05.心の解放
異世界に行けば美少女になれる?
私も行く!! それが無くても行きたいなぁとか思う今日この頃です。
現実逃避。
覚悟を決めて私は姿見鏡に自分の顔を映そうとしていた。
あの後色々なことをシンシアさんから聞いた。
私が異世界人であることを明かして。
だってそうしないと話が進まないって思ったから。
それにシンシアさんにアメリアが懐いていて、だからこの人は信用出来るってそう思ったんだ。
怪我も治してくれたし。
だから全部話した。そしたらシンシアさんもアメリアも驚いていた。
「魔法のない世界なんてあるのかい!」
シンシアさんにそう言われて。
その代わりに科学という別の分野が発展していたことを話そうとした。
でもその前にそう言えば何故か言葉が通じることを不思議に思ってしまい・・・。
「そう言えば異世界なのにどうして言葉が分かるんでしょう?」
問うとシンシアさんは暫く黙りこみ、その後仮説を話し出した。
「これは仮定の話になるんだけどね」
異世界転移。
私が地球から来たならばその逆もあり得るのではないかという話。
例えばこの世界<アイリスというらしい>から地球に転移した者がいるのでないかと。
それが森守人で私の先祖だったりするかもしれない。
多分直近ではなく相当遠い先祖。
私は先祖返りにより耳が長く生まれた。
地球にいればそれだけで終わっていたのかもしれない。
けれど言わば故郷に戻ることになり森守人の血が活性化した。
転移中の頭痛は恐らくそれのせい。
その証拠に私は無意識で魔法を使っているらしい。
森守人はどの種族よりも魔法の扱いが上手い。
他の種族が構築やらなんやら面倒なことを頭の中で考えないと魔法が発動しないことに対して森守人は息をするように魔法を発動させることが出来る。
だから私も・・・。
「でも魔法なんて私」
「今の言葉が分かるのも言語理解っていう魔法のおかげだよ」
息を飲んだ。
シンシアさんの話はまぁ荒唐無稽な話だけどここまでくると筋は通っているような気がする。
後、何故かしっくりくるんだ。
こういうのなんていうんだっけ? <デジャヴ>だっけ? それを感じるんだ。
気のせいだと思うけど・・・。
まぁそれはそれとして森守人。私は向き合わないといけないのだろう。
シンシアさんを真っすぐに見て尋ねる。
「森守人ってどんな種族なんですか?」
森守人族とは森に住む亜人族。
特徴としては人族よりも耳が長く、寿命が長い。
そして一般的に女性、男性共に容姿端麗なものが多い。
生まれてから成人と呼ばれる15歳 或いは 20歳までは普通に歳を取るが以降は見た目がそのまま停止して次に老化が始まるのは寿命を迎える50年前から。
森守人族と一口に言われるが正式にはハイエルフ、エルフ、ハーフエルフ、ダークエルフに枝分かれしている。
ハイエルフ > エルフ > ダークエルフ > ハーフエルフの順で耳が長く寿命が長い。
ハイエルフの寿命は凡そ1000年前後、エルフ・ダークエルフは300~400年、ハーフエルフはエルフの血が強いか、逆にそれ以外の血が強いかにもよるが凡そ200年前後。
この中では私はハーフエルフに当たる筈だがどうも耳の長さが限りなくエルフに近く、変異種か何かかもしれないとシンシアさんに言われた。
「ふむ」
ついに姿見鏡に顔を映した。
「えっ? これが――――私?」
まず顔。
透き通った翠玉色の美しい瞳。ぱっちりとした二重瞼。細めの眉毛、長い睫毛。
鼻は小鼻ですっと鼻筋が通っている。
ピンク色の小さな唇は驚きで軽く開いている。
そしてやはり特徴的な長い耳。
胸の辺りまで伸びた青みがかった銀色の髪が体の振動を感知して軽く揺れる。
1つ1つ、女性の理想とするであろう顔のパーツが小顔の中に綺麗に整っている。
北欧系美少女と日本人美少女の良いところを全部合わせてその後割った感じの顔の造形。
どう見ても美少女。
「はわぁぁぁっ?」
女性としてそれはどうなの?
そんな言葉が口から洩れる。
なんで??
