表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それぞれの恋 ~めぐむ君の告白より~  作者: シラカワ ヒビキ
1/10

01 年下の男の子(1)

家の玄関先。

僕の手には、男の子の小さい手。


男の子は、僕を見上げる。

ニコッと、微笑んで上げると、男の子も、照れた面持ちで微笑み返す。


叔母さんは、片手を上げて言った。


「……ということだから、めぐむ君、お願いね」

「はい、分かりました」


僕は、男の子の手をぎゅっと握りしめた。




男の子の名前は、ユータ。


僕のいとこだ。

今年、幼稚園の年長さん。


来年は小学生だなんて早いものだな。

思わず感慨にふける。

ついこの間は、抱っこしてあげたけど、年長さんともなると、抱っこするのも嫌がりそうだ。


今日は、ユータの母親、つまり叔母さんが同級会があるとかで一晩留守にする。

あいにく、叔父さんも出張中だそうで、ユータをうちへ預けに来たのだ。


僕とユータは、叔母さんが、マンションの廊下から見えなくなるまで手を振り続けた。




大きくなったと言っても、まだ幼稚園生。

一晩といえど、両親と離れ離れになるんだ。

さぞ、寂しいだろう。

優しく、ケアしてあげなきゃ。


僕は、ユータの手を取って、家の中に入る。

そして、しゃがんで言った。


「ユータ、泣かないで偉いぞ!」


僕は、ユータの頭をそっと撫でる。

あどけない表情で、キョトンとしている。

戸惑った表情にも見える。

もしかして、状況をちゃんと掴めてないのかな。


「大丈夫だからね」


僕は、ユータ頰に優しく手を添える。

かわいい。


ユータは言った。


「めぐむ兄ちゃん! 早く、遊ぼうよ!」

「あれ、ユータ寂しくないの?」


「寂しくないよ。なんで?」


あれ?


驚いた。

今時の幼稚園生ってこんなに大人びているもの?


