閑話02.平常運転コーネリアとメアリスの牽制
何故でしょう。コーネリアの話になるとギャグっぽくなる不思議(笑)
社交界中、後でのその他人物達の視点。
◆
-コーネリア-
正直頭を鈍器で殴られたかのような衝撃でしたわ。
ユーリは元々素材が良いから大体の服を着こなせるのですけれど、ドレスに身を包んだユーリと言ったらもう。いつも一緒にいるわたくしでさえ言葉を失ってしまった程でした。
わたくしがそうなのですから、この社交界に出席してる殿方が黙っていられる筈がありません。
いえ、殿方だけではありませんわね。幾人かの令嬢の皆さんもユーリを見る目が明らかにあれになっていますわ。
大丈夫かしら・・・。
なんて余計な心配ですわよね。
ユーリのことはアメリアが守護。
2人の世界で他の者が入り込む余地なんてこれっぽっちもありません。
それでもなんとか隙を見つけようとそわそわしている殿方とご令嬢。
残念ながらあのアメリアがそんな隙を作るようなことはないと思いますわ。
それにしてもいささか腑に落ちませんわね。
何故突然ユーリが令嬢として参加することになったのかしら。
ユーリとアメリアにメアリス様が近づいていきますわ。
さすがに王族のことは無視出来ないようですわね。
恭しく応対するユーリとアメリア。
2人は気付かなかったようですけれど、メアリス様のお顔に微かな含みのような笑みがあったのは何故かしら?
その疑問はすべてが終わってから明らかになりましたわ。
まさか今回の件、メアリス様の企画だったなんて。
そんな話、わたくし達も聞いていませんでしたわよ!
敵を騙すにはまず味方から? メアリス様、なんですの? それ。あら、ユーリから聞きましたの? あの子時々恐ろしい考えをしますわね。トア達も微妙な顔になっていますわ。
「ルハラ王国のアオバ子爵。それもただの子爵ではなく王族が裏にいるとなれば他国の方々も簡単には手だし出来ないでしょう。そうでなくても[[紅の絆]]の皆様は目立ちますからね。これで牽制になった筈ですわ。余程のバカでない限りわたくし達の国。ないしは[[紅の絆]]の皆様に手を出そうなどという者はいなくなる筈ですわ。実際はユーリ様は爵位の受け取りを拒否されていますので調べれば平民であるということが分かってしまうのが問題なのですが、ユーリ様この際爵位を受けてくださいませんか?」
そういう狙いがありましたの!! さすがメアリス様ですわ。
でもユーリは爵位の件は首を縦には降りませんでしたわ。
分かっていらしたのか、メアリス様はため息を零しただけでそれ以上は何も言いませんでしたわ。
ユーリは極端に面倒ごとを嫌いますものね。
ですがそういった面倒ごとに結構頻繁に巻き込まれているのは彼女の運命なのかしら。
「さて、わたくしはこれで失礼致しますわ。あ! そうそう、爵位の件はお断りされましたけど、他国に紹介してしまった以上、皆様はルハラ王国の専属のハンターであり、王族の護衛騎士であることが認知されましたわ。その王族の護衛騎士がAランクでは少し困るんですの。ですので皆様は今日からSランクハンターと致しますのでギルドで手続きをよろしくお願いしますわね。先のSランク2人が失踪して今は国にSランクハンターがいない状態ですので皆様がSランクハンターになってくださると助かりますわ。ちなみにこれは決定事項ですでにギルドマスターにも話は通してありますの。ですから諦めてくださいね」
メアリス様はいい笑顔で爆弾を落として帰っていきましたわ。
呆然とするわたくし達。
これは・・・あれですわね。
ユーリがぶるぶる震えていますわ。
「は、嵌められたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ほんとやられましたわね。
メアリス様が一枚も二枚も上手でしたわ。
その後わたくしはマーガレットと共にこの社交界での出来事を本にして出版したんですの。
大盛況でしたわ。ただでさえ大きかったユーリの人気が爆発的に高くなりましたの。
そのことでユーリ本人は頭を抱えて、アメリアにはまるで敵に向けるかのような殺気を向けられましたけど、わたくし悔いはありませんの。
百合は正義ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
◆
-いろんな人達-
社交界のシーズン。
その会場に彗星の如く現れたアオバ子爵。
彼女のことは他国の王族及び貴族の間で有名となり、なんとかお近づきになろうと身辺調査などをする輩が多数現れた。
ルハラ王国王都に密偵を放っての非公式調査。
故に苦戦必至かと思われたが、意外にもすんなりと彼女の素性は割れて貴族達に届いた。
調査結果が書かれた報告書に目を通すとユーリ・アオバは子爵とは仮の姿でその正体は実は平民であるということから始まり、ルハラ王国王族ご用達のSランクハンターでその実力は折り紙付き。その実力を示すものとして近頃王都周辺で起こった魔物大行軍において彼女達が最前線で戦ったおかげで王都は最小限の犠牲と被害を払うだけで済み、復興が素早く行われた。又、ハンター育成のための学園においてその実力を遺憾なく発揮。卒業したハンター達は皆、それまでのハンターを凌駕する活躍を見せている。といった内容が次々に目に飛び込んで来る。
貴族達はそれに大いに驚愕した。
身なりからして貴族だとしか思えなかったユーリが実は平民であったこともだが、それよりもどう見ても【少女】にしか見えなかった女性が凄腕のSランクハンター。しかも王族ご用達の。
貴族達は何度も自分達が放った間者に内容に間違いはないのか? そう尋ねた。
冗談であって欲しい。貴族達は願ったが間者達は誰一人冗談だとは言わなかった。
重苦しい雰囲気が報告を聞いた部屋等に訪れる。
このときの貴族達の思いは1つになっていた。
もし下手に彼女に手を出せば様々な意味で身を亡ぼすことになる――――。
実はこれこそがメアリスの狙いの1つでもあった。
他国への牽制。下手にルハラ王国に手を出したらどうなるか、ユーリという人物に手を出したらどうなるかを知らしめるためにメアリスはユーリをあの社交界に誘ったのだ。
表向きはサプライズという形にして。
ユーリを餌にした。とも言える。そこは申し訳なく思うが他国の貴族達はその餌にまんまと食いついてきた。
そうなれば後は簡単だ。情報を素早く統制して幾らかわざと他国に流すだけ。
これで他国の者達はルハラ王国及びユーリ達に手を出しにくくなる。
万が一ユーリ達に手を出そうものならそれはルハラ王国へ宣戦布告したも同然だと感じる筈だ。
「これでオーディンス聖国もそう簡単には動けなくなったでしょう」
メアリスの呟きに彼女の専属のメイド・マーガレットが反応する。
「姫様、何かおっしゃいました?」
「なんでもないわ」
「そうですか」
「ええ」
メアリスは微笑み、マーガレットが淹れてくれた紅茶を受け取って一口飲む。
そしてコーネリアが出版した本を開くとメアリスは小さく微笑んだ。
「わたくしも守れたかしら」




