07.常識のお勉強
翌日からシンシア師匠による魔法と常識の講義が始まった。
まずは魔素と瘴気、魔力についてのお浚い。
それから私が聞いたことのある種族以外にどのような種族がいるか。
今日のところはこんなところ。
魔素と瘴気、魔力については以前に聞いていた通りなのでさらっと終わった。
次いで種族のこと。
この世界では女性(雌)と男性(雄)でそれぞれ特徴があって女性(雌)であればどんな種族でも90%の確立で魔法が使えるらしい。男性(雄)は逆に魔法が使えるのは10%だけ。正し、女性(雌)と比べて2~3倍。種族によっては5倍程度体力・腕力に差があるのだとか。とは言ってもこれは大多数がそれに当てはまるという事柄からそうだと言われているだけで当然ながらこれに当てはまらない者も存在するとのこと。
これを大前提として覚えておくように言われてノートにしっかりとメモをする。
ちなみにこれは自前のものだ。
あの日無くしたと思っていた通学鞄をアメリアが見つけてきてくれたのだ。
この世界は羊皮紙と羽ペンが主流だという。
一度使わせてもらったけど、書き心地から何から最悪だった。
そんなのをこれからも使い続けていかないといけない。
そう思って気が滅入ってしまっていたのでアメリアには本当に感謝しかない。
本人・・・本獣? も望んでいたので思う存分もふもふした。
植物紙。っていうか近代日本のノートと筆記用具の素晴らしさよ。
無くしてみて初めてそのありがたみが分かったよ。
えっ? それでもいつかはそのノートを使い切って羊皮紙になるだろうって?
あははっ。そんなの今は考えたらダメだよ。
せっかく持ち直した気分がまた沈むじゃんか。
ノートにしっかり書き綴り終わったのを見計らってシンシア師匠が次の説明を始める。
アメリアことフェンリル。幻獣のこと。幻獣はいずれも体毛が白いのが特徴。
寿命はあるようで無い。殺されれば死ぬが、そう簡単に殺すことは不可能なので事実上不老不死に最も近い存在であるとのこと。
幻獣はフェンリルの他にユニコーン、カーバンクル、ドラゴンに加えて他に数種いるらしい。
ドラゴンと言えば私のヲタク知識の中では蜥蜴みたいな外見で呼び名がレッドドラゴンとかブラックドラゴンとかに分かれていた。
その辺のことを聞いてみると私の言うドラゴンは幻獣ではない邪族のドラゴンで翼がないのが特徴とのこと。
幻獣のドラゴンをドラゴンと呼ぶのに対して邪族のドラゴンはドラゴーネと呼ばれているとか。
幻獣のドラゴンは大型犬みたいな外見で毛がふさふさしてて背中に鳥のような翼があり、その背中の毛が赤や黒等に分かれている。
その色でレッドドラゴンとかブラックドラゴンと呼ばれているらしい。
後、いずれのドラゴンもお腹の毛が真っ白なのが特徴。
この世界の幻獣なドラゴン可愛い。会いたい。
って言ったらシンシア師匠に「希少だからねぇ」と難しい顔をされた。
すぐには会えなさそうかな。残念・・・。
「ここまでで質問はあるかい?」
言われたので首を横に振る。
それを受けて満足気に頷くシンシア師匠。
講義はこないだ私が襲われたオークについてに移る。
あれは邪族に分類されているらしい。
それで邪族はよく分からない部分も多いのだとか。
一般的には人や動物が瘴気に汚染されてしまい邪族に変わるとされているが依り代を必要とせずに瘴気そのものから生まれる邪族もいるとかいないとか。
そして邪族は魔族と魔物に枝分かれするらしい。
人型が魔族で獣型が魔物と呼ばれている。
ここで一旦休憩となる。
シンシア師匠が淹れてくれた紅茶とちょっとした茶菓子で気分転換。
紅茶は地球産の物と比べても遜色ないくらいに香りも良くてなかなか美味しい。
その理由は憶測だけど、この世界には貴族という特権階級持ちがいるからだろう。いるよね?