僕は、ユータに手を引っ張られながらリビングへ向かった。




結局、ユータの希望もあって僕が面倒をみることになった。


お母さんは、何かとユータの世話をやきたがったが、ユータが「めぐむ兄ちゃんがいい!」と突っぱねて、ようやく諦めた。


どうも、お母さんは、わんぱくな男の子の世話をやきたかったようだ。

僕がおとなしくて、手がかからない子だったせいかもしれない。


「そうね、残念」


お母さんは、そう言って肩を落とした。


「ねぇ、お兄ちゃんの部屋で遊ぼうよ!」


ユータはそう言って、僕の腕を引っ張った。



「へぇ、ここがめぐむ兄ちゃんの部屋なんだ」


ユータは、部屋を見回すと、ベットの縁にちょこんと座った。


「ユータ、もっと小さい頃に来たことあるんだけど、覚えてない?」

「よく覚えてないや」


「そっか、まだ小さかったからね」


そうなのだ。

ついこの間遊びに来た時は、ユータを抱っこしてあやしてあげたっけ。

子供の成長は早いとつくづく思う。



僕は、ユータを改めてみる。

短く切った前髪。

一見、上品そうだけど、イタズラ好きそうなキラキラした目。


にっこりした笑顔がキュンとくる。

僕の可愛い従兄弟の男の子。



「なんで、僕の顔をじろじろ見るの? 何か付いている?」


ユータは、口の周りを手の甲で拭う。


「ううん。なんでもないよ」


僕は、慌てて目を逸らす。

幼稚園の年長さんともなると、しっかりと自分の意見を持って喋る。

こうやって、普通に会話できるのが不思議だけど、とっても嬉しい。


「ところで、めぐむ兄ちゃん。恋人いるの?」

「へっ? こいびと?」


僕は、何かの聞き間違いかと思って聞き直す。

まさか、幼稚園生の口から恋人なんて言葉が出てこようとは。


「めぐむ兄ちゃんって、高校生でしょ? 高校生って恋人いるんでしょ?」

「そんなの、誰が言っていたの?」


「幼稚園の先生。あれ? もしかして、兄ちゃんは恋人いないの?」


ユータは、僕を残念な目で見る。


全く、最近の幼稚園の先生は何を教えているのか。

僕は、悔しくなってついムキになって言った。


「いっ、いるに決まっているじゃん!」

「えー? 本当かな?」


ユータは、じとっと疑いの目を僕に向ける。


「もう! 生意気!」


僕は、ユータの髪の毛をシャカシャカ撫でた。


僕は、トレーに載せたジュースをユータに渡す。

ユータは、美味しそうに、チューっと飲んだ。


ああ、そうだ。

ユータの為に用意していたんだった。

僕は言った。


「ねぇ、ユータ。ゲームする?」

「えっ? ゲームあるの? していいの?」


「うん、いいよ」


僕は、最近はあまり使ってなかった携帯型のゲーム機をユータに手渡す。


「やった! これ、やりたかったんだ! 友達みんな持っているんだけど、ママ買ってくれないんだ」

「そっか、なら思う存分やっていいよ」


やった!っとユータの叫び声。



ユータは、喜々としてゲームをやり始めた。

生意気でもやっぱり子供なんだ。

僕は、ゲームに夢中になるユータを眺めながら、クスっと笑った。




夕ご飯ととり、お風呂の時間。

僕は、ユータに尋ねる。


「お兄ちゃんと一緒に入ろっか?」

「うん!」


「ユータは、自分で服を脱げる?」

「そんなの当たり前だよ!」


ユータはさっさと服を脱ぎ、一目散にお風呂場へ入った。


「ユータ、痒いところある?」

「ううん、大丈夫」


僕は、シャカシャカとユータの髪の毛を洗ってあげる。

最後にシャワーでシャンプーを流すと、ユータは気持ち良さそうに顔を拭った。


「ねぇ、お兄ちゃん?」

「ん? なーに?」


「お兄ちゃんのってちっちゃいね」


グサっ!

ユータは、僕のをまじまじ見つめる。


「何言ってるの! ユータよりは大きいでしょ!」


「そんなの当たり前だよ。僕、まだ幼稚園生だもん」


正論だ。

ぐぅの根も出ない。


「パパのは、もっともっと大きいよ」

「あー、なんだ、パパと比べてかぁ。うん、そりゃ、僕は小さいよ。だって、まだ高校生だもん!」


「それにしても、小さくてかわいい!」

「なっ、生意気め!」


「お先ー!」


ジャポン!


ユータは逃げるように湯舟に浸かった。

僕は、ユータを睨む。

ユータは、へっちゃらだよ、っていう態度。


「まったく、ほんっとに生意気なんだから!」




湯船に一緒に浸かる。


「ねぇ、ユータ」

「何? お兄ちゃん」


「幼稚園楽しい?」

「うん! 楽しいよ!」


「よかった。ユータは、運動得意だから何でも出来るもんね?」

「うん。僕、足速いよ。走るの得意!」


ユータは、得意げな表情。

走ることに関しては、全くと言っていいほどいい思い出がない。

僕は、水面を見つめながらつぶやく。


「へぇ、いいなぁ。お兄ちゃんなんて、いっつもビリだったよ」

「そうなんだ……じゃあ今度、競争しようよ! 僕、お兄ちゃんに勝てるかも!」


ユータは、嬉しそうに言う。



うーん。

競争したらどうなるんだろう。

まさか、ユータに負けたりして……。


まさかね。

いくらなんでも……高校生と幼稚園生だから。


僕は、動揺を悟られないように言った。


「ははは、お兄ちゃんがいくら遅いって言っても、流石にユータには負けないよ!」

「それもそうだね! あはは」


ユータはすんなり同意する。

ほっ。

じゃあ、競争しよう!って言われなくて良かった……。

まったく、ヒヤヒヤする……。



「ところでユータ。足が速いなら、女の子にモテるんじゃない?」

「どうかな。僕はそんなの、興味ないもん」


「ふふふ、そっか。そうだよね。幼稚園生じゃ、好きとか嫌いとか恋愛は早いもんね」


僕は、ユータの鼻の頭をちょんと触る。


「あー! いま、幼稚園生をバカにした!」


ユータは僕の指を払いのける。


「そんな事ないよ。あれ、もしかしてユータ、好きな子いるの?」

「いるよ!」


ユータは、ムキになって頬を膨らませる。


「へぇ、いるんだ。どんな子?」

「優しくて、その、笑うと可愛いんだ」


「そうだよね。優しい子に惹かれるよね。うん」


そっか。

ということは、ユータは初恋は済ませているのか。


最近の子は、本当にませているんだなぁ。

僕がそんな事をしみじみ考えていると、ユータが言った。


「ところで、明日、行きたいところがあるんだ」

「いいよ。どこ?」


「幼稚園の近くの公園。ストロベリー公園って言うんだ」


ユータの幼稚園の近くか。

隣駅。

大人の足だと歩けない事は無いけど、ユータと一緒だったら、電車かな。


「オーケー、じゃあ、電車に乗って行こっか?」

「うん!」


明日の計画はできたっと。


「さて、そろそろお風呂あがろう!」


僕とユータはザバッと立ち上がり脱衣所へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