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第1話 再会の二人して

「で、今回は何なんですか」

「何なんですかじゃないよ、お礼だよお礼」

「お礼……?」

「先日の、同行取材のお礼。まだしてなかったろ」

「……嫌な予感がするんですけど」

「失礼なやつだな」

 藤崎柊輔は面白そうに笑った。

 大通りを一本入った路地裏だった。時刻は夜の20時過ぎ。

 休日の夜に呼び出されていた谷本新也アラヤは、はぁっとため息をついた。

 新也はしがない地方公務員、藤崎柊輔は新進気鋭の作家だった。

 先月、ホラー短編の取材と称してある空き家群を訊ねた2人だったのだが、主に新也が大変な目にあっていた。

「先輩……藤崎さんに誘われて行った先で、先月ひどい目にあったばかりですからね」

「心外だな。あの件じゃ、取材協力でお前の名前も本に載せてやるって言ってんのに」

「そういう意味じゃないですってば」

 上機嫌の藤崎は方向違いの慰めを口にしてくる。恩返しにも礼にもならない提案をされて新也は却下した。

「僕の名前は載せなくて良いですからね。……それで、今日は何なんです?」

 裏通りに入ったのか、人通りも絶えてきていた。

 人が2人すれ違えるギリギリの幅の路地が続いていた。ビルが両側に迫り、明かりもない。足元もお世辞にも綺麗とは言えなかった。空き瓶などのゴミも転がり、何だかすえた臭いが辺りには漂っている。動物でも棲み着いているのだろうか。

「だから、お礼だって言ってるだろう。この先に良い店を見つけたんだ、先月」

「この先?」

 店舗の裏口や背面が連なった、本当の路地裏だった。この先に店があるとは思えない。

 新也は懐疑的に先を行く藤崎へ声をかける。

「本当ですか?」

 肩越しに振り返った藤崎は子供っぽく口を尖らせた。そんな顔も悔しいが、やんちゃで男前だ。

「さっきから本当に失礼なやつだな。ちょっと高い店だから見とけ」

 道は一層狭く暗くなっていった。そこを迷いもなく藤崎は右に左に折れて先へ進む。そのジャケットの背を追いかけて新也も歩いた。

 見えた。

 狭い道の突き当りに、白い構えの店舗に洒落た薄墨の暖簾がかかっていた。店の名前は暖簾の右端に白く抜かれていたが、達筆すぎて新也には読めない。店の前には大きな水鉢に、小さな赤い金魚が水草の間をゆらゆらと泳いでいた。

 藤崎に並んで店前に立ち止まり、新也は思わず嘆息した。

「素敵な店、ですねえ……」

 だろう?と得意げに藤崎が新也を横目で見る。新也は背筋を伸ばした。

「ごちそうになります!」

 思わず頭を下げる新也に、藤崎はふふんと鼻で笑い、

「任せろ」

 と暖簾をくぐった。


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