貴族と言えば紅茶。紅茶と言えば貴族。というくらい紅茶と貴族は切り離せない存在。
だからここまで発展しているのだろうと私は推測してる。
「美味しい」
紅茶を飲んで"ほっ"と息を吐くと太股に感じる冷たさ。
「ひゃっ!?」
何? 慌てて確認するとどうやらアメリアの悪戯のよう。
狼の鼻は「加湿」のために濡れている。
つまり・・・。もう、分かるよね?
「アメリア!!?」
《ユーリが隙だらけだから悪戯しちゃった。ごめんね?》
アメリアは笑顔。狼だけど表情が多彩。
そうそうアメリアは私のことをユーリと名前で呼ぶようになった。
今までずっと名乗ってなかった。すっかり忘れてた。
だから昨日初めてステータスを見ることによってアメリアは私の名前を知ったのだ。
そのことはちゃんと謝ったよ。アメリアは良い子だから許してくれた。
その代わり食事の後のデザートに魔力を大きく吸われたけど。
その吸い方がさ、太股を舐める感じだったんだよね。
うん、スカートの中に首突っ込んできて。
いやぁ、くすぐったかったし、恥ずかしかったなぁ・・・。
「こぉら!」
机に手を置き、椅子から立ち上がってアメリアと向き合う。
目線を合わせて彼女の頬に左右それぞれ手を置いて円を描くようにぐりぐり手を動かす。
「むにむにむにむにっ」
《あばあばあばばばっ》
「むにむにっ、ごめんなさいは?」
《・・・ユーリ、ごめんなさい》
「よろしい」
謝ったので頭を撫でる。
もふもふして席に座りなおして少し温くなった紅茶を構わずに飲み干す。
伸びをして、アメリアに微笑んで、気合を入れたら講義再開。
人族と亜人族について。
この世界で邪族に次いで多い種族が人族。
人族と一口に言っても人族と亜人族に枝分かれする。
亜人族と比べて突出したものがないのが人族とはシンシア師匠の弁。
器用貧乏であり、けれどそれ故に器用とも言える。矛盾しているが。
亜人族を見下して自分達こそが最高の種族と高慢な態度を持つものが多いという。
そのため同じ人族以外の種族からは嫌われている傾向にあると。
かと思えば同族同士で激しく争うことも多々あり意味が分からないとシンシア師匠は呆れていた。
私も同感だ。何処の世界の人間も同じかと呆れてしまった。
続いて亜人族について。
亜人族はこの中でもまた枝分かれ。
森守人族、地人族、獣人族になるらしい。
森守人族についての説明は割愛。
地人族、獣人族についてシンシア師匠は話し出す。
地人族はその名の通り地底に住んでいるらしい。
正確には地上から地下に向けて螺旋状に穴を掘って途中横穴も掘ってそこを住処にしているのだとか。
特徴としては亜人族の中で最も物作りに優れている。酒に強い。背が低くずんぐり体系。
女性は成人しても幼女で童顔な者が多く、男性は筋肉粒々で髭と髪が長いものが多い。
寿命はハーフエルフと同じで凡そ200年。他種族と交わったとしても200年はどういうわけか変わらないらしい。
獣人族は狼(犬)系・猫系・狐系・兎系の四種に分かれる。
その特徴は女性は人族の体に獣の耳と尻尾が生えた感じ。男性は獣が二足歩行になった感じ。
寿命はやはりハーフエルフ、地人族と同じ200年。
獣化と呼ばれるスキルを持っていてそれを使えば人族体のときよりも身体能力が2~3倍に膨れ上がる。獣化があるということは人化もあるわけで、幻獣のアメリアも当然人化することが出来るらしい。ただ獣人族と違って幻獣の場合は人族ないし亜人族との契約が必要で更に主人との絆・魔力が必要になるとのこと。
「魔力」
何気なく私が呟くとアメリアは軽く口角を上げた。そう見えた。
嫌な予感がする。お手柔らかにして欲しい。
こうしてなんだか不穏な? 空気を最後に感じて今日の講義は終わりを告げた。