転校生だけど頭があれなゴスロリ美少女とイジメを解決するらしい
「聞こえなかったのかい? 自分よりも立場の弱い誰かを虐げて満足する君達のくだらない『遊び』をやめるか、それともボクの『遊び』で君達のつまらない人生を潰されるか、どちらがいいかと聞いたんだ。さぁ、答えたまえ」
教室が静まり返った、のは元々だったけど、この一言で教室の温度は体感氷点下にまで落ち込んだ。地球温暖化に歯止めかけられそう。
……と、現実逃避はここら辺にしておいて。
状況の説明が必要だろう。
とっても簡潔かつ見たまんまな説明。
隣の席の銀髪オッドアイゴスロリ美少女がクラスメイトの女子二人に先の発言をぶつけた。
意味が分からない?
安心してほしい。俺も意味が分からない。
なんで銀髪オッドアイゴスロリ美少女が当たり前みたいにクラスにいるんだよとか。
今、授業中なんだけどとか。
どうして古典なんて昔の言葉を勉強するの?とか。
意味が分からないことだらけ。
なかでも特に意味が分からないのが、
「ボクの言ったこと、そこまで難しい話ではないと思うのだけど君はどう思う? ボクがおかしいのだろうか」
「……さ、さぁ? どうでしょう?」
なんで俺の机挟んで舌戦(一方的)を繰り広げちゃうの?
おかしいのはあんたの頭だよ。
そんな「おい、お前はボクの味方だろ」みたいな目で見られても困る。
今はちょうど死角で見えないけど、さっきこのゴスロリ美少女が思いきり毒を吐いたクラスメイトの女子二人(転校してきたばかりで名前が分からないのでAさんBさんとでもしておこう)から刺すような視線を感じるのだ。
うっかりここで「そうですね。おかしくないと思います」なんて言ったものなら買う必要のない恨みを買うこと必須だ。そんなのは御免被りたい。
「……」
「……」
一体どうしてこんなことになったのか。
そのきっかけとなったこのクラスの委員長である長い黒髪の少女に少しばかりの恨みを内包した視線をこそっと向ける。
ガン無視された。泣きそう。
「あの……今は授業中……」
「あぁ、すまない先生。すぐに終わらせるからもう少しだけ待ってほしい」
「あ、はい」
あ、はい。ではない。
もうちょっと抗って先生。あと、俺をこの地獄から救い出して。あ、おい、目逸らすんじゃねえよ。
「……」
どうして俺がこんな目にあっているか。
原因はこのクラスの委員長と一つの部活動にある。
八百万部。
部員は俺とゴスロリ美少女の二人。
活動内容は生徒から寄せられた依頼をゴスロリ美少女の興がのる限り解決するというもの。
端的に言って頭のおかしな部だ。
そもそも部員二名で部として学校に認められている時点でおかしい。
俺はつい最近この学校に転入してきたわけだからそれまではゴスロリ美少女一人でこの部を成り立たせていたわけだからなおのことおかしい。
あと、部の名前とか活動内容とかあげだせばキリがないくらいにはおかしい。
ただ、まぁ、そんな頭のおかしい部に依頼を持ってくる変わり者も世の中にはいるようで。
昨日の放課後、なんとか退部できないだろうかとゴスロリ美少女相手に交渉をしているところに来客があった。
それが委員長。
依頼内容はクラスで起きている『イジメ』の解決。
クラスメイトの名前もまともに知らない転入生と高校という場で当たり前のように銀髪オッドアイゴスロリという校則破りのオンパレードを披露するやベェ奴にはいくらなんでも荷が重い話だと思った。
けど、受けちゃった。ゴスロリ美少女が勝手に。
んで、現在こうなってる。
「えっと……意味分かんないんだけど? ねぇ?」
「うん。ほんとに。イジメ? 私達が? 誰を? さっきから変な言いがかりつけるのやめてくれないかな? 失礼だと思わないの?」
困惑したような様子で女子二人はゴスロリ美少女に言葉を返す。
ここだけ見ればいきなり訳の分からない言い掛かりをつけられた被害者に見えるのだから大した演技力だと思う。
証拠が揃っていなかったらうっかり俺も騙されちゃいそうだ。
イジメの解決。
それだけでも十分に厄介な話だということは理解できるけど、この問題はそれ以上にやり方が陰湿だ。
何しろ加害者も被害者も表向きには居ないのだ。
虐められているのは虐めている二人の女子の友達(Cさんとでもしておこう)。けど、Cさんは自分が虐められているとは絶対に認めない。委員長が話を聞こうとしても「遊んでるだけだから。大丈夫だから」と取りつく島もないらしい。
客観的に見てイジメだったとしても被害者が被害者であることを認めてくれないとどうしようもない。
