3-03.お屋敷
「うむ。これでこの依頼が終わったらお前達はAランクハンターだ」
はっ? どうしてそうなるんだーーーーーー!?
私はギルドマスターに嵌められた。
彼が言うには今回の依頼は将来的に国を守ったのと同義。であればランクを1つ上げる程度の勲章がそれを行ったハンターに与えられるのは当たり前。むしろそれだけでは足りない。なのでその足りない分の補填は後程考えるとしてランクアップはさせるというというのが彼の言い分。
「それならこの依頼は」と言いかけたところ「サインしたのに今更断れないぞ」と先に言われた。
逃げ道塞がれた。私達に依頼する意味・真意を見抜けなかった私のミスだ。
がっくり項垂れる。大人怖い。まさかこんなことになるなんて思わなかった。
さてどうするか。ううん、どうするかもこうするかもこうなったら開き直るしかない。
報酬を少しでも多く分捕るんだ。腹を決めた私は無茶苦茶なことをギルドマスターに言う。
「それならこの王都に家が欲しいですね。国のハンターになるなら拠点は必要だと思うんですよ。いつまでも宿屋暮らしはちょっと。こちらもお金が持ちませんし。ギルドで用意してくれますか?」
断られたら断られたで「それなら今後のことを考えると無理なので」とでも言って依頼をなかったことにしてやろうという腹積もりだった。
しかしギルドマスターは私のその腹黒発言を始めから予測していたのか?
「ならいい物件がある。元子爵の爵位持ちが住んでいた屋敷なのだか奴は人身売買に手を染めていたのが発覚してな。爵位と屋敷は没収。そのせいで今はあの屋敷は空き家になっているんだ。本来ならそういう物件の管理はコマースギルドが行っているんだが、今回ハンターが駆り出されたことでギルドへの報酬代わりにうちが預かっていたんだ。それをお前達にやろう。どうだ? 悪い話ではあるまい?」
そう言って"ニヤニヤ"笑うギルドマスターが憎い。
まるで何もかも見透かされてる・最初から予定されていた。みたいじゃないか。
手の平で踊らされるってこういうことを言うんだろうなぁって実感してる。
やられた。完全に私の敗北だ。諦めよう。
「その屋敷見学に行くことは?」
「ああ、構わないぞ。ナナリー」
ギルドマスターが先に私をギルドマスターに取り次いでくれた受付嬢さんを呼ぶ。
どうもナナリーさんって受付嬢さんはギルドマスターの秘書っぽい仕事もしているみたい?
"コンコンッ"と扉を三度叩く音が部屋に響く。
「入って来てくれ」
ギルドマスターの声の後、開く扉。
「何か用事ですか?」
「ああ、例の屋敷あっただろう。こいつらに紹介してやってくれ」
「ああ、あれですね。はい」
ナナリーさんの笑み。それとギルドマスターのしてやったりな笑み。
私は2つの笑みを受けながらこの部屋を退室。
ナナリーさんと共に屋敷を紹介してもらうことになった。
結論から言えば屋敷はかなり良い屋敷だった。
建物自体もさることながら立地も貴族街というにはやや離れ、平民街と呼ぶにはそれはないと言える場所。商店街から割と近い。かと言って煩くもなく、程々に人の声が聞こえる場所。ナナリーさんに皆が泊ってる宿に寄ってもらって全員でここを見学に来た私達は全員一発で気に入り、満場一致でここをギルドからもらうことが決まった。
「よし! じゃあお仕事成功させないとね」
私の言葉にアメリアが続く。
「ユーリはボクと一緒の部屋ね。皆は好きにしていいよ?」
あれ? 屋敷の主人はアメリアかな? その言葉を誰も否定しない。
どうやら私の部屋は決まったらしい。
私の意志は? なんて言わないよ。私もアメリアと一緒が良かったし。
楽しみだなぁ。一つ屋根の下でアメリアと。
うんうん、なんだか俄然やる気が出てきた。
ふと思う。
ここを足掛かりにかつてやりたいと思っていたことを始めるのもいいんじゃないかと。
幸い近くに離れがある。そこを改造して飲食店にして近代日本の料理を売る。
前も言ったけど勝算はあると思ってる。
問題は従業員だ。私達がしてもいいけど、私達はハンターだ。ずっと飲食店にかかりっきりにはなれない。出来れば専門として働いてくれる人を雇いたい。
・・・・・とは言っても。
「まだ先の話か」
私の独り言にアメリアが反応する。
何も言わず手を握ってくれ、私に微笑んでくれて私は・・・。
あぁ、やっぱり大好きだなぁって。温かい気持ちになって。
私はアメリアにとびっきりの微笑みを返した。
ギルドで手続きを終えて、なんと屋敷はその日から使わせてもらえることになった。
ただ屋敷内も外も衛兵とハンターとかつてのこの家の者が揉めたからだろう。
割と傷などがあったりする。修繕のため大工を雇いますか? とナナリーさんに聞かれたけど断った。
魔法でやったほうが速い。元手もそんなにはかからないし。トアと2人で木工屋さんに赴く。
幾らか木を購入。これが私達の元手。スノーに仕舞ってもらって屋敷へ戻る。全員がそこで待っている。
私とトアは先程仕舞ってもらった木をスノーに取り出してもらって作業開始。
トアは柱などの木を担当。私は壁などそれ以外の部分を担当。
買って来たものと元々そこにあるものを木魔法と土魔法を使用して加工して修繕していく。
魔法って水などを無から生み出すって思われてる節があるけどそうじゃない。
最低でも魔素並びに魔力は使用している。
例えば炎は魔力を炎という形に変えて空気中の魔素に着火させて酸素を使って炎魔法としている。水なら水蒸気を使ってるし、土なら地面の土を使っているのだ。
世界全体が魔法の元って考えたらいいと思う。
僅か数分で屋敷の修繕は終わった。
手を高く上げてトアに差し出す。
トアは最初戸惑っていたけど、「同じように手を出して?」と言えば出してくれてハイタッチ。
「お疲れ様」
『え・・・、ええ。リリーもお疲れ様』
「やりたかった物事が上手くいったり、重大な仕事が終わったりするとその喜びを表現するためにこうするの。どう?」
『そう。ふふ、それはとてもいい文化ね』
そう言って笑うトアは可愛かった。
また近々手を借りると思うから終わったらまたしようね。
修繕が終わったら部屋決め。
この屋敷は二階建て。私とアメリアは二階の角部屋をもらった。
「ここにユーリを閉じ込めて・・・」
「嫌じゃないけど、出来れば外に出たいな?」
「冗談だよ」
なんだ冗談かぁ。少し監禁生活って辛そうだなって考えちゃったよ。
アメリアは相変わらず冗談が上手いなぁ。今回も本気の声に聞こえたもん。
「・・・・えへへっ」
えっと、意味深な笑みもよくするよね。私が勝手に深く考えてるだけかな?
ん? アメリア何? 今度チョーカー買いに行こうねって?
うん、分かった。けどなんでチョーカー?
「ユーリはボクのもの」
まぁ、良く分からないけどいいか。
私はアメリアに抱き着く。
じっと見つめあい、キスをして、笑いあって。
それから私は軽く部屋を見まわして呟いた。
「家具揃えなくちゃだね」
ベットとかそのまま残ってるけど、ちょっと気分的に使いたくない。
既存のものは全部処分。新しく始めようー。




