

…え?

な、なんだ?い、今の音?聞いたこともない、音…

まさか!

ガラッと、決死の覚悟で扉を開け、居間に走る。

そこで俺が見たものは…






「…え?」





血  まみれ   の    親父   と  


  深紅に   染まった      





俺の    ――――弟。



俺はほぼ無意識に、さけんだ。

「クソ親父ィィィ!!裕に何しやがったぁ!」

それに答えることなく、親父は俺を手に持ったビール瓶で殴りつけた。

頭の奥がジン、となり、そして激痛が襲ってくる。

俺は無様に倒れた。

そこで、倒れた弟の顔が、よく見えた。

完全に光を失った、瞳。死んでいるようにしか、見えない。

「ったく、どこでそんな言葉づかい覚えてきた?女らしくしとけっていつも、言ってるだろうが!」

倒れた俺を、親父は蹴りつけた。

腹に鈍く響く痛み、そして嘔吐感。

俺はその痛みを無視し、叫ぶ。

「うるせえ!俺は絶対にてめえの言いなりになんかならねえ!てめえが女らしくしろってんなら、男のように振る舞ってやる!」

親父の返事は、頭に向けての、蹴り。

ガツン!

という音と共に、世界がゆれた。

その時、最後のタガが、外れた。

ボロボロになったはずの体は思い通りに、立った。

「殺してやる……」

鞄に手を伸ばし、中から携帯していたナイフを、取り出す。

「殺してやる…!」

「なにをするつもりだ?まさか今まで育ててくれた父親を、殺すなんてことはないよな?」

「殺してやるぜ、クソ親父ィィィィイイ!!!」

ナイフを構え、突進する。

恐怖も、痛みも乗り越えて。

ナイフは、驚くほど簡単に、親父の心臓を突きさした。















「ねえ、どうしたの?」

俺の幼馴染、片桐紀乃が親しげに話しかけてきた。

「…何でもねえよ。」

かすかに微笑んで、俺は答えた。

「…ずいぶん、楽しそうだよ?」

「…なんでもないって、言ってるだろ?」

今度も微笑んで、俺は答えた。

「そう。何かあったら言ってね。私は、志乃の味方だから。」

「…ありがとな。」

俺はやさしく、そう言った。
















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[良い点] 着目した場所 [気になる点] さよなら、のキーワードが誰に向いてるか解らない 父親ならば、さよならは違うと思う 異常さが足りないと言うより説明不足 最後、何故微笑んでいるか説明が…
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