虐められていると認めることに抵抗があるのかもと委員長は言っていた。
けど、それはどう考えたって状況を悪化させる悪手だ。
周りがみんな敵ならともかく、委員長みたいになんとかしようとしてる人を遠ざけてしまえば救いがない。
なんてことを外から言うのは無責任以外の何物でもないのだろうけど。
「私達、遊んでるだけだもんね? 別に自分より立場が弱い?とかそんなこと全然思ってないし。ね?」
「うんうん。ほんと。勝手なこと言わないで欲しいんだけど?」
ま、そりゃこうなる。
だって被害者なんて居ないのだ。
教科書を破られてゴミ箱に捨てられようが、財布から金を抜かれようが、裸の写真を撮られて脅されようが、全ては『冗談』で『遊び』に過ぎない。
彼女らのなかでは本心かどうかはともかく彼女らの関係は『友達』なのだ。
いくらでも言い訳はできてしまう。それができる状況が作られてしまっている。
そこにいくらゴスロリ美少女が「それはイジメだ」なんて事実をぶつけたところで否定されて終わり。被害者が認めないんだから加害者だって認める訳がない。
やっぱりどう考えたって学生風情には荷が重い。
もっとしっかり止めるべきだった。安請け合いしたことが傲慢だった。
「何か勘違いしていないかい? ボクは選べと言ったんだ。君達の意見なんて聞いてない。君達のやっていることがイジメだろうが遊びだろうがそんなことはどうでもいい。不愉快だからやめろと言ったんだ。そして、それができないなら不愉快の元である君達を処理するだけだ。分かったかい? 分かったなら早く選べ。これ以上くだらない言い訳でボクの時間を奪うな」
「……」
「……」
「……」
もっと傲慢な人がいた。
さっきとはまた違うベクトルで教室が静まり返っている。
主に「お前何言ってんの?」みたいな雰囲気で。
というか処理ってなんだ。何する気だ。怖えよ。
◇◆◇◆◇
「無事解決したね」
「ソウデスネ」
放課後、学校の端、使用用途がまるで分からない『K教室』という教室。
そこに置かれたたぶん私物と思われるテーブルと横並びのイス。
どういうわけか室温湿度共に完璧に整えられた八百万部の部室でカップに口をつけたのち、ゴスロリ美少女はそう口にした。
たぶん彼女と俺の間には『無事』という言葉に関して認識にズレがあると思われる。
イジメっ子が震えながら「あの……二度としないのでほんとやめてください」なんて涙目で懇願するのはどう考えたって無事な解決とは言えたものじゃない。
そもそも話し合いによる解決のはずが途中からゴスロリ美少女の財力を背景にした脅しに変わってる時点で無事とかない。
「……」
ゴスロリ美少女の実家は超がつくほどお金を持っているらしい。
本人に確認したわけではない。ただの噂。服装を注意した教師が次の日居なくなってたり、彼女と揉め事を起こした生徒の親が日本にいられなくなったり、そんな実話に基づいたただの噂話。
変に踏み込んで戻ってこれなくなったら困るので絶対に聞いたりはしないけど、きっと今日のあれもハッタリでもなんでもなく本気で言っていたのだろう。怖いから聞かないけど。
「ん? どうかしたかい?」
「あ……いや……」
聞く気はない。けど、無意識に視線を向けてしまっていたようでこちらを向いて小首を傾げてそんな風に彼女は問う。
何と答えれば良いだろうか。
曖昧な言葉を溢して考えていると良いタイミングで扉が開いた。
「二人とも、今日はありがとね」
「……委員長」
「なに、気にすることはない。ただ頼まれたことをこなしただけだからね」
扉を開け一歩足を入れて感謝を口にするのは委員長。
そんな彼女の感謝の言葉にゴスロリ美少女は本当に何でもないといった様子で手を振って応じた。
実際、彼女にとっては大したことではないのだと思う。だからこそ恐ろしい。
「それで? 何もわざわざそんなことを言いにきただけという訳じゃないはずだ」
「あはは。敵わないなぁ」
こんなおっかない女子相手に弱味を握られている俺の明日はどうなることか。内心で震えているとゴスロリ美少女が話を切り出した。
うん。なんか話の雲行きが怪しいね。
「さて、俺はちょっと用事があるのでこれで」
「実は、二人にお願いしたいことがあってね。頼める?」
「あぁ、もちろん。ほら、何を立ってるんだい? 早く君も座って話を聞こうじゃないか」
「……」
あの……俺って別に要らないですよね?
なんて言えるはずもなくゆっくりと再び俺はイスに腰掛けた。
……ほんと許してください。