私はこんな美少女ではなかった。
地球にいる間は長年の暴力により見れた顔では無くなっていた。
瞳の色も髪の色も違う。私の瞳は日本人らしく黒に近いブラウンで髪は黒だった。
「・・・・・」
自身に見惚れてしまう。
もしかしてこれも世界を渡ったことによる影響なのだろうか。
それとシンシアさんが怪我を治してくれたことにより初めて明らかになった、もしかして私本来の。
暫くして"はっ"となり、自分の体を見下ろしてみる。
制服姿。時期的に白のブラウスにスクールセーターと紺のスカート、黒のソックスと同じく黒の革靴を履いている。
身長は目線の高さから言って多分変わってない。148cm 残念ながら凹凸の凸も相変わらずの控えめ。スレンダー体系。
凸、これも何かの影響で出れば良かったのに。そのままだったよ。くそー。
それはそれとしてスクールセーターとブラウスの袖を一緒に捲って肌を見る。
現れたのは色白で滑らかな肌。
傷がない。一生治らないと医者に言われていた傷が。
あっ・・・・・。
私は自分が嫌いだった。
だから私は自分のことを見て見ないフリをしていた。
覚えているだけで少なくとも5年位前からこれまでずっと。
シンシアさんに治療を受けている最中もその後も。
今日久しぶりに私は私と向き合った。
溢れる涙。ずっとずっと諦めて達観するフリをして押し留めていた感情が溢れ零れる。
私だって女の子だ。傷を体に残されて平気でいられるわけがない。
痛かった。辛かった。体もだけど何よりも心が悲鳴を上げていた。
それでも誰にも気付いてはもらえなくて。
むしろ気付いても鬱陶しそうな顔をされて虐待・苛めが酷くなって。
助けを求めて痛い目に合うならと私はいつからか心を殺した。
「うっ、あっ・・・。うっ、うううっ・・・」
立っていられずにその場に座り込む。
一部始終を黙って見ていたアメリアが私に寄り添ってくれる。
《お姉ちゃん、ボクがいるよ》
今、そんな優しい言葉をかけられたら。
私は堰を切ったように泣き続け、いつしか泣き疲れてアメリアを枕にして眠りに落ちた。
◆
少女が眠りに落ちた後。
老婆・シンシアは手に石板を持ち、少女の手をそっとその石板に乗せていた。
これはシンシアが老婆と呼ばれるにはまだもう少しだけ若かりし頃、研究に研究を重ねて生み出した代物でその人の魔力量や性質などを数値・文字によって現すことの出来る魔道具。
まだ一部の機関にしか広まっていないそれは平成や令和に生きる日本人が見ればスキル・鑑定と同程度の魔道具と見るだろう。それで合っている。この世界にはスキル・鑑定というものがないのだ。
「寝ている間に盗み見ること悪く思わないでくれよ。住居を提供している以上、あんたの本質を知っておく権利があたしにはある筈だからね」
石板が淡く青に光る。
それを見てとりあえずは胸を撫でおろすシンシア。
「まぁ悪人ではないことは分かっていたけどね。世間知らずのお嬢さんって感じだったからねぇ」
シンシアが小さく笑うとそれを見てアメリアが頷く。
「あんたもそう思ってたんだね」
アメリアのその様子に皺を深めるシンシア。
石板に目を戻すと丁度浮かび上がる数値と文字。
「どれどれ」
シンシアはそれを見て唖然となってしまった。
目を見開き、口が開いたままとなる。
「こりゃあ・・・」
思わずの呟き。
シンシアは片手で顔を覆い、石板の鑑定結果に空・天井を仰いだ。
悠里「これが私。なんという美少女」
シンシア「あまり自己愛が過ぎると引くから程々にしな」
悠里「だって今まで私、ずっとずっと顔とか傷だらけで崩れてたんですよ? だからこんな綺麗な肌だけでも嬉しくて」
シンシア「・・・そうかい。余計な事言ったね。気の済むまで鏡を見てて構わないよ」
悠里「ありがとうございます」
シンシア「ああ」
悠里「あ! 次回 ステータス公開。私の秘密がまた一つ明らかに」
悠里「お仕事終わり。さて、もうちょっとだけ感動続けたい」
シンシア「女の子だね」
アメリア「お姉ちゃん、可愛い」