3-02.トロールの真実
学園を追い出された私はすぐさまハンターギルドに向かい、そこで受付嬢さんに事の経緯を報告。
ギルドマスターに取り次いで欲しいと頼んだところ許可が下りたので私はギルドマスターと対面している。
先程の受付嬢さんが出してくれたお茶を遠慮なく啜り、茶菓子もいただく。
結構美味しい。何処のお店のだろう? 後で受付嬢さんに聞くことを頭にメモする。宿で待ってる皆にお土産として買って行こうと思う。これなら喜んでくれる筈だ。
ん~、しかしソファ良い座り心地。まったりしちゃうね。
「・・・ユーリ」
冷たい視線を感じる。降ってきた言葉も棘がある。はて? 私、何か悪いことしたかな。
礼儀正しくお茶にお茶菓子にいただいたつもりだったけど。
「えっと、マナー違反とかありました?」
首を傾げて聞いてみる。
ギルドマスターは深々と大きな大きなため息を吐く。
「幸せが逃げますよ」と言ったら「大きなお世話だ」と怒られた。
何をそんなに怒ってるんだろう。カルシウム不足かな。
「お前、何しにここにきたんだ? お茶を飲むためか?」
何ってそれは・・・。トロール。あ! しまった。お茶が美味しくてついのほほんとしてしまってた。
「申し訳ありません」
立ち上がってギルドマスターに頭を下げる。
何やってんだろう。私。この部屋過ごしやすくて目的見失ってた。
私が悪い。でもギルドマスターは許してくれた。
「まぁいい、座れ」
促されて再び着席する。意外と寛大な人だ。ずるい人だけど。私が学園に通ってた頃のことはまだほんの少し根に持ってるからね。
「お茶のお替り出ませんか?」って言ってみたらギルドマスター自ら淹れて出してくれた。優しい。
「で? 何の用だ?」
2人でお茶をいただいた後、話が始まる。
私は順序立てて話していく。新しい学園に臨時講師として誘われたこと、そこで提示された内容のこと、それからトロールのこと。
「トロール?」
ギルドマスターの訝し気な顔。
私の言葉を疑っているのだろう。無理もない。王都に魔族が入り込むなどあってはならない。
以前の襲撃後からこの王都は要塞のようになった。
にも拘わらず今回の騒ぎだ。信じたくないのも仕方がない。
「はい、トロールが学園長に化けていました。早く討伐しないと手遅れになります」
鼻息荒く討伐隊を出すことを進める。
ギルドマスターは右手で顔を抑えてまたため息。
「幸せが逃げ・・・」
「それはもういい。それよりユーリ、お前トロールって言ったな。あいつは正真正銘の人族だぞ?」
「え・・・」
そんな筈。そんな筈ない。意思疎通出来なかったし、あれは自分の立場を理解してもいなかったのに。
「揶揄ってるんですか?」
私はギルドマスターを睨む。
ギルドマスターは私にそうされて何故か笑んだ。
「お前こそ揶揄ってるのか? 確かにあれはトロールそっくりだが。・・・くく。トロール」
なんだろう。その笑いを見てると段々不安になってくる。もしかしてあれは本当に人族?
あれが? 私が知ってる人族と違う。私が知ってる人族はちゃんと意思疎通出来てた。
「でも意思疎通出来ませんでしたよ? あれは絶対トロールですって。トロール」
尚もしつこく食い下がる。トロールが余程ツボに嵌ったのか笑い転げるギルドマスター。
「トロール。ぶわっははははははははは。やめてくれ。連呼するな。笑い殺す気か」
「だってトロールはトロールじゃないですか。笑い事じゃないですって。ギルドマスター?」
「トロールはやめろ。死ぬ。ぶわはははははははははははははははははっ」
「・・・・・」
ギルドマスターが落ち着いたのは、それから5分程度過ぎてからだった。
「ハァ、ハァ、そうか。話は分かった。貴族連中が手をまわして奴を学園長に担ぎ上げようとしていたのはギルドも動向を掴んでいたが。すでに手遅れになっていたとはな。ユーリ、頼みがある。お前・・・」
「トロールの討伐なら引き受けますよ?」
「・・・ぷっ。コホンッ。違う。討伐ではなく、乗っ取りだ。お前達[[紅の絆]]全員で学園を乗っ取って欲しい。暴力ではなく内政でな」
「乗っ取り・・・ですか」
「ああ」
どうしよう。ギルドマスター直々の依頼と言えど断りたい。そういうの苦手だ。正直どうしたらいいのか分からない。
私の顔に不安の色が出ていたのだろう。ギルドマスターはその不安を少しでも消させようとして私の頭を撫でようとし、しかし途中でやめる。
失礼ながら警戒心を隠すことなく外面に出した私のせいだ。
どうも男性は得意じゃない。地球の物語でたまに男性が苦手な筈の女性が「誰々君なら大丈夫みたい」なんていうのがあるけど、あれは現実ではあり得ないって言いたいかな。小麦アレルギーなのに「パンなら食べれる」って言ってる感じだよ。一応言っとくけど米粉とかで作ったとか、小麦を使ってないパンもあるとかそういうことじゃないからね?
「すまん。どうもうちの娘を見ているような感じでな」
謝ってくれるギルドマスターは誠実な人だと思う。
それでも私はどうしても受け入れられない。
「申し訳ありません」
謝ることしか出来ない。
ギルドマスターは苦笑する。
私の頭を撫でるため前のめりになっていたその大きな体を戻してソファに"ドカリッ"と座り込み。
「難しく考えなくていい。あそこはハンターを養成する学園だ。要は力を見せつけてやればいいのさ。剣に魔法に知識。剣はアメリアとコーネリア、魔法はお前とラナ、知識はアンナと・・・なんて言ったか? トアだっけか? あの娘が担当したらいい。それぞれお前らの実力を見たら教師共も生徒も黙るだろう。最も生徒のほうはすでに知ってる者が殆どだと思うがな。推薦状はこちらが学園に送っておいてやる。なぁに任せろ。これでも俺はハンターギルドのマスターだ。学園側も迂闊なことは出来ないだろうぜ。何せギルドの顔に泥を塗るってことはそれ以降守られなくなるってことだからな」
確かに。ハンターギルドからそっぽ向かれたらいかに貴族と言えど終わりだ。
盗賊・魔物。この世界は脅威となる者が多い。それらすべてから守ってもらえなくなるのだから。
そんなギルドが後ろ盾になってくれるならなんとかなるだろう。
この依頼は受けてもいい。・・・かもしれない。
「話は分かりました」
「なら受けてくれるな?」
「はい」
「そうか。なら」
ギルドマスターはその場で羊皮紙に依頼を書く。
そしてそれにサインをするよう言われ言われるがままサインする私。
あれから自分達の名前と簡単な単語くらいは書けるようになったのだ。
私だって成長してるんだよ。
サインを終えたらギルドマスターに依頼書を返す。
そこでギルドマスターは爆弾を落とした。
「うむ。これでこの依頼が終わったらお前達はAランクハンターだ」
はっ? どうしてそうなるんだーーーーーー!?




